05.21
2013年5月21日 眼鏡
のレンズが、突然ポロリと落ちた。外回りの仕事から戻って事務所に入り、眼鏡を掛け替えた瞬間だった。
といっても、私のことをご存じない方には、正確な理解はできかねるだろう。よって、眼鏡に限定して、私の私生活をご説明しておく。
私は本日現在、5本の眼鏡を所有している。目は2つしかなく、一時にかけられる眼鏡は一つであるというのに、異様な数である。
外出時など、日常的に掛けているのは遠近両用眼鏡である。川崎和男デザインのフレームだ。川崎氏は下半身不随の工業デザイナーで、様々な大学で教授も務める。「パワー・マック」という雑誌で氏に出会って直ちに創作物に惹かれ、以来、高い尊敬を捧げ続けている方である。その彼のデザインになる眼鏡フレームが、ここ桐生の眼鏡屋さん「めいしゅう」に置いてあり、喜び勇んで買い求めたものだ。
その「めいしゅう」に勧められて買い求めたのが中近両用眼鏡だ。遠近では、パソコンのディスプレーに向かうときに、どうしても顎が上がる。これは構造上仕方がないことで、
「だから、屋内では中近がいいのです」
と説得された。
3本目は、単なる老眼鏡である。これは、入浴しながら本を読むとき、布団に入って本を読むときに使う。焦点が単一なので、読書にはもってこいだ。
これだけですべての用は足せるのだが、さらに2本ある。
1本は、やはり「めいしゅう」で購った遠近両用眼鏡だ。同時に購入した度付きサングラスが5本目である。
この遠近両用眼鏡を、スーパーに買い物に行って落としたのが、川崎デザインの眼鏡を買うきっかけだった。
「眼鏡を落とすものか?」
まっとうな問いである。ご説明しよう。
その日は快晴の暑い日だった。私は度付きサングラスをかけてスーパーに赴いた。が、屋内に入ってまでサングラスを身につけているのは何だか嫌みである。と考えて、首に巻いたストラップに、この遠近両用眼鏡をぶら下げていた。店内で掛けるためである。ところが、いざ、スーパーの店舗内に入ろうとして眼鏡を掛け替えようとしたとき、なかったのである、遠近両用眼鏡が。
まだ若くて眼鏡に縁がない方にはおわかりいただけないかもしれない(かつては私もそうであった)が、目が悪くなって、眼鏡のない暮らしは途方もなく不便だ。
眼鏡をなくしたことに気がついた私はスーパーに電話をかけ、出てきたら知らせていただけるよう手配はした。手配はしたが、暮らしの不便さは変わらない。1日は堪え忍べるかもしれない。が、2日、3日となると……。
「しょうがない。もう一本つくってくるわ」
その日の内に「めいしゅう」に行き、新しい眼鏡を発注した。こうして手にしたのが川崎デザインであった。
それだけなら、後はつまらない話になるのだが、なんと翌日、落とした眼鏡が見つかったのだ。スーパーの駐車場に落ちていたのだという。
こうして私は、5本の眼鏡の所有者になってしまった。
というのが前提である。
で、本日フレームが壊れたのは、中近両用眼鏡、自宅にいるときはかけっぱなしの眼鏡であった。えっ、と思ってよくよく見ると、レンズを取り囲んでいるフレームが1カ所、破断している。これではレンズを支えることはできない。
「おいおい、このフレーム、チタンだとかいって、かなりの金を取られたよな。曲げたり伸ばしたりするところが切れるのならまだ理解可能だが、動くはずのない、レンズを固定する部分がどうして破断するわけ?」
むらむらと怒りが沸き起こる。が、いくら怒ってみても眼鏡が正常に戻るわけではない。正常に戻ってくれないと、これから事務所でやろうとしていた事務作業ができないのである。
「おい、瞬間接着剤あるか?」
妻女殿にお伺いを立ててみた。ない。であれば仕方がない。とりあえず、セロテープで固定した。かけてみると視野の一部にセロテープ部分が入る。不快である。
今日は火曜日である。明日は水曜日。桐生市の商店のほとんどが閉じる日である。
「俺、眼鏡直してくるわ」
午後4時過ぎ、それからやろうと思っていた作業をすべて放り出し、「めいしゅう」に向かった。
「で、セロテープでとりあえず固定したんだけど」
「正解です。瞬間接着剤ではくっつかないし、それだけではなく、レンズが溶けちゃいます。よくぞセロテープを思いついていただいた」
「直る?」
「無理です」
「どうせ、度も合わなくなってきたから、レンズは取り替えようと思っていたんだけど、レンズを新しくすると時間かかるよね」
「1週間ほどは」
「その間が問題なんだよ。この中近眼鏡がないと暮らせないんだ。何とかならない?」
読書用の単焦点眼鏡と、中近眼鏡のレンズは取り替えることにした。新しい中近眼鏡ができるまでの間は、壊れた眼鏡に入っていたレンズを、新しい激安フレームに入れて使うことにした。実は今も、その激安フレームをまとって、この原稿を書いている。
単焦点眼鏡はレンズだけ取り替え、フレームはそのまま使う。中近眼鏡は、スーパーで落として以降、川崎デザイン眼鏡に席を譲って出番のなかった眼鏡のフレームを活用する。
ということで、新しい中近眼鏡のレンズは1万5750円。
「単焦点のレンズはいくら?」
と聞いたら、
「大道さん、いい日に来ましたね」
と店主に言われた。
いい日? 一つ買うともうひとつはただになるとか?
「明日は22日ですものねえ」
店主は、私のカルテを見ながらいった。ん? 22日? 5月22日? いかん、俺の64回目の誕生日だ!
「はい、単焦点レンズの方は、誕生日プレゼントということで」
持つべきものは良き友である。
しかし、私の友と自称する方々、そういえば何も送ってこないなあ、今日になっても。
明日は沢山プレゼントが届くのかな?
64回目なんて、嬉しくも何ともなく、できれば忘れていたい。そうか、私の友を自称する方々も、私に倣って忘れているのか。
でも、それって……。