2014
05.24

2014年5月24日 快哉

らかす日誌

本日ただいま、私は心の内で快哉を叫んでいる。
何故口に出さないのかと?
パソコンに向かった姿勢でそのまま60度ほど顔を上向けると、電波式壁時計がある。それを見ると、ただいま午後10時5分52秒。いくら屋内とは言え、咆哮をあげようものなら近所の人が110番しかねない時間である。

私は周囲の状況に限りない気配りをしつつ生きる男なのである。

快哉の原因は何か。
我が家の通信環境が劇的に改善したのである。

発注したNEC製の無線LAN機器、Aterm WG1800HP/Eが届いたのは昼前だった。しかしその時間、私は50枚の落語(古今亭志ん生)CDのリッピングと、すっかり貯まってしまった録画済みブルーレイディスクの整理に追われて、見向く暇もなかった。
昼食を終えると、どういう訳か土曜日なのに仕事があり、車で出かけた。戻ったのは午後5時半。残ったCDリッピング作業を再開すると、すぐに入浴、夕食の時間となった。

が、注文したものが届けば、まずは中身を確かめたくなるのは人情である。入浴する前に開封だけし、説明書にざっと目を通した。

「ん? これ、俺一人でできるか?」

私、これまでの日誌をお読みいただければおわかりの通り、通信、無線、ネットワークなどの分野には丸で知識がない。説明書を読んでも、日本語であることが分かる程度の知識しかない。

入浴を終え、休肝日の味気ない夕食を済ますと、どれほどちんぷんかんぷんの説明が書いてあろうと、とりあえずは、新しい無線LAN機器の設定に入らねばならない。
何しろこれ、目的があって2万5000円も払ったのである。飾っておくだけでは何の役にも立たない。2万5000円を溝に捨てたようなものである。働かせるには、我が家の環境で働くということを、この機械に理解させなければならぬ。

「何々、つなぎ方ガイドだと」

1)親機にスタンドを取り付ける。
——うん、この程度なら苦もなくできる。

2)パソコンの電源を切る
——えーっ、何で? 無線機器の設定をするのに、どうしてパソコンの電源を落とすの? 小さな字で、「パソコンをブロードバンドモデム(CATVモデム、ONUなど)に接続している場合はETHERNETケーブルをパソコンからはずします」とある。
早くも意味不明である。ONUって何? 電源を落とすの? LANケーブルを抜くの? 両方やるの? 何故?
要は、電源の入ったパソコンにケーブルが刺さったままでは困るということなんだろ? と解釈して何もせず。だって、我が家のパソコンは無線でインターネットにつながっているもんね。 

3)ブロードバンドモデム(CATVモデム、ONUなど)の電源を切る。 
——了解。

4)親機のWANポートとブロードバンドモデム(CATVモデム、ONUなど)のLANポートなどを接続する。
——意味不明のWANポートに目を瞑れば、これも簡単だ。

5) ブロードバンドモデム(CATVモデム、ONUなど)の電源を入れる。
——はい、入れました。

6)親機の電源を入れ、約40秒待つ。
——スムーズに来てるぜ。

7)親機のPOWER、WANランプが緑点灯し、2.4Ghz、5Ghzランプが緑点灯(または緑点滅)する。

7)まで来たら正常らしい。幸いなことに、ここまでは一直線できた。迷ったのは、2)だけであった。

「なんだ、意外に楽ちんじゃないの」

そう、途中までは楽に進んだのだ。子機との通信設定も問題なくクリア。となると、こちらの気も緩む。問題は、得てしてそのようなときに起きる。

無線LANの機械が親機と子機で通信をするのは当たり前である。そのために子機もセットで買い求めたのだ。さて、次はこの通信環境に、我がiMacにも入ってもらわねばならぬ、さて、どうすればいいのか。取扱説明書をめくると、クイック設定Webを使えとあった。はい、使いましょう。

まず、我が家のネットワークのアドレス体系を確認しろ、とある。アドレス体系? 何じゃ、それは?

続いて、ブラウザを起動し、アドレス欄に「http://X.Y.Z.210/」と入力せよ、というのが取扱説明書の指示である。素直な私は、指示通り「http://X.Y.Z.210/」と入力してリターンキーを押した。

「サーバが見つかりません」

という返事が戻ってきた。

「何でだよ! 俺、指示通りやってるよな」

難度繰り返しても、戻る返事に変わりはない。おいおい、指示通りにやってるのに、何処が気にくわないわけ?

ともすればめげそうになる気力を奮い起こし、再び取扱説明書を食い入るように眺めた。すると、小さな字で「X.Y.Z.」はネットワークのアドレス体系です、とある。そもそもアドレス体系が何であるのか分かっていない私に、このような解説をして何の役に立つのだろう?
さらに読み進むと、「①で確認したアドレスが『192.168.1.3』の場合、『192.168.3.210』と入力する」と書いてある。ん? 「192.168.1.210」だって? どこかでみたような数列だぞ。
思い出した。我が家のネットワークプレーヤーは「192.168.1.6」という番号を割り振られているのである。そうか、ひょっとして、我が家のアドレス体系とは「192.168.1」のことか。
そう思って、入れてみた。見事にひらいたではないか、

「Aterm WG1800HPクイック設定Web」

来た来た、ここまで来た。

ここまでは、まあ順調だった。躓いたのは、次である。
次の画面は、パスワードを求めてきた。

ここは慎重に行かねばならぬ。パスワード、何度これで躓いたことか。
説明書に戻ると、この画面はパスワードが未設定の場合にでてくるとある。ということは、パスワードを決めねばならないわけだ。しかも、説明書に「管理者パスワード控え欄」という空白があり、私が勝手に作ったパスワードを記入するようになっている。

「そういうことか。よし」

その場で思いついたパスワードを入力し、先に進んだ。すると、ユーザー名とパスワードを求めてくる。解説書には、ユーザー名は「Admin」、パスワードは先ほど自分で作ったパスワードと記載さて手いる。

間違いなく入力した。リターンキーを叩く。

「入力されたユーザー名かパスワードが間違っています」

そうかあ? 慎重にやったつもりだけど、間違っちゃった、俺? じゃあ、今度は間違わないように……。

「入力されたユーザー名かパスワードが間違っています」

おいおい、2度も続けて間違うかよ。最初は「A」だろ、次が「d」で、「m」を入れて、「i」のキーを押して、「n」でお仕舞い、と。続いて、パスワード、と。

「入力されたユーザー名かパスワードが間違っています」

私は絶望の淵にたった。しかし、ここでめげてはすべての作業、すべての金が無駄になる。
気を取り直して、再び説明書に戻る。

「管理者パスワードは、本商品を設定する場合に必要となりますので、控えておいてください」

控えたよ。控えたとおりに入力したよ。それでも動かないんだよ。

「忘れた場合は、設定画面を開くことができず、本商品を初期化してすべての設定がやりなおしになります」

忘れてないって。控えを取って正確に入力したんだって。それなのに、初期化しろだと! すべての設定が最初からやりなおしだと!! しかも、この文章、主語があっちに行ったりこっちに来たりの、典型的な悪文だぞ!!!

というわけで、それまで1時間以上の作業がすべて無駄となり、すべてを1からやり直した。その結果、不思議なことに2度目は設定画面をひらくことができた。
が、である。何をどう設定したらいいのか、皆目見当がつかない。
とにかく、基本設定だけで

IPアドレス自動補正機能
IPアドレス/ネットマスク(ビット指定)
固定アドレス
プライマリDNS
セカンダリDNS
WAN側Ethernet設定
LAN側ジャンボフレーム透過機能
LAN側Pause機能
メディアサーバ機能
メンテナンスバージョンアップ機能
ホームIPロケーション機能

とこれだけある。
ごく普通の暮らしをしていて、ここに並んだ言葉のひとつでも理解できる人がいるのか、はなはだ疑問である。私には、ひとつも理解できないのである。
理解できない以上、設定を変えるわけにも行かぬ。仕方なく、苦労して開いたページであるにもかかわらず、さっさと閉じてしまった。
基本設定は初期設定通り。設定画面を開くために流した血と汗は何のためだったんだ!?

ふっ、と肩の荷を降ろしたのはいいが、しかし、だったら我がiMacはどのようにすればこの無線LAN環境に派加わることができるのか? 分厚い説明書のどこに、手順が書いてある?

見つからない。ために、ここは考えた。ない知恵で考えた。
今我が家の中を、新しく導入されたAterm WG1800HPの電波が飛び交っている。問題は、わがiMacがどのようにしてその電波を掴むかである。であれば、iMac側からつかみにいけないものか?

システム環境設定からネットワークを選んだ。無線を使うため、AirMacを選ぶ。すると、おお、ネットワーク名に、なにやらAterm WG1800HPらしきものがあるではないか。そうか、iMacは新しく飛び始めた電波を認識だけはしているのか。であれば、後は仲間に加えてもらう許可を得るだけのはずである。

さて、そのつぎに何をしたかが記憶にない。ただ、目の前のボタンをクリックすると「WPAパスワード」なるものを求めてきたことだけは明瞭に覚えている。何じゃそれ? とネットで調べたからだ。無線LAN機器の暗号化キーとのことらしい。
早速入力して、現在に至る。つまり、わがiMacは無線でインターネットにつながるようになった!

ここまで来れば後は早い。
ろくでもない代物であったBUFFALOの無線LAN機器を撤去、Atermに入れ替えた。子機をネットワークプレーヤーのそばに運び、接続。iPadとiPhoneも新しいネットワークにアクセスできるようにしたのはいうまでもない。

すると何が起きたか。
iPadのプレーヤー操作アプリが生き返った。さくさくと操作出来る。
iMacとNASの接続が劇的に改善された。従来は、CD1枚分のデータのやりとりを試みても、途中で必ず接続が切れ、エラーとなった。ために、20mのLANケーブルも買った。新しい環境では、接続は切れない。ケーブル代返せよな、BUFFALO!
しかも。
データのやりとりが速い! 本日リッピングした落語のデータ、約10ギガを10分程度で送り終わる。
先日、LANケーブルで300ギガほどのデータを送るのに、丸24時間かかった。しかし、新しい無線LAN環境では10分の30倍、つまり5時間程度で作業が終わる計算だ。

以上が、快哉の理由である。
大枚2万5000円払って、

「2万5000円払って良かった!」

と快哉を叫ぶ機会に、我々は一生の間何度恵まれるだろうか? これを比するならば、素晴らしく見目麗しい彼女を食事に誘い、

「えーっ、2万5000円かよ。結構かかっちゃったな」

と軽くなった財布を嘆きつつ、でも、顔には出さずに

「これからどうする?」

と問いかけると、顔を少し赤らめた彼女が

「まだ帰りたくないの」

と小さな声で囁いた瞬間、
ではなかろうか。

素晴らしき哉、Aterm WG1800HP/E。


私は今日、大いに満足して、これから布団に入り、昨日読み始めた 

昭和天皇伝」(伊藤之雄著、文春文庫) 

を読むのである。 

しかし。だ。あのあたりで生きていらっしゃる方々の名前って、読めないね。 

貞愛=さだなる 
和子=よりこ 
愛子=なるこ 
節子=さだこ 
 
これを全部、正しく読めなくてはいけないとは。皆さん、難しい世界で生きていらっしゃる。