01.30
2015年1月30日 痺れる!
朝、目が覚めると、外は雪だった。
「天気予報通り、雪になったな」
と、すでに目覚めて台所でごそごそやっている妻女殿に声をかけると、
「降り始めたばかりよ」
とのことであった。
ちなみに、我が家では、目が覚めたばかりのどちらかが、もうひとりに向かって声をかけるのは希有のことである。
おおむね私が先に起きるのであるが、しばらくして目覚められた妻女殿は2階の寝室で
「ハーッ」
とか、
「フーッ」
とか訳のわからない雄叫びを上げられ、やがて着替えを済ませて1階に降りてこられる。この頃私は、前日録画された番組からコマーシャル部分を消したり、1週間先の録画予約をしたりで仕事に追われているのであるが、そんな私に一瞥をくれるでもなく、ましてや
「お早う」
などと挨拶をするでもなく、己の本拠地であるキッチンに向かわれる。
夫婦ふたり、無言の朝。さて、あなたの家庭ではどうなのだろう?
結婚した当初、いまと同じように朝の挨拶をまったくされない妻女殿に、
「俺が『お早う』といってるのに、何で返事をしない?」
とお伺いを立てたことがある。すると
「何といおうか、いま考えてんの」
とのお言葉があった。
考えてる? 普通、朝の挨拶をされたら、何も考えずに朝の挨拶を返すのが普通というか、当たり前というか、人の道というか。まあ、そのようなものではないか?
とは思ったが、こうして我が家からは朝の挨拶は消えた。というか、最初から存在しなかったのだから、不在が確定された。それなのに、何故か結婚生活はいまだに続いている。
いや、横道にそれた。
で、今日は朝から雪だった。天気予報が当たった。それでも、
「やっぱり雪なのかよ。困ったな」
というのが今朝の私であった。
みどり市のはずれ、赤城山東面の山あいの町(元は村だった。山あいにあるのは村の方が語感がいいのだが、いまは町になってしまった以上、仕方がない)東町まで、届けなければならないものがあったのである。
天気予報を見て、昨夕電話で
「雪がひどかったら週明けに持っていきますから」
と伝えてはおいた。が、届くと分かっているものは一刻も早く届いて欲しいというのが人情である。それが分かりすぎるほど分かる明敏な私だけに、困った。
が、とにかく喜んでもらうのが最重要である。次に重要なのは、私が喜んでもらおうと行動することである。
「まだ降り始めたばかり。とにかく、行けるところまで行ってみるわ」
妻女殿に言い残して家を出たのは午前9時前だった。
みどり市東町に行くには、いろいろなルートを取って、最終的には国道122号に出る。桐生市からみどり市を通り、筆耕に通じる山道である。
「さて、この雪の中、ノーマルタイヤのBMWで、何処まで行けるか?」
まあ、市街地では道路の雪はほぼ融けていた。これなら雨の日と一緒である。
様相が変わったのは、みどり市に入っていよいよ山道にかかってからだ。道路の左右がうっすらと白い。そればかりか、道路の中央線付近もやっぱり白いのだ。つまり、車が踏み込まないところろは雪が降り積んでいる。加えて、山にかかったら、雪の降り方が激しくなった。
本当に目的地にたどり着けるのか? 必要なのは情報である。
「申し訳ありませんが、これから東町の花輪に行きたいんです。道路と雪の状況はどうでしょうか?」
電話をかけたのはみどり市の東支所である。
「はあ、国道は大丈夫みたいですよ」
目的地は、国道122号から少し入らねばならない。
「じゃあ、とりあえず分かれ道まで行ってみますわ」
降りしきる雪の中、ノーマルタイヤのBMWを走らせた。いや、あの道で
「走らせた」
というためには、少なくとも自走70㎞/時以上の速度がいる。冗談ではない。そんな速度で安全が確保できるか? 普段の私に似合わず、愛車BMWは時速40㎞~50㎞をキープして山道を登った。
花輪に行く分かれ道までたどり着き、ハンドルを右に切った。
「えっ、この道を行くのかよ!?」
目の前に出てきた下り坂は、真っ白な雪で覆われていた。まあ、下り坂だから降りることはできるかも知れない。だが、帰りにこの坂道をノーマルタイヤで登れるか? 無理無理!
私は、直ちに車をUターンさせた。
Uターンを終えて考えた。
この雪の中、せっかくここまで来たのである。目的地まではもう1㎞もない。ここで引き返すのか? 何となならないか?
「すいません。国道からの分かれ道まで来たんだけど、坂道が雪に覆われていて、下るのは何とかなるかもしれないけど、ノーマルタイヤでは登れそうにないんです。何とかなりませんか?」
みどり市東支所に電話した私は、正直に言うと
「分かりました。そこまでお迎えに行きますから、少しお待ちください。お届け物なら、私どもが代わってお届けしますから」
という返事を期待していたのである。だって、お役人でしょ? 市民が困ってるんだもん。何とか助けてくれなくちゃ。
ところが、である。
「ああ、そうですか。でも、戻りは登らずに国道に出る道があるんで、大丈夫だと思うんですけどね」
ん? この雪で、大丈夫? しかし、そういわれてしまえば、私に選択肢はほとんどない。
「はい、分かりました。では、決死の覚悟でこの雪道に突っ込みますので」
車の向きを再び180°変えた。目の前に、雪で真っ白に色取られた下り坂が延びる。これを、ノーマルタイヤで降りる。頭の先から足の先まで、体のすべてがセンサーになったような緊張感! 車のハンドルを握って、こんな痺れる感覚はさて、何年ぶり、何十年ぶりか。
アクセルを踏む。車が動き出す。雪道では、「急」を避けねばならない。急発進、急ブレーキ、急ハンドルは御法度である。
その「急」を避けるため、ミッションをマニュアルモードに入れる。BMWは、普段はオートマチックで走ることができるが、その気になればマニュアルモードに切り替えて1速、2速、3速、4速、オーバートップと切り替えることができるのである。
マニュアルモードにして、絶対にブレーキを踏まずにすむ速度で坂道を降りる。1m、3m、10m……。
「えっ、雪はもう終わり!?」
30mほど進むと、呆気なく雪道が終わった。あとは両側にうっすらと雪化粧した黒い道路が延びている。となれば、雨の道とそれほどの違いはない。
「ふっ、助かった」
届け物をして、東支所に顔を出して「登らずに国道に出る」道を教えてもらい、無事に122号線に出た。ふーっ。
まあ、慎重に運転したこともある。しかし、我が愛車BMWは、降りしきる雪の中、一度もスリップせずに往復約50㎞の道を走破した。この車、結構雪道に強いのかも?
ハラハラ、ドキドキ。でも、久しぶりに面白いドライブをした。
という原稿を書いている途中、デジキャスで一緒だったキヤノンの連中から電話があった。四谷で飲んでいるのだという。
「大道さん、今度は東京で飲もうよ」
と、麻布学園出のH氏がいった。
「大道さん、パイオニアのネットワークプレーヤーを買うより、俺が作るネットワークプレーヤーを使ってみない?」
I君が言った。
楽しき友人たちである。近々、東京で飲むことになりそうだ。