08.01
2015年8月1日 東芝
の製品が嫌いなわけではない。
むしろ、どちらかというと好きな方である、と思っていた。確かに、野暮ったい。野暮ったいが、見た目ばかりチャラチャラしている他社の家電製品に比べて、性能でも、使い勝手でも、耐久性でも上を行く。長く使うから、自然に愛着がわく。それが、東芝のイメージだった。
だから横浜の我が家には、東芝製のツイン・ロータリーエアコンがいくつもあるし、前に書いたように桐生で使う冷蔵庫も、テレビも東芝。掃除機だって、Dyson、Roombaと並んで東芝製が現役だ。
だが、東芝は大きく変質してしまったのではないか?
いや、東芝のアホ幹部どもが、我が身可愛さに不正経理、利益の水増し問題を再びあげつらおうというのではない。暮らしの実感の話だ。
「冷凍庫がおかしいんだけど」
妻女殿が、事務室で作業中の私に声をおかけになったのは本日昼前後のことであった。冷凍庫に入れておいた冷凍食品がグズグズになり、アイスクリームなんかは溶けちゃったのだという。
「おまえ、また設定を変にいじったんじゃないのか?」
口には出さずとも、我が妻殿の機械音痴ぶりは身にしみている関係上、このようなときにはそう思う私になってしまった。
だから、無言で台所に行く。冷凍庫を開けて中の食品にさわる。たしかに全部が冷凍状態を脱し、冷蔵状態にある。アイスクリームはベチャベチャだ。
冷凍庫の設定を見る。5段階の3。それなら問題はないはずだ。とすると、妻殿の操作が原因ではないらしい。念のために設定を5にまであげ、
「中身はもうひとつの冷凍庫(エレクトロラックス=小型冷蔵庫とだと思ってネットで買ったら、送られてきたのがこれだった。が、意外に重宝している)に移し、少しだけ残せ。その上で夕方まで様子を見よう」
その夕方、
「やっぱり冷えてないみたい」
私が見ても冷えていない。どう見ても、どこかがおかしくなっている。東芝の故障対応窓口に電話をした。
まず、エラーコードの出し方を教えていただいた。その程度のこと、取扱説明書に書いておけばいいのに、と思うが、書いてないのがいまの東芝である。
「ああ、それが出ましたか。それは、冷媒が洩れているというコードです。修理が必要ですね」
ま、窓口の男性としてはマニュアル通り、ごく当たり前のことを話したのに違いない。
ところが、私はラディカルである。物事を原理原則にさかのぼって考える質だ。だから、この対応に、プツンと切れるところがあった。
「ほう、ということは、今は何を使っているのか知らないが、昔で言えばフロンガスが漏れているわけだ。そういう理解でいいですか?」
「はい、その通りです」
「そうですか。ということは、パイプなのかパイプの継ぎ手なのかは分からないが、どこかに穴があいているわけですね」
「はい。そうだと思われます」
「つまり、冷蔵庫の基本的なところが、わずか5、6年で壊れちゃったわけだ。あのね、うちの冷蔵庫は車と違って動かないんだよね。ガタガタ道を走るわけでもない。車の配管に穴があいたり、継ぎ手が外れたりするのは走行状態によってはあり得ることでしょう。でも、じっとして動きもしない冷蔵庫で、何でパイプや継ぎ手に穴があくわけ?」
「いや、そういわれましても……」
「じゃあ、言ってあげましょうか。冷蔵庫の機能の基幹部品に、わずか5、6年の稼働で故障がでるということは、パイプの曲げ方や配置の仕方に基本的な設計ミスがあったか、あるいはコストをけちって耐久性のないパイプ、継ぎ手を使ったか、その2つしか可能性はないんじゃないの?」
「……」
「言いたきゃないけどね、また、あなたに言っても仕方ないとも思うんだが、経理操作までして利益を積み上げようという東芝の体質から見ると、部品代をけちったとしか思えないよなあ。いや、この冷蔵庫の故障は、この短い時間の中で2度目で、1度目は修理に来た人が基盤を引き出してジャンプ線をハンダ付けしていた。あとでジャンプ線をハンダ付けしなきゃいけない基盤って、どう考えても設計ミスだよな。だから、設計ミスもあり得るんだが」
「……」
「で、どうしたらいいの」
「はい、私の方から修理を手配しますので」
「有料で?」
「お客様の場合は保証期間が切れておりますので」
「で、いくらぐらいかかるの?」
「3万円~5万円程度ですが……」
「そんなに!?」
「まず、お見積もりをさせていただいて」
「いつ来てくれるの」
「はい、それはこれから手配しますが、お見積もりをさせていただくのに、出張費が2000円と、お見積もりの費用が1200円かかります」
「おい、ちょっと待て。修理費用を見積もるだけで、あんたのところは金を取るの!」
「はい、さような規定になっております」
「ふざけるんじゃないよ! こっちは、東芝製の冷蔵庫に対する信頼度がゼロに落ちてるんだわ。修理費が5万円もかかるんなら、他社製の冷蔵庫に買い換えようと思ってるんだ。その判断をする基礎作業に3200円もかかるわけ?」
「はい、さようです」
完全に切れてしまった私は、そこで電話を叩ききった。
おかしい、東芝はおかしい。すっかりおかしくなってしまった。
野暮ったいけど長持ちする、という昔の良さは何処に行った?
あれもこれも、とにかく利益を出せ、利益を出せ、という頂上からの圧力で、すべてがおかしくなった結果ではないのか?
消費者の信頼を得る手法は1つだけである。いいものを、安く売ることだ。
いいもの、にはデザインの良さもある。操作系の使い勝手もある。他社製にはない機能もあろう。だが、冷蔵庫のような、なくてはならないものに関しては、耐久性が最も大事である。5、6年で壊れてもらっては、消費者は唖然とするのだ。
が、ものは工業製品である。壊れることは、もちろんあり得る。だから、壊れたときは、最大限消費者の身になって対応しなければならない。消費者の荒っぽい使い方、想定外の酷使による故障なら、消費者に負担を願うのも仕方あるまい。しかし我が家のように、ごく普通に使っている家庭での故障には、真摯に対応することだ。そうすれば、
「故障はしたけど、さすがは東芝」
と信頼をつなぎ止めることができる。
今回のような対応では、消費者の気持ちは、必然的に東芝を離れる。
我が家が東芝製の冷蔵庫にしたのは、冷凍庫の何倍も開け閉めする野菜室が冷凍庫の上にあるからだ。加齢で腰が弱くなっている我が妻女殿の場合、一番下に野菜室がある冷蔵庫は腰への負担が増す。この、野菜室を真ん中に配置するレイアウトは、それなのに他社製にはない。東芝製だけなのである、
それなのに、妻女殿はおっしゃった。
「いいわ。次は野菜室が一番下でもいいから、東芝じゃない冷蔵庫にする」
こうして東芝は、コアなファンをひとりなくした。
歴代の東芝の経営者は、会社の体質を健全化する努力をしたのだろうか?
目先は金ばっかりかかって見返りがほとんどない地道な努力に背を向け、目先の数字をつくる、利益の積み上げを至上課題とする経営陣の元では、下はコストをけちった製品、はっきり言えば手抜き品を次々に市場に出し、不具合が生じるとすべての負担を顧客に押しつけてしまう。そして、ひとり、またひとりと顧客を失う。典型的な逆スパイラルである。
私は東芝の経営者ですと世間に胸を張ってきたアホどもは、中学生でも理解できる単純な原理が分からなかったらしい。
哀れなのは末端の従業員と、客である。
ああ、こんなことを書いていたら、私、東芝の社長になりたくなった。そんな私は、ひょっとしたら根っからの東芝ファンか?
就任しての第一声はこうである。
「コストは当面無視しろ。いいものを作れ。お客様が納得して、次も東芝製品にしようというものしか市場に出すな。そうすれば、数字は自ずからついてくる」
誰でもいい。私を東芝の社長にしてくれませんか?
斎戒沐浴してご一報をお待ちしております。