2016
01.20

2016年1月20日 再びの

らかす日誌

雪であった。

「そういえば、夜中に雪が降るとの予報だったな」

と思い返したのは、目覚めて外を眺めた朝である。予報なんか記憶からすっ飛んでいた。
新聞を取りに外に出る。前回と違い、今日の雪はパウダースノウ。踏みつける足元が何とも気持ちの良い朝であった。

が、これでは車での移動は無理である。ために、午前中は自宅に引きこもり。別にやることもないので、この間時続けている算数の問題集を開く。ボチボチと続きをやり始めたら、ほぼ終わってしまった。残り2問。
夜、四日市の啓樹に電話をしたら

「えーっ、ボス、速い!」

と嘆かれた。
それでも少しずつは挑んでいるそうだから、啓樹も努力している。
いいのだ、ドン亀で。亀さんはウサギさんより速いのだ。

が、机に向かうばかりでは体に悪い。それでなくても、先日の苗場行きで体力の衰えを実感した私である。とにかく、身体は動かさねばならぬ、と思い返して外に出て、雪を洗い流すべく準備に取りかかった。

「ここの雪、どかしておいてよね。危ないから」

これから、その作業を始めようとしている私に声がかかった。我が妻殿である。
声だけでなく、実物も出てきた。シャベルだ。

「これ、せっかく買ったんだから使ってもらわないと」

それだけおっしゃると、玄関からうちに引っ込まれた。降り積もった雪をどかすような肉体労働は、下賤な私の仕事であると信じて疑われぬ風情である。

まあ、私はその気になって外に出たのだ。前回も、ご命令を待たず、自発的に作業を進めた。であるにも関わらず、今日のご下命。ひょっとしたら前回、ゲートに至る煉瓦道の雪がなかったのは、自然に融けてしまったもの、とでもお思いであったか。
まだまだ努力が足りない私である。


晩酌をしながらNHKのニュースを見ていたら、性懲りもなくスキーバス事故をやっていた。今回は、事故を起こす直前のバスの映像が手に入った、という特ダネ映像である。

バスの映像? それがどうした? そろそろこの話から離れてもいいんじゃないの? と思いながら見ていたら、自動車工学の専門家という方が画面に登場された。NHKは専門家を創るのが大好きである。

同じカメラで撮影した、別のトラックが走る姿が映る。そしてバスの走る姿がもう一度出る。

「これは、トラックの1.5倍から2倍の速度が出てますね」

おいおい、あんた、専門家だろ? 確かにバスは速かったし、トラックは遅かった。それが事故につながったことも考えられる。だけど、同じ速度で録画を再生しているのだから、トラックの速度を1としたときのバスの速度は、計算で求められるのではないか?
A地点からB地点までのトラックの所要時間を計る。同じ区間を走ったバスの所要時間を計る。それだけで計算できるんじゃないの? 曲がりなりにも、あんた、専門家、っていってるんだから、それぐらいの算数はできるだろ? 啓樹だってできそうだぞ。
それに、だ。現場のA地点からB地点までの距離は、すでにわかっているはずである。であれば、実際にどれほどの速度が出ていたかの計算もできるはずだ。
そんな手間もかけずに、専門家?

いや、その驚きは序の口だった。

「これ、ブレーキランプがついたまま走っているように見えますね。ということは、ブレーキに足をかけながら、十分に踏んでないということですね」

唖然、呆然、専門バカ
いや、いまは国民のほとんどが車を運転する時代である。ブレーキに足をかけながら、ブレーキを効かせない運転をすることだってある。

だが、だ。
その前の映像では、バスは異様な速度で曲がりくねった道を走っているのだ。そして、ブレーキランプがついているのだ。
トラックと違って、運んでいるのは人間である。事故があれば、少なくともけが人が出るのである。
これだけの材料が揃って、

「ブレーキを十分に踏んでない」

だって? あんた、本当に専門家か?

私はすぐに思った。

「これ、ブレーキが壊れてたんじゃないの?」

確か、現場は下り坂だったはずだ。そこにさしかかったのでブレーキを踏んだら、ブレーキが効かない! 運転手は必死でブレーキを踏み込み、床まで届けとばかりに踏みつけるが、バスは速度を増すばかり。だからスピードに負けて運転を誤り、左のガードレールに触れたのではないか? 触れたのでやばいと思ってハンドルを右に切ったら、切りすぎてバスは左側の車輪が浮き上がり(まるで、映画「スピード」のようである)、勢い余って右のガードレールを突き破ったのではなかったのか?

だとすれば、バス会社の整備不良が原因である。
規制緩和で価格競争が当たり前になったバス業界で、コストカットが進む。その結果、健康診断も、車両整備も、運転手の休暇も無視し、乗客を乗せたバスを走らせる。
それが事故の原因だったのではないのか?

この映像を手に入れたNHKは、ひょっとしたら事故原因を突き止める特ダネの一歩手前にいた。ところが、出演を依頼した「専門家」の能力が低すぎ、その大特ダネを逃した。
それだけではない。この映像を手に入れた記者の知的レベルが水準に達しておらず、この映像を何度も見直しただろうにもかかわらず、ここのデータをつなぎ合わせて

「整備不良」

という推論を持ち得なかった。

いや、整備不良というのも、今の段階ではあり得る原因の1つに過ぎない。だから決めつけてはいけないのだが、あの映像を見るかぎり、私が記者であったら、考え得る最も有力な原因として押し出したに違いない。

かつてメディアは、最優秀の頭脳が集まる業界であると思われていた。それは周りの勝手な思い込みに過ぎず、また、もしそうであったとしても、頭脳が優秀だからいい仕事をするとは限らないのだが、頭脳が劣悪であるよりはましだろう。 
だが、スマップ解散を1面で報じた朝日といい、この映像の分析ができないNHKといい、メディア人の頭脳は急速に劣化しているのではないか? かつては、新聞業界、テレビ業界で最終週な人材が入ったといわれていたのだが。

ねえ、君たち。
別に、頭脳が優秀である必要はないのだよ。必要なのは、誰もが持つ常識、普通の判断力なのだ。そしてつけ加えれば、どん欲な野次馬根性。それだけあれば、君たちの仕事は今とは比べものにならないほど立派に勤まると思うのだが。
いま、君たちに、いや君に欠けているのはそのうちのどれなのか、あるいはどれとどれなのか。ちーと考えて反省してみないか?