08.17
2017年8月17日 あ、分かった!
12日から昨日まで、横浜に行ってきた。次女一家が住む、でも本当は私の家に4泊5日の長旅をしてきたのである。
目的は、以前にも書いたが、瑛太の家庭教師である。かわいそうなことに、小学校5年生の瑛太の夏休みは、ほとんど塾通いで潰れる。8月11日から15日までが、短い解放期間だ。
「その間に、瑛太の勉強を見てもらえると助かるんだけど」
というのが次女からの依頼であった。瑛太も、それに璃子も、来て、という。であれば、行かずばなるまい、という旅であった。
目的がそうだから、ほぼ机にへばりつく毎日であった。が、突然の家庭教師は何かとリズムが合わない。今瑛太に必要なのはどんな勉強で、そのために何をすればいいのかを探りながらの家庭教師で、やっと軌道に乗ったのは15日のことだった。
この日、朝から2人で算数に取り組んだ。課題は立体図形、平面図形であった。これまでの塾のテストで瑛太ができなかった問題を、もう一度瑛太が解くのである。そのサポートが私の役割だ。
「うーん、ボス、これ、むず!」
むず、とは難しいの略であることは、しばらくして分かった。何事も短縮形で表現しようとする最近の言語習慣にお付き合いするのは楽ではない。
が、短縮形を理解すれば、反応はできる。
「瑛太。瑛太に易しい問題は誰にとっても易しい。瑛太に難しい問題は誰にとっても難しい。だから、勝負は難しい問題を乗り越えられるかどうかだ。難しい問題があったら、『来た! 来た!』と喜べ」
教育的指導とはこのようなことである。
「うーん、だけど」
といいながら、瑛太はふんどしを締め直す。締め直しても
「うーん」
が5分続けば、まずヒントを出す。だが、これが難しい。
ヒントを出すには、私が解き方を分かっていなければならない。しかし、最近の算数の問題は、一目見てチョイチョイと解くというわけにはいかない。唸っている瑛太の横で、私もざら紙をにらみながら唸る必要がある。うなって、何とか解法を見つけ出す。
「瑛太、ここはどうなっているのかな」
「問題をよく読んだか? 問題で与えられている条件を全て使って考えているか?」
そんなアドバイスをするだけで、答は示さない。瑛太が答にたどり着くまで我慢強く待つ。
それでも解けないときは、アプローチの仕方を示す。
「これは、こんな条件があるのだから、そこからこれが導き出せて……」
という具合だ。
個人的見解ながら、この方式は割とうまくいった。自力で解いて間違った問題は2人で解いた。しばらくすると、瑛太から
「うーん、むず!」
が少なくなり(そのたびに同じ説教をしたのだが)、やがて
「あーっ、分かった!」
という声が増え始めた。
私が解法を探しあぐねている間に、瑛太が
「ひらめいた!」
と叫んだこともある。瑛太の解法を見ると、なるほど、この問題はそうやって解くのか、と私の方が勉強させられた。
「瑛太、ボスを越えたな」
ボスとしては嬉しい限りである。
終わって採点すると、テストでは30点しか取れなかった問題が、95点、100点になっていた。無論、瑛太にとっては2度目の挑戦である。だから、1度目より点数が上がるのは当然だが、ほぼ完全にできるようになるのは、明らかに力がついた証である。
「瑛太、よく勉強したな。ほぼ完璧じゃないか。いまになると、試験の時に解けなかったのが不思議だろう? 今の瑛太はそれだけ力がついているんだ。自信を持て」
褒めるのも教育的指導である。
夜から昨日午前にかけては、国語の読解問題に挑ませた。これは、瑛太が初めて挑む問題である。
「うーん、むず! 分からん!」
再び同じ悲鳴が上がり始め、再び同じ説教が繰り返された。それでも、無理矢理全ての問題に答を出させた。そして採点した。
正解率は6割から7割程度だった。
採点が終わると、間違えた問題を2人で考えた。
「ここはどうしてこんな答になったんだ?」
「だって、ここにはこう書いてあるし……」
「だけど、ここにはこう書いてある。そこまで読んでも、瑛太の答でいいのか?」
「あっ、そうか、分かった!」
昨日の昼食まで、2人でそんな会話を続けた。
小学生向けとはいえ、国語の問題は正解を出すのが難しい。だが、全問正解とは行かないまでも、考え方、答へのアプローチの仕方は学べるはずである。
「ボス、ボスがいってる答、違っているよ」
という抗議もあった。
「ボスはこれをこう考えた。この答を考えた人は、違ったように考えたようだなあ。じゃあ、瑛太はどっちが正しいと思う?」
まあ、国語の読解問題の指導はその程度までしかできない。物の本によると、中学入試問題集を買ってきても、同じ問題の解答が出版社によって違うことが時折あるという。つまり、国語には絶対的な正解はなく、より正解に近いのが正解、ということなのかもしれない。
要は、問題と問題文をどう読み解くのかの手法を身につけることしかないのである。
「ボス、それが終わったら璃子と遊ぼ! だって、ずっとお兄ちゃんと一緒で、璃子とはちっとも遊んでないじゃない」
と璃子には叱られた。申し訳なかったが、今回の目的が目的だけに、
「璃子、ごめんね」
というしかなかった。
それでも璃子は、ハンバーグやさんを開いてくれた。璃子が店長さんで、ママがシェフである。
部屋のドアに
「ハンバーグせんもん店 りこ101」
の看板が掛かり、テーブルにはランチョンマットが用意され、手作りのメニューまで置いてある。
「はい、お客様、ご注文が決まりましたらこの鈴を鳴らしてください」
璃子店長が注文まで取ってくれる。
「ビールを」
と頼んだら、ヱビスビールが運ばれてきた。
夜、璃子に叱られた。
「ボスとお兄ちゃんは『いただきます』『ごちそうさま』をいわなかった」
ごめんなさい。
という旅を終えての帰還。
ふむ、疲れた。
昨日は仕事をする気にはならず、日誌を書く気力もなく、夕食を終えると映画を3本見て寝た。
次回横浜に行ったときは、璃子を手厚くもてなさなくてはならないなあ。
あ、いただきます、ごちそうまさ、も必須だな!