08.04
2018年8月4日 夏祭り
何を酔狂なことを。
汗をかきながら、そう思った。私は昨日から、夏祭り実行部隊の一員である。
桐生では昨日から、恒例の夏祭りが始まった。公式には「桐生八木節まつり」という。桐生に古くから伝わる「桐生祇園祭」「桐生七夕祭り」などが、織物産業の衰退でそれぞれ単独では実行できなくなり、資金節約のため統合するさいに何故か八木節が加わり、現状となった。
八木節の発祥については各説あるが、どの説を採っても桐生が発祥の地ではない。最も真相に近いのは隣の足利市である。それなのに、桐生の歴史をひもとくと、かつては八木節の乗せて桐生の織物の宣伝歌がつくられ、全国の主要都市で上演された。ために桐生は
「八木節は桐生のテーマソング」
と思っているらしく、桐生生まれのジャズピアニスト、山中千尋も八木節をアレンジした曲をコンサートで披露するのが常である。だが、それはちょいと筋違いだろう。
だから、ということもある。私は八木節祭を好まない。あちこちからのど自慢が集まってコンテストが開かれ、最終日(今年は明日)には八木節に乗って多くが踊り狂って盛り上がるというのだが、それほど上品な踊りでもなく、日本の文化と伝統をしのばせる味があるわけでもない。私は桐生に来て以来、敬遠しっぱなしである。
では、私が実行部隊の一員になっているのはどこの祭なのか? 当然の疑問である。
そして、私が桐生に居を構えている以上、お手伝いするのは桐生の祭であることも当然である。私は、いまは八木節祭に吸収合併された「桐生祇園祭」のお手伝いさんである。
昨年、本町3丁目の町会から
「祇園祭のパンフレットを作って欲しい」
と依頼された。苦心しながら祭の歴史、桐生の歴史を聞きかじって何とか作り上げたパンフを町内の方々はいたく評価してくださり、以来、多くの方と親しくなった。昨年の祇園祭では
「大道さん、記録の写真を撮ってもらえないかな」
と公式カメラマンにまで任命されたのである。
今年は、まず
「プロデューサーになってもらいたい」
といわれた。即刻お断りした。私、祭にはあまり関心がない。だから、祭の実行部隊に所属したことは69年の生涯で一度もない。その私に祭のプロデューサーなど出来るはずがない。
「では、またカメラマンということで」
これも、最初はお断りした。
昨夏、重いNIKON D-750を肩からぶら下げ、炎天下を走り回って写真を撮ってへばった。あれから1年。私の体力は確実に落ちているはずである。もう、身体が持たない。
「じゃあ、写真の数を減らしてどうしても残しておきたいシーンだけということで」
と迫られた。こうなると、お断りする理由を思いつかない。
「それに、群馬大学生との応対もお願いしたい」
群馬大学の学生が3丁目の翁鉾を引く。これは昨年、私が企画し、親しい大学の先生と話し合って実現した。そこをつかれると、これはもう引き受けざるを得ない。
ということで昨日、10時頃には会所と呼ばれる集合場所に身体を運び、エアコンで冷やされた室内で出来るだけ体力を温存しつつ、ポイントとなるところは炎天下に全身をさらして撮影にいそしんだ。
頼まれたのである。引き受けたのである。手抜きは出来ない。
さて、室内と室外を何度行き来しただろう。最後は翁鉾の巡幸だった。群馬大学の学生らが2本の太いロープを持ち、行事と呼ばれる指揮者のかけ声に合わせてロープを引く。祭にやってきた子供たちも嬉しそうに加わる。陽が落ちてからのイベントだが、外気温はまだ32℃、体感温度は多分34℃。これは鉾が動くのだから、私も動かねば写真が撮れない。全身から汗が噴き出した。
終わればエアコンの効いた会所で飲み会なのだが、呑みながら異変に気がついた。鼻水が出る。くしゃみが出る。
「いかん! 風邪をひいたらしい」
温度差が多分10℃以上ある屋内と屋外を何度も出入りする。外でかいた汗が屋内で冷やされ身体の熱を奪う。それを繰り返したため、体温調節機能が狂ったか。
「申し訳ない。風邪をひいたらしいので早めに帰るわ」
と会所を出たのは午後9時過ぎだった。
「大道さん、今晩中に風邪は治してね!」
そんな声が後ろから飛んできた。
今日の出勤は午後である。今日、明日はイベント数が多い。今日は桐生祇園祭の象徴とも言える鉾の曳き違いがある。3丁目の鉾と4丁目の鉾がすれ違う。それだけのことなのだが、何故か多くの見物客が押し寄せる。
だから今日明日はカメラのシャッターを押さねばならない回数が昨日以上となる。予報では今日の最高気温は昨日よりやや低い35℃。だが、暑いことに変わりはない。
しかしなあ、何でこんな暑い季節に、わざわざもっと暑くなるような祭をやらなきゃなきゃならんのだ? 涼風が町を愛撫してくれる秋になってからなら、もっと祭が楽しくなるのではないか? とブツブツ言いながら私は今日もカメラと三脚、ストロボを抱えて3丁目の会所に出向くのである。
そうそう、今日は航空自衛隊のブルーインパルスが桐生上空で演技をする。昨日はおそらく予行演習であろう、6機のF3が飛来し、20〜30分にわたって大空で美技を見せた。かつての私なら、
「軍隊、戦争への国民の嫌悪感を消そうという政府の陰謀、PR活動である」
と切って捨てていたはずである。なのに昨日は
「みごとな飛行技術だ。技をあそこまで磨き上げたのは訓練のたまものだ。とにかく、凄い!」
と感心していた。
人間、変われば変わるものである。