2018
12.13

2018年12月13 歩く

らかす日誌

昨夜はとある市会議員さんに誘われての飲み会であった。
片手にペンを持っていた現役時代は、時折市議さんのお相手をすることもあった。しかし、私はすでに引退の身である。そんな、書いたものを掲載するマスメディアから離れた元記者と酒を酌み交わしてどうしようというのか。

「ご高説を賜りたい」

といわれって、現役時代からご高説なんてものは持ち合わせたことがなく、気ままに思ったこと、感じたことを口走っていただけの私としては、戸惑うばかりである。
が、まあ、誘われて断るほど酒が嫌いなわけではない。午後6時の待ち合わせだったから、5時半頃徒歩で出かけた。

彼と個別に飲むのはこれが初めてである。

「何で俺と飲みたかったの?」

と聞いてみた。そうしたら、

「記者会見などでの発言を聞いていて、どんなこともきちんと論理立ててお話されるのに驚いていました。実に論理が通っていて教えられることが多く、こんな人にはあったことがないと思っていて」

だって。
そうかあ? 俺って、そんなに話の筋が通っているか? それにあなた、市議の割には人付き合いの範囲が狭いんじゃないの?

まあ、それはよい。
初めての酒飲み話である。現職の市議と元記者となると、共通する話題は政治向きのことだけ。といっても、現役を退いてすでに2年以上がたっている私だかから、政治向きの情報をそれほど持っているわけではない。というか、政治なんてそもそも関心がないので、現役を外れてからは政治なんて関心のずっと外にある。せいぜい、

「群馬2区。あんな政治家を国会に送り出して、ここの有権者は恥ずかしくないのかね」

などと床屋談義をするだけである。

話題はもっぱら来春の統一地方選挙に集中した。
桐生では現職の市長が出馬せず、県議、市議がひとりずつ立候補するらしい。市議の方は3年も前に立候補表明をした変わり者で、泡沫候補と見られている。となると、実質は県議さんの信任投票に近い。この県議さん、もとは市議会の議長を務められた。

「で、思うのよ。この町には政商と見なされている企業があり、キングメーカーになろうとする企業がある。確かあなたは、県議さんの応援をしてるんだったよね。だったら、そんな企業とはきちんと距離感をもって市長職を務められるよう伝えて欲しい」

「ところで、あなたの選挙はどうなの? 3期目は大丈夫?」

「そもそも、市議の仕事って何なんだろうね? 桐生がやらねばならないのは町おこしだけど、行政に町おこしができるはずがない。町を興すのは町衆ですよ。行政にできるのは、立ち上がった町衆の支援をすることがせいぜい。それなのに、市議さんたちは議会で、行政を相手に質問される。質問に取り上げられるのは行政の話題ばかり。遠くから見ていると、行政と議会は一体となって、町おこしとは全く関係がないことに時間を費やしているようにしか見えないのだが」

私はそんなことを言ったような記憶がある。彼が何を話したか、さて、酒を飲み過ぎたのか(2人で、2合とっくりを、確か4,5本空にした)、トンと記憶がない。
いや、

「私の選挙は厳しいです。ただ、2期目は同じ町内からもうひとり立候補したのに、票数が伸びました。私を理解してくれる人が増えたのかな、と。でも、厳しいです」

などという話を聞いたような気がする。

で、飲み終えて小腹が空いたので、ラーメン屋によって彼と別れた。

別れてしまえば、後は帰宅するのみである。桐生には流しのタクシーはいないので、飲み屋街の中にあるタクシーの待合場所まであるいた。ここにタクシーが待機していれば乗る。いなければ、そこに備え付けの電話でタクシーを呼ぶ。
昨夜は待機しているタクシーはいなかったので、受話器を外した。

「もしもし、お客さんですよ」

私はいつもこのように話しかける。そこまではいつもと一緒だったのだが、戻ってくる返事が違った。

「はい、30分ほどお待ちください」

30分! 待合場所は二方に壁がなく、吹きさらしである。こんなところで30分! ひょっとしたらこの冬一番の冷え込みの中で30分!!
タクシーが到着するころには凍死体が出来上がっているかも知れないぞ!!!

タクシーは諦めて歩いて戻ることにした。
ご存じだと思うが、いまの我が家は山の上にある。つまり、行きは下り坂だが、戻りは上り坂である。しかも、2人で日本酒を1升前後、加えて生ビールと瓶ビールを飲み込んだ身体である。歩けるか?

とは思ったが、他に帰宅する手段がない。暗い道を私は歩き始めた……。

上りにかかったら腰が痛くなった。ガードレールや階段に腰を下ろして腰をなだめある。腰が落ち着くと再び上り始める。痛み始めると休む。
さて、我が家にたどり着くまで何度休憩を取ったのか? 今朝目を覚まして、歩いて帰ってきたことも忘れていたほどだから、そのあたりがどうもはっきりしない。最後の19段の階段を上り終えたとき、目と鼻の先に自宅があるのにしばらく休んだような気がするが……。それにしても、よくぞ自宅にたどり着いたものである。

思い起こせばすでに12月。忘年会のシーズンである。それでなくても数が少ない桐生のタクシーは、こんな季節の、酔客が帰宅する時間には全く便りにならない。

「12月の飲み会は敬遠しよう」

と心に決めた私であった。