07.25
そうか、Amazonはブラック企業であったのか。
「ネット階級社会」(アンドリュー・キーン著、早川書房)
という本を途中まで読んだ。いまや世界を席巻しているインターネットは、通常言われるように世界を幸せにする技術革新ではなく、1%の人だけがとてつもない金持ちになり、あとは奪い取られるだけの存在にしてしまう、と説得力を持って解き進める本である。
著者は起業家、作家、と紹介されている。ご本人もインターネットを使ったサービスを立ち上げた経験があるらしい。
インターネットは新しい雇用を生み出すと言われてきた。確かに、AmazonもGoogleも、過去にはなかった仕事をつくり出し、新しい雇用を生み出した。しかし、その新しい雇用が出来たが故に、仕事を失った人もたくさんいる、と著者は指摘する。
車の配車をするウーバーが自動運転と組み合わさり、世の中で稼働し始めれば、確かにウーバーはこれまでなかった新しい雇用を生み出すだろう。しかし、そのおかげでタクシーの運転手、トラックの運転手、配送サービスなどで働いてきた人たちの職場がなくなる。そして、新しく登場する労働者の数より、そのために仕事を失う労働者の数の方がはるかに多い、というのが著者の分析である。
インターネットは決して世の中をよくしない。悪くする一方である、というのだ。そして欧米では、そのような警告を発している人がたくさんいるらしい。
いわれてみればそうかも知れない。
私はAmazonで本を買うことが増えた。何しろ便利である。欲しい本がすぐに見つかるし、在庫切れということもまずない。おまけに古書が豊富だ。新刊1冊のコストで3、4冊の本を手に入れるなんて当たり前になった。
だが、そのあおりで町の書店は数が激減した。
「書店の努力が足りないからだ」
という見方もできよう。しかし、世の中の流通の形がインターネットで大きく変わった以上、書店の努力にも限界がある。大きな時代のうねりの前で人の努力はほとんど無力である。
だから欧米では、ラッダイト運動(産業革命期のイギリスで、新しい技術、機械が仕事を奪うと反発した労働者が機械を打ち壊した)を肯定的に評価する論者も出ているという。
なるほど、ごく一部の人間が富み、残りは貧困化に向かうとすれば、その動きを何とか止めたい、止めなくてはならないと考える人が出てきても不思議ではない。しかし、技術というものは後戻りをしない。前進しか知らないのが技術の特質である。
「みんなでiPhoneをドブに捨てよう!」
などと唱えても、賛同者が現れるとは思えない。ほぼ全員が
「次のiPhoneにはどんな新しい機能が搭載されるのか」
と期待するのである。結局、進化を続ける技術とどう折り合いをつけて社会を構築するのかということにしかならないのが歴史である。
とは途中まで読んでの感想だが、目次を見ると、この本は最後に「解決策」の章がある。著者はどんな提案を用意しているのだろう?
いろいろと考えさせてくれる本だが、次の一節には唖然とした。そのまま引き写してみる。
「さらにアマゾンのフルフィルメントセンター(配送センターのことらしい)は、監視テクノロジーがなかったとしても、職場として快適とはほど遠いことが知られている。たとえば、ペンシルヴェニア州のアマゾン倉庫の従業員は高温の室内で作業をしなければならないので、会社側が倉庫前に救急車を待機させている。熱中症になった従業員をすばやく病院の救急処置室に運ぶのである。ケンタッキー州の配送センターでは、効率の良さを何よりも重視するアマゾンの職場風土のせいで、従業員が永久的な損傷を負うという『大問題』が生じていると元マネージャーはいう。アマゾンが世界第二の市場にするドイツでは、2013年に1300人の従業員がストライキを繰り返し、賃金の引き上げと労働環境の改善を訴えると同時に、配送センターの監視のために雇われた警備会社について抗議した。イギリスでは、2013年にBBCの記者が潜入取材を行い、アマゾン倉庫の労働環境の過酷さを暴いた。ストレスの専門家によれば、それは労働者の『精神的疾患および身体的疾患』につながりかねない環境だった」
Amazonには労働組合がないらしい。ないというか、経営者の強烈なリーダーシップの元で作らせてもらえないのだろう。いまや労働組合といえば何の役にもたっていないともいえるが、しかし、団結を背景に経営側と交渉する組合がなくて雇用が守れるのか、労働環境の改善が望めるか。ドイツのアマゾン労働者はきっと、綿密な事前準備を重ねて団結を強め、ストに打って出たのに違いない。
Amazonといえば、時代の最先端をいく企業である。その内幕がこのようなものであったとは……。創業者ジェフ・ペゾスは現代の偉人の一人にあげられることが多く、経営書では天才の独りに数え上げられているが、人間性は領民からの搾取をギリギリまで追い求めて私腹を肥やすことにしか関心がなかった領主や国王と同じらしい。そんなペゾスに未来を語らせていいのか? そんな会社に未来を任せていいのか?
とはいえ、当面、私の暮らしがAmazonから離れることはないだろうなあ。何でもあって早くて安く、だから便利さこの上ない。
農奴の一人として領主Amazonを肥え太らせることしかできないとは、何とも情けないことである。