08.01
暑中お見舞い申し上げます。
いやはや、一気に夏が来た。涼しい夏が続いていただけに、身体にこたえる。朝から群馬大学関連の仕事で前橋まで行ってきたが、戻ったら全身汗みずく。残暑が去るまで休業宣言したい私である。
一気に到来した夏を、私は7月28日、群馬県の奥の奥、みなかみ温泉郷で迎えた。次女が旅行に招待してくれたのである。何でも、瑛汰の中学受験で算数の手伝いをしたお礼ということらしい。
礼を言われることはない。瑛汰の受験はファミリー内部の課題であってみれば、親は勿論、手伝う能力のあるファミリーメンバーが出来る手伝いをすればいいというのが私の考え方である。どれほどのことが出来たのか。要は瑛汰が頑張って志望校に通ることが出来たのであるし。私に出来たことは、
「考えても解けない問題は、塾の先生かボスに聞けば分かる」
という拠り所になった程度である。
逆に、やったことがなかった中学受験算数に取り組んで、時には1題解くのに丸1日を費やす暇つぶしの楽しみを与えてもらったことを私の方から感謝したい。私にとっては楽しい1年間であった。
まあ、それはよい。
28日、午前10時に新幹線上毛高原駅で待ち合わせた。私たちは車で桐生から、次女、瑛汰、璃子の3人は新幹線で横浜から、のみなかみ入りであった。
最初の目的地は「匠の里」である。群馬の外れのみなかみの、そのまたはずれにしつらえられたプレイランド。様々な体験ができるという触れ込みだ。
璃子はまず「蚕・繭・絹の家工房」で座繰りで繭から生糸を紡いだ。その間、私と瑛汰は「竹細工の家」で、一輪挿し、紙鉄砲、竹とんぼ作りである。
璃子には付き合えなかったが、瑛汰には付き合った。見ていると、瑛汰はナイフの扱い方が出来てない。ナイフの刃を自分の方に向けて竹を削ろうとする。危ない。なるほど、瑛汰はこれまで刃物を扱ったことがないらしい。ナイフの刃は絶対に自分に向けてはいけない。向けていいのは歯止めがあって、何が起きても刃が自分を襲わないことが明白な場合だけである。その原則を守らないと怪我をする。我々の世代は小学生から切り出しナイフを持ち歩いた。だから、何度か自分の手を切って血を流しながら刃物取り扱いの原理原則を身につけた。子供を守る習慣が生きすぎた現代に生きる瑛汰の世代にはそんな時間がなかったようだ。
チューターのおじいさんに導かれながら、まず一輪挿しの持ち手に使う丸棒を竹から削り出し、次いで紙鉄砲の芯になる丸棒を削り出し、最後が竹とんぼである。横で見ていると、竹とんぼの羽を左手に持ち、右手に持ったナイフで削ろうとするのだが、右手の力だけで削ろうとするから危ういことこの上もない。
「瑛汰、右手はナイフの角度を決めるだけ。ナイフを前に押し出すのは左手の親指で、ほら、こんな具合にやるんだ」
と教えてはみたが、こんなちょっとした技術も、いわれてすぐに身につくものではない。しばらく試行錯誤しながら、でも少しずつ削り進め、やがて竹とんぼが完成した。
出来た竹とんぼをひっつかんで表に飛び出す。飛ばす…………はずだったが、普通の羽を持つ竹とんぼは反時計回りで飛ばす。つまり、両手で挟んでグルグル回し、右手を前に出したときに離すと上空に飛翔するのだが、
「痛ててっ!」
瑛汰が話した竹とんぼは下に向かって進み、瑛汰の手に激突した。どうやら時計回りで離したらしい。
「瑛汰、逆!」
「じゃあ、ボスがやってみてよ。あ、飛んだ! よし、俺がやる!!」
と、瑛汰の手から初めて上空に舞い上がった竹とんぼが屋根に乗っかってしまったのは冗談のような出来事だった。竹竿で払い落として事なきを得たが。
やがて璃子の一行と合流。この時璃子は2つ目の体験中で、「ドライフラワーの家」でバーバリウムを作成中であった。
すぐに昼。そばを食べさせる店が多く、
「どこが美味い?」
と竹とんぼのおじいさんに聞いたが、
「どこも似たようなもんさ」
それではと、
「おそばと豚肉が食べられるんだって」
という璃子の主張を取り入れて、数多くの十割そばの店から1軒を選んで入る。味は……。
ま、どこも似たようなものというから、どの店を選んでも「……」だったのだろう。
次の体験は「草木屋 染の家」。手ぬぐいに藍染めをする。これも璃子と瑛汰の作業である。私はもっぱらカメラマンだ。そしてバアバは車椅子の人である。
この日の体験学習を終えた私たちは、その日の宿「みなかみホテルジュラク」に向かった。いや、向かったはずだった。我が愛車のナビに住所を打ち込み、その指示通りに運転する。が、なかなか着かない。ナビを見ると、ひたすら沼田市方面に走っている。匠の里はおろか、上毛高原駅も通り越してずっと後ろである。
「おい、着かないな。そんなに遠いのか?」
宿を選んだ次女に聞いた。
「いや、そんなはずはないんだけど。上毛高原駅から12分位って書いてあったよ」
いや、そんなはずはない。今いる場所から上毛高原駅まで12分では行けない。それほど遠くまで来てしまっている。
といぶかっていると、左折せよとの指示が出た。左折してしばらく行くと右折の指示。次は右折で、またまた右折の指示だ。
「おい、なんか元に戻ってるぞ。これ、ナビがおかしいわ」
BMW備え付けのナビは、みなかみの地理には疎いらしい。このままでは同じ路をグルグルと回り続けることになる。
「瑛汰、iPhoneを持ってたな。グーグルマップでナビを呼び出してお前が案内しろ!」
まず上毛高原駅に戻った。そこから、BMWのナビの指示とは90度違った方向に瑛汰はナビした。田舎道である。周りは緑ばかりだ。それが延々と続く。人家はほとんど見えない。
「瑛汰、この方向でいいんだな?」
「ボス、俺に任せてよ。うん、もうすぐ右、そして左」
交差点があるわけではない。1本路が右に左に曲がっているだけである。瑛汰はそれを丁寧にナビする。曲がれと指示を出す。まあいいか。俺たち、レジャーの来てるんだもんな。少し道に迷ったってどうということはない。
「ボス、次の信号を真っ直ぐ進んで。次の路に出たら左だな」
何とか宿にたどり着いた。
次女が気を遣ったのだろう。我々夫婦にあてがわれた部屋は実に豪華であった。仕事の出張で使うビジネスホテルまがいの部屋とは全く違う。寝室と別にリビングルームがあり、窓を開けてベランダに出ることが出来る。たばこを吸うのに便利である。そして、ベランダから見える絶景。眼下に利根川の源流があり、前日の雨のためか、流れが速い。轟音といいたくなる音と白い波頭をたてて茶色い水が左から右に流れている。目を上げると一面の森林だ。窓を閉め切ると川の轟音はほとんど聞こえない。立派な設備である。
夕食はビュッフェ。特筆することなし。部屋に戻り、全員でトランプを楽しむ。7並べで璃子が勝ち、瑛汰が負けてしまったのは、まあ、ご愛敬であろう。
とここまで書いて時間切れとなった。続きは明日に。
そういえば、インターネット問題の解決編をまだ書いていない。それも後日に持ち越しということで。
おやすみなさい。
アイキャッチの画像はBIGLOBE旅行のホームページからお借りしました。