2019
11.12

50年ぶりでも、一目でチビちゃんと分かってしまう脳の働きとは素晴らしいものである。

らかす日誌

前回、「進化しすぎた脳」という本の話を書いた。人の脳は写真のような正確な記憶はしない。人の記憶は曖昧なものである。だからこそ、相手が横を向いても、後ろ姿でも、衣服を取り替えても、それが誰であるかを特定することが出来る。
そんな趣旨だった。

いやはや、本当だなあ、と実感したのは日曜日、チビちゃんと再会したときであった。記憶によれば、最後に会ったのは大学時代だから、かれこれ半世紀も前である。時間の経過に加え、半世紀もたてばお互いの姿形は相当に変わる。簡単に言えば2人ともすっかり老け、昔日の若々しい姿形は失われている。

それなのに。

「チビちゃん、乗りなよ」

コンサートが終わったという電話を受け、私は車で有鄰館に向かった。本町通りに出て待つように言ってあった。
有鄰館に近づくと、通り沿いに立つ女性の姿があった。横で車を止める。顔を見る。間違いない、チビちゃんだ!

半世紀で姿形がどう変わったかは、お互い様だから言うまい。だが、前から見ても横から見ても、間違いなくチビちゃんである。少しふくよかになったか?

まず自宅に案内し、妻女殿を伴って夕食に出かけた。

私の記憶にはなかったが、彼女は転勤族の父君と一緒にあちこちを渡り歩いたそうだ。我が母校・三池高校に在学したのは2年生までで、3年になるときに飯塚市の嘉穂高校に転校した。

「行ってみたら封建的な学校でね。例えば、集会では男子が前にズラッと並び、女子は後ろに並ぶのよねえ。男女差別。ビックリしちゃって」

嘉穂高校とは、2人が生徒会の役員をしていたとき、「他校訪問」として訪れた高校であった。そんな高校に転校していたとは不思議な縁である。それにしても、私の記憶のどこを探しても、彼女が転校したというデータはない。どうなってる、私の脳の記憶装置?

だから、高校時代の思い出は三池高校が一番楽しいのだという。封建遺制が強いと言われる九州にありながら、そういえば三池高校では制度的に男女が差別されていたという記憶はない。集会ではクラス別に男女が縦1列に並んでいたし、教室の席順だって男女を意識させるものではなかった。

「へえ、三池ってそんなにいい高校だったんだ」

「そうよ、楽しかったもん。生徒会室が特に楽しかったなあ」

まあ、思い出話は和気藹々と続くものである。
だが、時事問題となると和気藹々とは行かなくなる。

何がきっかけだったろう? 突然、日韓関係が話題に上った。韓国の対日姿勢、文在寅政権のでたらめぶりについての私の見方の一部は、折に触れて「らかす日誌」に書いているが、チビちゃんはそれを読んでいたらしい。

「私ねえ、いっぱい本を読んだの。気になることがあるとそうするのね。日韓関係についても読んだ。だいたいさあ、問題のきっかけになった徴用工の請求権の問題だけど、日本政府は1965年の日韓請求権協定で解決済みだって言ってるけど、あれ違う。韓国はあの条約で請求権を放棄したではないか、というのが日本政府の主張だけど、あれは政府としての請求権を放棄したのであって個人の請求権には触れていないのよ。安倍内閣はそれに触れない。新聞も書かない。大道さん、あなた間違ってない?」

と追及されてしまった。うむ。まあ、外交とは国と国がそれぞれの利益を追求し、エゴがぶつかり合うものある。後ろを振り返り、国内情勢を見ながら押したり引いたりするものだろう。だから論理的に進むものではなく、エゴがぶつかり合ってどうしても合意に至らない点については、それぞれの国内情勢を測りながら、玉虫色で決着したという形にすることもある。それぞれが、自国に向かっては

「ほら、こんなに獲得したぞ!」

と自慢タラタラに成果を誇り、次の選挙を乗り切ろうというのである。個人の請求権に触れていないということは、そんなものではないか? などと答えたような気がする。

だが、それで良かったのか? ということで、この日誌を書きながら、ウィキペデイアを覗いてみた。

1)戦後補償が日韓請求権協定で完全解決したことは、韓国側の議事録で確認されている。

2)2005年の盧武鉉政権から、韓国政府は慰安婦、サハリン残留韓国人、韓国人被爆者については日韓請求権協定の対象外だったと主張し始めた。

3)2005年8月、韓国政府は反人道的違法行為は解決されたわけではない、との公式的立場を取り始めた。

4)それなのに、協定を通じて受け取った3億ドルは、個人財産権と強制動員被害補償解決の性格を帯びた資金などが包括的に勘案されたと見るべきなので、政府が相当額を被害者救済に使わなければならないともいった。

5)だから韓国政府は2008年から、未払い賃金被害者たちに1円を2000ウォンに換算して慰労金を支給している。

6)2009年8月、ソウル行政裁判所は、韓国外交通商部が「日本に動員された被害者供託金は請求権協定を通じ、日本から無償で受け取った3億ドルに含まれていると見るべきで、日本政府に請求権を行使するのは難しい」と言う文書を提出したと明かした。つまり、韓国政府は、朝鮮半島出身者に還付されるべき賃金を韓国政府が日本から代わりに受け取り、故人の権利を消滅させたことを公式に認めた。

7)2012年、韓国大法院が、徴用者に対する日本企業の賠償責任を認めた。

まあ、ざっとこんな流れらしい。
いや、これだと、問題は完全に韓国国内の問題で、韓国政府の反日カードの切り方次第でどうにでも転ぶ、としか思えない。外交の場に持ち出す案件ではないと思われる。やっぱり、韓国内で政権を維持するために切り散らかされる反日カードが問題の根源ではないか、と私は思ってしまう。

どうだろね、チビちゃん?

ということで、なぜか高崎に宿を取っていた彼女をJR桐生駅まで送り届け、運転代行で自宅に戻った日曜日の私であった。