2020
01.24

ネタに困ったときは……

らかす日誌

動物園があれば行ってみろ、というのは新聞記者時代の先輩の教えである。動物園に行けば、何か新しいものがある。子どもが生まれそうだとか、産まれたとか、新しい飼育員が来たとか、珍しい遊具が入ったとか、ライオンさんの体調がよくないとか、とにかく何か記事になる話題が転がっているというのだ。

ついでにいえば、動物の話題で腹を立てる人はいない。傷つく人もいない。新たな政治的問題を引き起こす恐れもなければ、恐慌の引き金なることもない。一言で言えば、動物の話題である限り

罪がない

のである。記事が少ないときの救いの神、とでもいえばいいか。

もっともこの手を使えるのは地方記者の時代である。社会部なども時折使うが、政治部や、私が所属した経済部などでは使い道がない。
まあ、新聞を開いて動物園の話が出ていたら

「よほど記事に困ったんだなあ」

と理解していただければよろしい。

すでに記者ではなくなった私には、この手は使えない。桐生には入場料無料の動物園があるが、「らかす」のネタに困ったからといってエッチラオッチラ動物園に出向き、急な坂を上り下りしても仕方がない。いまネタに困っている。どうしよう?

先日、市内の経営者に会った。

「景気はどうですか?」

とは、定番の話題の振り方である。

「うん、国内はそこそこ堅調なんだけど、海外がねえ」

へーっ、海外で景気が悪くなるような事が何かありましたっけ?

「トランプと習近平。あの2人のおかげで貿易量が減っているらしくてねえ。どうも海外がいまいちみたいだよ」

だったら、ゴルゴ13に依頼して2人を亡き者に?

「あ、いいねそれ。みんな喜ぶよ」

トランプと習近平。世界の嫌われ者らしい。

気になる言葉がある。

「させていただく」

という言葉である。
この言葉を万能の謙譲語と誤解している人が多いらしく、やたらに耳にする。先日もNHKのニュースで耳にした。詳細は記憶にないが、発言の主はレポーターのインタビューを受けた社長さんだった。確か食べ物を作っている会社で、その商品のことを聞かれ、

「はい、私も食べさせていただいたんですが……」

おいおい、それ、あんたの会社で作ってるんだろ? 誰があんたに食べさせたの? あるいは、食べたいというあんたに、誰が

「食べていいよ」

と許可を出したの? 勝手に食っておいて、その言い方はないんじゃない?

という感じの違和感である。

「させていただく」

とは

「させてもらう」

という言葉を丁寧にしたものだろう。であれば、発言の主が何かを希望しているが、それは自分の権限だけではできず、上にいる者の許諾を得る必要があり、しかもその許諾権限者は、好意を持って許諾した、という状況で使われるはずだ。
そういう条件が揃っていれば、丁寧に

「させていただく(いただいた)」

と表現しても問題はない。だが、最近の使われ方は「好意」にしか注意を払っていないようで、「許諾権限」を無視するからおかしくなる。

営業職のサラリーマンは会社の人事権のもとで営業に廻ったのである。まあ、時には営業をしたいと願っていて、「引っ張ってくれた」上司がいたからその仕事をしていることもあるから、その際には

「私、営業をやらせていただいております」

でも通用はするが、それを聞かされる人物は発言者の願いも、引っ張ってくれた上司がいたかどうかにも全く関心はない。だから耳に障る表現になってしまう。

丁寧を心がけるのはよい。しかし、何事も過ぎたるは及ばざるがごとし。表現には気をつけようではありませんか。

と小話2題でネタ不足を逃げ切ろうという私であった。