08.01
もう幾つ寝るとお正月? といいたくなる時の速さである。
梅雨寒に加え、
「いつになったら洗濯日和が来るの?」
という長雨が続いていたと思ったら、あっという間に梅雨が明けた。
この分で行くと、数日後には
「やっと残暑が終わりましたね」
と挨拶する季節が来て、
「おう、松井ニットのマフラーをタンスから出さなきゃ」
と独り言を言って、
璃子と嵩悟、それにあかりに
「クリスマスプレゼント、何にする?」
と電話して(我が家には中学生になったらプレゼントはない。誕生日も同様である。私の財布の重さを保つための独自ルールである)、
「ああ、もう2021年か」
といって新春を寿いでいるような気がする。
そんな話に続けて
「本当に、光陰矢の如し、ですね」
とまくらを振るのは古今亭志ん朝である。
「光陰矢の如し、とはどういう意味かと申しますと、ああ、光陰って矢の如しだなあ、という意味なんですね」
と落ちる。沢山落語を聞いたが、この小話をまくらにするのは志ん朝ぐらいだから、彼のオリジナルなのだろう。
というわけで、今日から8月である。新型コロナ、集中豪雨と泣きっ面に蜂のような天災、ひょっとしたら人災が相次いでいるが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。まあ、ここまで乗り切ってきた(被災地の方、コロナで亡くなった身内、親戚、知人をお持ちの方がいらっしゃったらごめんなさい)のだから、もう少し頑張りましょ!
光陰で思い出したが、先日、布団に入って眠気が訪れるのを待っていたとき、ふと
「あれー、桐生に来てもう11年もたったんだなあ」
という感慨に襲われた。そう、眠りにつくまでの数分、時によっては数十分、数時間というのは、様々な思いが頭の中を駆け巡る時間である。私の場合、どちらかというと先行きのことが浮かぶことが多いのだが、珍しく過去を振り返ったわけである。
しかし、過去を振り返るというのはあまりよろしいことではない。それに続いて浮かんだのは、
「11年か。そんな長い時間を何に使ったんだろう? 何か仕上げたこと、作品はあるか?」
という疑問で、当然ながら
「ない」
という結論に落ち着く。落ち着くと
「何も特筆することがない11年か。それにしてもあっという間だったな」
と思いが延びていき、
「待てよ。11年があっという間だったのなら、これからの10年、15年はチョイの間じゃないか。次にものを思うのは棺桶に入るときか?」
とずっこけた。
過去に思いを馳せる。先が短くなった年代の我々は、避けた方が精神衛生上はよろしいようである。
歯医者に行った。右下に入れていたブリッジが割れたことは書いたことがあるように思う。その時の歯科医は割れた部分を接着剤でくっつけただけで、その部分が先日、再び外れた。放っておくわけにはいかず、違った歯科に行った。
レントゲンを撮り、プラスチックでできた仮歯を入れたのは30日である。その日、戻って昼食を食べていたら、
ガリッ!
と口中で音がした。先ほどはめたばかりの仮歯が外れたのである。
「あれ、そういえばこの仮歯、接着剤をつけたっけ?」
治療中、歯科医と私は読書の話に花を咲かせた。ひょっとしたら話に夢中になって歯科医がミスをしたか?
電話をし、指定された午後4時に再び歯科医を訪れた。
「接着剤、忘れました?」
「そんなことはないと思いますが」
と言い合いながら、仮歯は正規の場所に落ち着いた。
「これで大丈夫ですから、次は具合を見るために8月6日に来て下さい」
といいながら歯科医は私を見送った。
だから、次の治療は8月6日のはずだった。ところが、私は31日、またもや歯科医を訪れた。昼食に焼きそばを食べていたら、前日よりはるかに大きな
ガリッ!
が出た。しかも、ちょうど口を閉じるところにぶつかったらしく、
バリッ!
という音と、何かをかみ砕いたような感触が残った。吐き出すと、再び仮歯である。しかも、無傷だった前日と違い、今度はみごとに2つに割れている。
「ありゃまあ。今度はお陀仏かよ」
31日、歯科医に駆けつけたのは午後2時半。新しく仮歯を作り直すのかと思ったら、修理可能なプラスチックなのだという。小1時間かかって仮歯は再び正規の場所に収まった。
「先生、こりゃあ、一刻も早く仮じゃないブリッジを作ってもらった方が良さそうですね」
まあ、当然そう思う。仮歯は何かと不安である。
「そうですね」
と相槌をうった歯科医は料金表の説明を始めた。
「実は、今のままでは保険を使ったブリッジは作れません。もう1本、健康な歯を削って架けるブリッジ、つまり奥はこれまで通り親知らずで受け、前の方はもう1本加えて2本の歯で受けるうようにすると保険が使えるのですが」
いやあ、健康な歯を削るというのには抵抗がありますねえ。
「そうですよね。でも、そうなると保険外診療になります」
はあ、それでおいくらぐらい?
「1本4万円ですから、あなたの場合は4本ということになる(2本の歯がなくなったところにブリッジを架けている)ので16万円ということになります」
16万円!
割れたブリッジを修理するのに16万円! 何度飲みに行ける? それにしても心臓に悪い数字だ。
「いや、その、4、5万円なら何とかなると思いますが……。ちょいと娘の旦那に聞いてみます」
「ああ、そうでしたね。娘さんの旦那さんが歯医者さんだった。はい、そうして下さい。私もそちらをお薦めします。そちらの方がはるかに安く済むと思いますよ」
うむ、話の分かる歯科医である。ん? 話が分かるだけか? ひょっとしたら患者として敬遠されているのではないか?
まあよい。
しかし、娘の旦那にやってもらうとしたら相模原まで通わねばならぬ。高速代、燃料費を使ってもそちらの方が安く上がるだろうが、しかし、毎週1回、相模原までのドライブ……。体力的にねえ……。
だから
「4、5万円なら」
と考えた私だったのだが。
次女のところに電話をして旦那と話した。8月下旬に行くことになりそうである。