10.17
東芝さん、それでいいの?
冷蔵庫から水が漏れるようになり、依頼した修理人が今日来た。
桐生に来てから買った冷蔵庫である。野菜室が一番下というのは使いにくいというので、真ん中に野菜室がある機種を選んだら、当時は東芝しかなかった。何でも、冷凍庫を真ん中にした方が設計しやすいからそんな機種ばかりになったと聞いたことがあるが、使用頻度は冷凍室より野菜室の方がはるかに高い。いちいち腰を折って一番下の〜野菜を取り出すのは大変である。
だから、東芝の視点に共感しながら買ったのである。
最近はパナソニック、三菱電機からも真ん中に野菜室がある冷蔵庫が売り出されている。店頭であまり見ないということは、ほかの人たちは野菜室が一番下でもかまわないということなのか。それとも、野菜を調理するより、何でも冷凍食品で済ますのが現代の暮らしだということか。
東芝の冷蔵庫作りの視点はよかった。よくなかったのは品質である。
使い始めて3、4年後、冷えなくなった。修理を読んだら、裏を開けて基板を取り出し、ジャンプ線を飛ばし始めた。
基板とは、電線で配線する必要をなくすため、銅製の電気の通り道をプラスチックの板にプリントしたものである。だから、どことどこを電気的に繋ぐのかは、すべて基板の設計で終わりである。その基板にジャンプ線、つまり基板にある部品同士を基板の銅箔ではなく、電線で結ぼうというのだから、これは基板の設計ミスというほかない。
修理を終えた係員が金銭を請求したので、
「これは設計ミスである。会社が設計ミスしたものに対してユーザーが金を払う必要があるのか?」
と突っぱね、東芝の顧客対応に電話を入れて請求をキャンセルさせたことがある。
ジャンプ線を飛ばして当初の設計ミスをカバーしたのだ。あとは大丈夫だろう、と思い込んでいた。ところが、今度は水漏れである。
冷蔵庫には冷却するところに霜がつくのは避けられない。だから、多分定期的に熱を加えて霜を溶かしてやる。その水は重力に従って下に流れる。
「昔の冷蔵庫には、下に水受けがあったな」
と思って下を見たが、今時の冷蔵庫には水受けが見当たらない。自力で何とかするのは無理だと判断、東芝から修理人を読んだのであった。
呼ぶについてくどくどと言われたのは
「お客様の冷蔵庫は2009年まで製造していたものです。パーツは10年間しか保存しませんので、お伺いしても修理できないとことがあります。その場合にも、出張費3500円はいただくことになります」
ということである。何といわれようと、とりあえず修理は頼むしかないことは分かりきっているだろうに。それとも、修理するより買い換えなさい、といいたかったのか?
というわけで、今日修理人が来た。朝方電話があり、
「午後3時に伺います」
とのことだったが、午後になって修正の電話が入り、3時半になるという。まあ、幾つも回ってくるのであろう。それは仕方がない。
3時半になった。現れない。電話もない。
4時になった。現れない。電話もない。
「どうせ5時になるわよ」
とは妻女殿の叫びである。
4時10分、現れた。この野郎、人の時間をどこまで無駄にすれば済む? 電話の1本ぐらい入れるのが社会人の常識だろうが!
と頭ごなしに怒鳴りつけては、修理の差し障りが出るかも知れない。喉元までこみ上げた怒りをグッと飲み込む。
彼は
「遅れて済みません」
の挨拶をすることもなく台所に入り、冷蔵庫をばらし始めた。一番下の段の冷凍室の引き出しを取り外し、次いで下から2段目の野菜室も外しにかかった。ここはネジ止めされているらしい。電動ドライバイーで数本のネジを外した。奥にスリットが開けられたプラスチックのカバーがある。
次に、長いドライバーを取り出すと、そのスリットをつつき始めた。
「これ、修理はできませんね。交換する部品もありませんので」
えっ、それだけでどこが悪いのか分かるのか? 故障しているところはどこか、彼に聞いてみた。
「この奥に、冷やすパイプが通っています。そこには霜がつくので自動的に霜を融かし、一番下にある水受けに流します。水受けにたまった水は強制的に蒸発させます」
ほほう、台所の湿度がいつも高いのは冷蔵庫のせいでもあるのか。それに、やっぱり水受けはあるんだ!
「これ、このプラスチックのカバーの後ろが全部凍っています。だからカバーを外せません。修理ができません」
ちょっと待て。相手はたかが氷である。融かせばいいではないか。
「ドライヤーで温めれば融けるだろ?」
「いやいや」
と彼はいった。
「とてもじゃないですが、それじゃ無理です。だからどこが悪いのか見ることができませんので、修理は無理です。部品もないことですし」
切れかかった。
すぐに融けないのなら、電源を抜くという手がある。そうすればパイプは冷えなくなり、数日もすれば氷は自然に融ける。その間、冷蔵庫に保管しておくべき食料品は困難に直面するが、冷蔵庫の修理のためにはやむを得ない。あんたが数日後に出直せばカバーを外して中を見ることができるだろ?!
瞬時にそこまで思い至ったが、どういうわけか私は気力をなくしていた。もう午後5時近い。この人、どこに住んでいるのか知らないが、きっと里心がついているのだ。金曜日、しかも寒い夕暮れである。早く家に帰って風呂に入りたい! こんな古い冷蔵庫の修理に付き合っていられるか!
私は台所を離れ、居間で映画鑑賞を始めた。この男と話しても生産性はない!
立派なことに、彼は妻女殿に3500円の振込用紙を渡し、
「これ、早く買い換えた方がいいですよ」
とのうのうとアドバイスしたらしい。
うん、もちろん買い換えは考えている。タイミングはこの家を出るときである。何しろ、台所に行き着くには必ず経由せざるを得ないダイニングルームのドアの横幅が狭すぎ、冷蔵庫の搬入、搬出が極めて難しい家なのだ。引っ越してきたときはダイニングの窓を取り外して入れたのである。いま冷蔵庫を買っても、そんな手間をかけて運び入れてくれる店があるか?
だから、引っ越すときに買い換える。それまでは漏れてきた水を拭き取る。それしか選択肢はない。
無論、冷却効果は落ちるだろう。その分、電気代も食うかも知れない。しかし、引っ越すまでは、構造的に買い換えはできないのだ!
もちろん買い換える。だが、断固として東芝製は買わない。これだけ嫌な思いをさせられたのである。そう心に決めても当たり前ではないか?
所得を隠し、粉飾決算をし、いまや痩せ細ってしまった東芝。その製品、サービスも地に落ちた。