2021
06.01

夏場対策として、空気清浄機を購入しました。

らかす日誌

空気清浄機をAmazonで買った。シャープのFU-L50、1万8800円也。

ご存知のように、私は喫煙者である。かつてはバスや電車など公共交通機関でも、喫煙車は大手を振ってタバコをふかしていたが、もうそれが許されなくなったことは十分に理解し、少なくともその社会的規制には素直に従ってる私である。

あ、ふと思い出したので、少し横道にそれる。

1987年、仕事で世界一周の旅に出た(「グルメらかす」でその一部は報告しております)私は、アメリカの国内航空に搭乗していた。当時でも、飛行機に乗る際「smoking」「no-smoking」を申告しなければならなかった。40歳を前にしながら、若者の初々しい感性を保持し続けていた私の取り得は「正直さ」であった。当然のことながら「smoking」にチェックを入れ、機中の人となった。

航空機内にsmoking areaがあることでも解るように、当時は今ほど喫煙規制は厳しくはなかった。それでも、である。「smoking」にチェックを入れた私の航空券に記された座席番号は機中の一番後ろから数列前であった。乗り込むにも、降りるにも、あの狭い通路を延々と歩かねばならない不便な座席だ。

「まあ、喫煙者は嫌われ者だから、仕方がないか」

素直を絵に描いたような私は、そんな諦めを抱きながら座席に座り込んだ。見れば喫煙席は後ろから4、5列しかない。全体の1割程度である。

「へえ、アメリカって、こんなに喫煙者が少ないんだ」

アメリカの街中では、もっと沢山の人がタバコを嗜んでいたと記憶する。なのに、航空機内にこれだけしか喫煙席がないということは、喫煙者は飛行機に乗る経済力がない貧乏人が多いということなのか?
アメリカのエリートは、健康の維持、体型の維持に血道を上げると聞いていた。金があるからジムに通って体脂肪を落とす。ジムに通えない貧乏人はブクブク太る。一目でリッチかプアかが見分けられる社会。タバコも、アメリカではいまや貧乏人のアイコンか?

ボンヤリとそんなことを考えていたときだった。前の席からこちらに向かってくる男性がいた。

「ほう、禁煙席から喫煙席に歩いてくるとは。ひょっとしたら、前の方のトイレが満席で、やむなく嫌なタバコにの臭いを突破して後ろのトイレに行こうってか?」

ところが、である。彼は喫煙席まで歩いてくると、やおら足の動きを止めた。何をするのかと見ていると、手をポケットに突っ込んで何かを採り出した。

「ピストル? ハイジャック?!」

とまでは思わなかったが、興味を持って見詰めていると、出て来たのはタバコの箱だった。1本採り出した彼は、ズボンのポケットから使い捨てライターをとり出して煙をくゆらせ始めたのである。
何のことはない。座席はドアに使い禁煙席にし、タバコを吸うときだけ喫煙席に身を運ぶという、身過ぎ世過ぎの知恵を備えた男性だったのだ。

「なるほどな」

考えて見れば、喫煙者といえども、1日24時間、絶えずタバコをくゆらせているわけではない。1日2箱、3箱吸ってしまうというヘビースモーカーだって、1時間に吸うたばこの数は3、4本である。5分もあれば1本吸い終わるから、「禁煙」している時間の方がはるかに長い。
その「禁煙タイム」は禁煙席で楽しみ、いざ「喫煙タイム」と思い定めたときに喫煙エリアに身を運ぶ。みごとな処世術ではないか。

喫煙者である私にそのような知恵を授けなかった日本社会は、甘いと言わざるを得ない。

いや、喫煙に関するエピソードを一つだけ思い出しただけである。他意はない。というわけで、本筋に戻る。

いまやタバコはみんなの嫌われ者になって、タバコを楽しめる場所がすっかり減った。閉め出された私たち喫煙者は不自由な思いをし、酒の席でも

「ちょっと……」

といいながら、通常は外に設けられている喫煙所まで足を運ぶ。タバコに高額の税金をかけ、私達喫煙者からなけなしの金をふんだくりながら、

「タバコの害から社会を守りましょう」

という政府、地方政府が腹立たしくもなるが、まあ、泣く子と地頭には勝てないのが世の定めである。それは仕方ないとしよう。

しかし、私は喫煙者なのである。せめて自宅では、ゆったりとタバコを楽しみたいではないか。

だが、自宅といえども敵はいるものである。我が家でいえば妻女殿だ。
妻女殿は、自らタバコをお吸いになる。タバコを嗜まれながら、何故かタバコの臭いを嫌悪される。

「なに、タバコの臭いが嫌だって? お前だって吸うではないか!」

と抗議しても

「私は台所で換気扇を回しながら吸うから臭いは関係ない!」

と言い放たれる。私が、日々楽しみにしている1日3回のパイプの時間を、朝、昼はどれほど暑かろうと、どれほど寒かろうと、屋外の駐車場に身を運び、汗をしたたらせながら、寒さに震えながらパイプから煙を吸い出す由縁である。

だが、72歳になり、暑さ寒さが身にこたえるようになってきた。加えて、妻女殿が禁煙を宣言されるにいたった。なんでも、今年の春になってしもやけが出来、医者に相談したら

「末梢血管の血液循環に問題がある」

といわれたそうな。タバコは毛細血管を収縮させる。

「だから、タバコはやめる!」

それはいい。金も助かる。だが、社会経験が豊富な私は、たちのよくない禁煙者に多数会ってきた。自分が吸ってる間は何事もないのに、タバコをやめると、タバコに関するすべて不倶戴天の敵にしてしまう。少しでもタバコの臭いがしようものなら、

「あんたは私を殺すのか!」

と言わんばかりの形相で睨みつける。

「昨日まではあんたも吸ってたんだろう?」

と正統に指摘しても、カソリックに改宗した彼ら、彼女らには屁でもない。いまや、正しい道に目を開いたのである。昨日まで囚われていた悪魔から解放されたのだと胸を張る。
ホントにそうなのか?

とすれば、である。我が妻女殿も、悪魔から解放されたクリスチャンになりかねない。そんなものになってもらったら、私の暮らしの幅が狭くなるだけである。

加えて、夏が目前である。窓を閉め切り、エアコンで室内温度を適温に保たねばならない季節である。締め切った部屋の中でタバコを吸うことになる。それに、出来れば汗を流さずにパイプタバコを楽しみたい。つまり、エアコンが効いた屋内でパイプを吸いたい! 対策を講じなければなるまい。

桐生にある群馬大学工学部(現在は、どういうわけか理工学部。名前を変えたって中身が変わるわけでもあるまいに)に、Sという先生がいた。桐生市内の飲み屋で知り合い、その後親しく交わったが、彼は私を上回る愛煙家であった。その彼が学部長になり、長年使っていた研究室を明け渡したあとの話である。

「いや、大学の立て前としては禁煙なんです。でも、私は自分の部屋で吸い続けた。まあ、部屋のすべてにニコチン、タールが染みついてますわ。学部長の時は研究室は開け渡すさなくてもよかったんですが、いずれは次の人に入ってもらわねばならない。だけど、タバコの臭いが染みついた部屋は嫌われれるでしょ? だから、脱臭したんです。ええ、シャープのプラズマクラスターを3年かけ続けたんです。3年かけたら、すっかり臭いが取れましたよ」

これから始まるであろう妻女殿による苛斂誅求を思いやったとき、我が糊の浮かんだのはS教授の体験談であった。

「臭いがしなきゃいいんだろ? プラスマクラスターでとってやる!」

かくして私は、1万8800円の投資を決断したのである。

何でも、もっとも脱臭力が強いのはオゾンらしい。O3。言い換えれば、女に飢えた男のように、常に一発やれる相手を探し求める活性酸素である。
ネットで見ると、オゾン生成装置も手頃な値段で売っている。プラズマクラスターにするか、それともオゾンと付き合うか。しばらくな迷った。
しかし、活性酸素は、相手を見極めることなく、やれるとなったら強姦を繰り返す問題児である。体内に取り入れれば、出会うものを皆酸化してしまう。つまり、錆びさせる。それはごめんだ。

というわけで、タバコの臭いに関しては安全パイを採用し、シャープのプラズマクラスター空気清浄機を採用した。届いた製品を見ると、プラズマクラスターだけでは心許なかったのか、炭を封入したフィルターも使ってある。プラズマクラスターとあわせて臭いを消し去ろうという試みなのだろう。

さて、群馬大学のS元教授がいうように、プラズマクラスターはタバコの臭いを消し去ることが出来るのか。
読者に中に、私と同じ問題を抱え治らっしゃる方がどれほどおいでになるかは解らないが、いずれ、この顛末は書かなければならないだろうと考える私である。