11.29
爆弾がやって来た。
昨日、我が家に爆弾がやってきた。
あかり、である。我が長男の一人娘、4歳と8か月少々。
いやはや、4歳の体力、活動力とはこのようなものであったか。とにかく、じっとしている時間がない。3人の子を育て、その3人の子の子供4人を時折世話してきたが、わが血統に属するこれまでの計7人にこれほどまでの活動力があったか? この8人目、ひょっとしたら突然変異か?
「ボス、来たよ」
と車から降り立ったのは昨日午前10時半過ぎ。我が家に上がり込むと、早速お土産を袋から取り出した。我が妻女殿への贈り物は何であったか知らないが、私への土産はダース・ベーダーのキーホルダーであった。何でも、スター・ウォーズ・グッズの店に行き、プレゼントする相手を思い浮かべながら1つずつ選んだのだという。そして
「ボスはダース・ベーダー」
と断言したのだとか。
おいおい、ダース・ベーダーといえば、ダーク・サイドに落ち込んだアンチ・ヒーローであるぞ! 全身に火傷を負ったため、常に生命維持装置を携え、それに連動したマスクを離せないサイボーグであるぞ!
あかりの目には、私がダース・ベーダーに見えるのか? それとも、お父さん、お母さんより偉そうな顔をいつもしているので、あの憎らしい怪物に見えるのか? おい、あかり、今年3月の誕生日に自転車をプレゼントしたのはボスなのだが……。
間もなく昼食にでた。息子嫁のリクエストで、行き先は鰻の「こんどう」である。彼女、義理の両親の顔を見るために桐生に来るのか、それとも鰻を食べるついでに我々の顔を見るのか?
ちなみに、大人4人子供1人で、うな重を4つとった。我が妻女殿は半人前しかお食べにならないので、それをあかりと折半した。
ところが、あかりは鰻が苦手らしく、4分の1程しか口にしなかった。残った4分の1は
「持ち帰ればいいわよ」
という妻女殿のアドバイスを無視し、息子嫁がペロリと平らげた。
君、本当に鰻が好きだな!
膝の手術の術後があまり良くなく、まだ長距離を歩けない息子は、我が妻女殿を車に乗せて我が家へ。残ったあかり、息子嫁、そして私は桐生が岡遊園地に向かった。もちろん、あかりのリクエストである。
「あかり、全部乗る!」
桐生が岡遊園地は動物園と併設され、丘の中腹にある。中を歩くと何度も坂道を上り下りさせられる。そこをあかりは、走る、走る、走る。歩いているのがじれったいかのように走り回る。大人2人はそのあかりの尻を追う。
「あかり、これに乗る!」
まず、アドベンチャーシップから始まった。いってみれば、大きな舟型のブランコである。前後に90度近く揺れる恐怖のブランコのはずなのだが、あかりと息子嫁の2人はその一番後ろの席、つまり一番高く持ち上げられる席に陣取った。さて、あかりは大丈夫なのか、途中で泣き出したりしないか? との私の心配をよそに、泣き出す気配な全くない。ニコニコしながら降りてくると、
「次はあれに乗る」
スカイヘリにご搭乗。ついでメルヘンカップ、園内を廻るモノレールであるミニレール、自分の足でこぐサイクルモノレール、そして50円玉を入れるとゆらゆら揺れる消防自動車、やはり50円でグルグル回るボートを経てメリーゴーラウンド、少し歩いて電気自動車を運転すると、
「もう一回お船による!」
とアドベンチャーシップへ。この間、遊具に乗っている時を除けば、あかりはずっと小走りである。こちらは、あかりが迷子にならないよう追いかけるだけで精一杯である。
遊園地を遊び倒すと、疲れた様子も見せず
「動物園に行こう」
実は、園内の高低差は、遊園地より動物園の方がはるかに激しい。
「えっ、動物園を歩くのかよ」
というのがボスの正直な気持ちだが、プリンセスのご意向には逆らえない。
ペンギンを見てライオン、猿山からキリン。ああ、動物園の一番下まで下がってきちゃった。今降りた分だけ登るのかよ……。
出口にちっちゃな土産物屋がある。3日も遊べば多分飽きてしまうだろう玩具を所狭しと並べ、おばちゃんが店番をしている。時代が50年は遡ったか、といいいたくなるレトロな店である。
子供は、こんな店を絶対に見のがさない。その店で、あかりの足がピタリと止まった。
見る、触る、見る、触る……。どうしても店から足が離れない。これは仕方がない。
「あかり、1つだけ買ってやろう。選びなさい」
物色を繰り返していたあかりは、指輪の前でピタリと止まった。右側の箱には1個100円の指輪が並んでいる。左の箱には、プラスチックのケースに入った指輪が入っている。1個200円也。
…………。
「あかり、これがいい」
200円の指輪がプリンセスのお好みに召した。100円玉を2個、あかりに渡す。
「これをおばちゃんに渡して、下さいなをしておいで」
大枚200円を投じての買い物教育である。
車に戻ると、書店を目指した。鰻の「こんどう」で鰻にはあまり関心を示さなかったあかりだが、待ち時間に店に置いてあったジグソーにはまり、5度も6度も繰り返し遊んでいた。それが記憶に蘇り、ジグソーパズルを買ってやろうと思い立ったのだ。
公文の、4、5歳用ジグソーパズル、絵本の「モチモチの木」「花さき山」を買った。絵本はどちらも滝平二郎柞。どちらも人を大事にする心、優しさの大切さがテーマにした名作で、私の子供たちにも読ませたいい作品である。
そう、滝平二郎では「ベロ出しチョンマ」が私の一押し作品であることをつけ加えておこう。この書店にはなかったので買えなかったが。
我が家に戻ったのは4時半頃。あかりとジグソーパズル。24ピース、36ピース、48ピースの3つが入っており、あかりと協力してすべてクリア。ハイタッチで見当を称え合う。
「おうちに帰ったら1人でできるように何度でもやってみな」
あかりたち3人が家路についたのは午後6時前。
「いまからね、ラーメン食べに行くの」
と喜んで帰って行った。
空襲警報解除。ゆっくりと風呂に入り、夕食を済ませるといつも通り映画鑑賞に移った昨夜の私であった。