2022
03.05

プーチンの頭のなか。

らかす日誌

この原稿を書こうと準備していたら、ふと

ボブ・ディランの頭のなか」(MASKED AND ANONYMOUS)

という映画の題名が思い浮かんだ。ディランが自ら脚本を書き、出演までしているコメディである。それほど楽しんでみた記憶はないが、なぜか題名だけは頭にこびりついている。

そう、プーチンの頭のなか、である。そんなもの、一度もプーチンにお目にかかったことすらない私に分かるはずはないが、ウクライナについての報道を日々見ていると、

「この人の頭のなか、いまどうなってるんだろう?」

と考えざるを得ない。

ウクライナに軍を進めたところまでは、見方によっては、いつまでもロシア包囲網を解こうとせず、一歩一歩ロシア国境に迫るNATOへの恐怖感が原因だともいえる、とは先日書いた。ナポレオンに、ヒトラーに攻め込まれた苦い歴史を持つロシアにとっては、本能的な反応なのかも知れない。だから、NATOに加盟する国々との間にバッファーとなる地帯を設けいた。それがロシアにとっての安全保障策である、という見方である。

だが、あろうことか、原子力発電所を攻撃したり、

「ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つ。我が国を攻撃すれば、いかなる国も敗北と悲惨な結果は免れないだろう」

と、ゴタゴタぬかすと、核爆弾を落としちゃうからね、といわんばかりの発言をするに至っては、

「あんたの頭のなか、大丈夫か?」

と危惧せざるを得ない。
ロシアが核ミサイルのボタンを押せば、対抗上、西側諸国だって核ミサイルの使用を考えざるを得ない。プーチンは本当に核兵器を使うつもりか? という考察がメディアを賑わしているのはそのためだろう。

しかし、普通の判断力を持った人間なら、自分の国の上空を核ミサイルが飛び交うなという悪夢を、自分の手で作り出したくはないはずだ。そこで問題はプーチンの頭のなかはどうなってるの? ということになる。

プーチンは狂った、という見方がある。私たちは近年、アメリカの大統領に頭の狂った人物が選ばれ、落選したあとも共和党に大きな影響力を持ち続けている狂った現実を体験している。だから、国のトップが狂うこともあるとは思うのだが、政府とは上御一人だけで運営するものではなく、必ずトップの政権運営を支えるスタッフがいる。だから、トップが狂えば

「殿、ご乱心!

と取り押さえたりするのである。プーチン1人が狂ったからといって、今のロシアのやり口が出てくるとは考えにくい。

いや、プーチンは最近、コロナを恐れることもあって、あまり人に会わない。常時顔を合わせているのは、KGB時代から親交が深い人物を中心にした取り巻き4,5人で、総てがこの少人数で決められている、というレポートもある。
なるほど、取り巻きとは取り巻かれる人の狂気にも付き合わねば取り巻きになれないわけで、取り巻いてしまえば、ご主人の狂い肩に輪をかけた狂いを演じなければ取り巻きの座にとどまれない。
そうか、やっぱりプーチンは狂っているのか。

いや、狂っているのではない、と書いている人もいる。
ロシアは2年後の2024年、大統領選挙を迎える。プーチンはすでに5選を目指して立候補する考えを明らかにしているが、悩みは最近の支持率低下である。19億ドルの豪華別荘を持っていることをすっぱ抜かれ、それ以来、プーチンの支持率は低下傾向にある。

「だから、一発逆転を狙ってウクライナに侵攻した」

というのである。
確かに、軍事的成功は国民の愛国心をあおり立てる。ロシアだけでなく、日本が真珠湾攻撃に大成功したというニュースに日本国民が快哉を叫んだのはわずか80年ほど前のことだ。一気呵成にウクライナを切り従えれば支持率が急回復し、安心して選挙を迎えることができる、とプーチンが考えたとしても筋は通る。自分の権力を維持するためにウクライナの人々に多大な迷惑をかけていいのか、なんてことは、プーチン並みの政治家になれば考えもしないことなのだろう。

だが、そんなプーチンの狙いが、思ってもみなかったウクライナの抵抗で壁にぶつかっている、との指摘もある。
ウクライナは人口4400万人ほどの国である。正規兵は20万人強。こんな国など90万人の兵力を持つロシアなら一揉みにできる、とプーチンは踏んだのだろう。ところがどっこい、思ったように侵攻が進んでいないというのである。
NATO未加盟のウクライナには欧米諸国からの派兵はないが、武器・弾薬の援助は豊富だ。加えて、ウクライナ軍は以前から米軍の指導教官を受け入れており、兵士たちの練度は高く、これがロシア軍を困惑させているのだというのだ。

以上はテレビや新聞、雑誌から拾ったデータである。こう書きながら、少し心配になってきた。

「思い通りにウクライナ侵攻が進まなければ、狂ったプーチンは核ミサイル発射に踏み切るのではないか?」

さて、それをプーチンに思いとどまらせるにはどうしたらいいのだろう? ゴルゴ13が実在すれば、ウクライナの政府は大金を積んでプーチンとその側近の暗殺を依頼しているに違いないのだが、ゴルゴ亡き現実の世の中ではどのような方策があるのか?

テレビは各国の反戦デモの映像を流し、戦火を逃れようというウクライナ難民の声を流し、故国を離れているウクライナ人の思いを流し、国際世論がこの戦争を押しとどめよ、と説く。
だが、そんな御託を、プーチンが聞き入れると思うか?

では、どうしたら?
それに応える知恵も、権力も、金も私にはない。事態の推移に一喜一憂ならぬ一憂一憂を繰り返しているのが最近の私である。