2022
02.25

心配です、ウクライナ。

らかす日誌

しかし、である。国境を接するとは困ったものである。軍事大国ロシアと国境を接するためにロシア軍に侵攻されたウクライナの人々は今何を考え、何をしようとしているのか?
海で他国と隔てられている日本の私たちには、大陸国にあり、国境線で他国と接している国のことは、本当には理解できないのではないかと思ってしまう。

ロシアがウクライナに侵攻した。空港などが攻撃の対象になっており、すでに200人近い使者が出たとも伝わる。報道はロシア、プーチンへの批難で溢れかえっている。

私とて、ロシアのやり口は許しがたいと思う。だが、頭のどこかに

「ロシアを非難するばかりでいいのか?」

という瘤のようなものがあって消えない。

ロシア、プーチンの立場に立ってみよう。
ロシアはソビエト政権を倒して出来た国である。同時に、古くはソ連に含まれていた地域が国として独立した。

一方の西側諸国は、旧ソ連をイデオロギーで相容れない国、仮想敵国として取り扱ってきた。NATO(北大西洋条約機構)は、仮想敵ソ連を封じ込めるための軍事同盟である。ロシアはすでに共産主義国家ではなくなり、「歴史の終わり」(フランシス・フクヤマ)とも言われてイデオロギーの対立はなくなったはずなのに、このNATOがいまだに存在している。

それだけでも、NATOの仮想敵であるに違いないロシア、プーチンには苛立たしいだろう。
その上今回は、かつてはソ連の一部であったウクライナが、NATOに加わりたいと言い出した。ロシアから見れば、旧祖国に対する裏切り行為である。

ウクライナなど、ソ連崩壊と同時に独立した国々は、ソ連の中核だったロシアから見れば、仮想敵国との間にあって緩衝地帯の役割を果たしていた。西側がソ連に攻め込もうとすれば、まずこれらの国々に侵攻しなければならない。それに時間がかかっている間に反撃準備を整え、敵を迎え撃つ。いわば国防上大切なバッファーだった。バッファーとされる国々にははなはだ迷惑な話だが、ナポレオンに攻め込まれ、ナチスにも国土を蹂躙された歴史を抱えるロシアの、それは安全保障政策なのだと思う。

事情はロシアになっても変わらない。共産主義を脱したとはいえ、ロシアはまだ西側諸国と同じ考え方、行動をとる国にはなっていない。アメリカをはじめとする西側諸国とは何かと対立を繰り返している。だから、最悪の場合は武力侵攻もあるかも知れないという危機感は持ち続けているはずである。核兵器を保有し、強力な軍隊を保持し続けるのはそのためだろう。

そして、いざ鎌倉、に備えた戦略を練る時、どうしてもバッファーが欲しい。旧ソ連だった国々にはバッファーになって欲しいのである。それなのに、いまだにロシアを敵視するNATOにウクライナが加入する? そうなれば大切なバッファーの1つが消える。
それは国防上、何としても防ぎたいことだろうし、ウクライナが引き金になって旧ソ連諸国が雪崩を打ってNATOに加盟するようなことになれば、ロシアは丸裸である。その日を思い描くプーチンは、内心ゾッとしてるのかも知れない。

それでなくともロシアは、中国との間に長い国境線を持つ。いまのところ仲よさげに見えるが、こちらだっていつ何が起きるか解ったものではない。かつては軍事を含めて様々な面で指導してきた中国も、いまやロシアを凌ぎかねない軍事大国なのである。
であれば、せめて西方だけは守りを固めたい、というロシア、プーチンの思いも、一刀両断にはできない気がしてしまうのである。

かつてのローマ帝国で、皇帝の役割は食の調達と安全の確保であったとは塩野七生さんが「ローマ人の物語」で書いていることだ。そして、主食である小麦のほぼ全量を輸入に頼っていたローマにとって、まず大切なのは安全であった、平和でなければ貿易など出来ようはずもないからだ、とも述べている。だとすれば、今のロシアにとって、経済制裁を避けるより、まずロシアの安全を考える方が優先するはずである。だからプーチンは決断した……。
だからといって、武力によるウクライナ侵攻が正当化されるはずはないとは思うのだが。

ではどうしたらいいのか、となると、考えあぐねてしまう。ただハラハラしながら見守るしかないのが、知恵も力もない私である。

さて、欧米諸国はどう対応するのだろう? 現実にウクライナで銃火に倒れる人がいる時に、経済制裁の強化で役に立つのか? それで足りないとなると、軍隊を派遣することもあり得るのか? それとも、所詮は他国のこと、と自らはリスクを取らないのか? ウクライナで緊張状態が続く中、台湾への武力侵攻を匂わせる中国はどう動くのか?

そもそも、今回のウクライナ侵攻までに、外交戦が繰り広げられたはずだ。米露も大統領だけが会話する政治ショーを展開するだけでなく、実務に当たる官僚同士のぶつかり合いもあったはずだ。アメリカはロシアの意図をほぼ正確に知り、ロシアはアメリカの姿勢を十二分に理解した上でのウクライナ侵攻。となると、アメリカも

「ここまではやむなし」

という一線を持っていて、ロシアもそれを知っていて、腹の探り合いをしているということか?

恐らく、私の頭だけではついて行けない事態が今起きている。
いやはや、何ともきな臭さが鼻を焼くような時代になってきた。