10.27
ん? 俺、どうなる?
昨日夕刻、医者から電話を受けた。25日に健康診断を受けたばかりの医者である。
友人に医者がいるのならともかく、医者から電話を受けるのは悪魔の囁きのようなものである。いい知らせであるわけがない。
「いや、どうも」
と電話口で話す私に、医者は言った。
「あなたの血液検査で気になる数値が出たので電話をしました。できるだけ早く来て下さい」
「はあ、どういうことですか?」
「前立腺の検査数値が良くないの。ほかにも尿酸値が高いというようなことはあるけど、それは後まわしでいい。この前立腺の数値が問題よ」
「はあ、それって前立腺ガンの恐れがあると?」
「単なる炎症であったらいいんだけどね。ま、専門医を紹介するからできるだけ早くいらっしゃい」
「できるだけ早くとは、来週初め、みたいな感じ?」
「いや、明日にでも、ということよ」
どうやら私はちょっとやばいことになりかけているようである。その割に意外と落ち着いているのは、
「前立腺ガン? だったら群馬大学の重粒子線で治るわ」
と思っているからなのか。それとも、高齢者の前立腺ガンは進行が遅く、放って置いてもいいという知識のためか。あるいは、
「やりたいことはおおむねやっちゃったから、まあ、この辺でもいいか?」
という人生観のためか。
まあ、いずれにしても警告を受けたことは事実である。明日病院を訪ね、専門医を紹介してもらうことにしている。抗炎症剤の服用で済むのか、あるいは群大病院に行って重粒子線の照射を受けるのか。専門医の判断次第である。
重粒子線は、親しかった群大教授が
「あれ、すごいですよ。見る見るガン細胞が縮んでいくんです」
と言っていた。欠点は焦点を合わせるのが難しく、動いている臓器のガンにはなかなかフォーカスを絞れないことだそうである。前立腺は動かないか
「前立腺ガンは絶対大丈夫!」
と彼はいっていた。
彼の言葉を信じるだけでない。馴染みになった床屋の親父さんに数年前、前立腺ガンが見付かった。医者からは
「手術で取り除けるが、男の機能が損なわれるかも知れない」
と脅され、悩んでいた。
話を聞いた私は、重粒子線を勧めた。恐らく、私が話した後もあれこれ迷ったに違いない。しかし最終的に重粒子線を選び、彼の娘に言わせれば、
「お父さん? 前より元気になったわよ」
泣き所は価格の高さ。私の知る限り、まだ健康保険の対象になっておらず。320万円かかる。320万円払えば、ガン細胞が死滅するまで何度でも照射するそうだが、さて320万円ね。生半可な価格ではない。
そこで私が調べたのは、私の保険である。確か最先端医療とか、ガン保険とかに入っていたはずだ。それによると、最先端医療は2000万円まで面倒を見てくれるとのこと。だったら、320万円なんて目ではない! ひょっとしたら、前立腺ガンで治療を受けることで、私は保険から多額の金お受け取り、車を新車に乗り換えるなんてこともああるかも知れない。
ま、何事が起きようと、受け止め方次第である。受け止め方は明るい方がいい。
というわけで、ひょっとしたらしばらく先には、闘病記を書くことにならうかもしない私が始まった。