10.27
とりあえず、2週間の投薬治療となりました。
昨日の続きである。
今日、詳しい結果を聞きに、健康診断を受けた医者に行ってきた。話はこうである。
「あなたはね、PSAの値が高いのね。70代だと基準値は4なんだけど、あなたは13.5もある。これ、4〜10の間だと前立腺ガンの可能性が5人に1人だとされてるの。あなたはそれより高かったからね」
ちなみに、PSAを日本語では前立腺特異抗原というらしい。こいつが血液中にたくさんあれば前立腺ガンが疑われる。なるほど、これはちょっとヤバいみたいだ。
「それにね、あなたは尿酸値が高めだし、中性脂肪値も十分高い。でもこれは後まわしにできる。とりあえずは前立腺よ」
では、どうしたら?
「泌尿器科で検査してもらいなさい。多分、細胞をとって検査することになるわ。かなり痛いらしいけどね」
痛いって、でも麻酔薬を使うんじゃないの?
「ああ、細胞を取る時は使うわよ。でも、麻酔が切れるとかなり痛むって。おしっこするととても痛く、時々尿に血が混じることもあるらしいわ」
えらく物騒な検査である。出来る事なら逃げたい。しかし、そういうわけにもいかないだろうなあ……。
で、何処で検査するの?
「ほら、すぐそこ。ここから近いI病院でやってくれるわ。いい先生らしいけど、人によっては『なんだか人の話を聞いてくれないような気がする』ともいうけど、腕の方は確からしいから紹介状を書くわね」
都会と違って、田舎は病院が密集している。しかも済んでいる人たちがみんな親戚どうしではないかと思うほど顔見知りだ。次の受診病院があるいて4、5分。田舎に住む最大のメリットかも知れない。
それにしても、ふむ、これは大変である。人の話をあまり効かない気難しい医者のところに行けってか? それだけでも気が重いが、行けば恥ずかしいところに注射針を差し込まれ、細胞を盗られる。検査のためだから仕方がないとはいえ、ねえ……。
紹介状ができるまで、待合室で私の気持ちは千々に揺れた。どうする? 行かねばならないことは理解している。でも、この病院を出てその足で行く? それとも後日にする? うーん。
数分して心が決まった。この足で行く。今日行かねば、あれこれ理由を見つけ出して検査を先延ばしにするに違いないと己の性格を見抜いたからである。行く。これから行く。痛み? 恥じらい? 無視せざるを得ないではない。でも、かなり怖い!
歩いて数分、泌尿器科のあるI病院に行った。受付に紹介状と保険証を渡し、20分ほど待つと診察室に通された。
待っていたのは50歳前後と見える男性の医師である。そうか、こいつが人の話を聞かない高慢ちきな野郎か。そう思うと戦闘意欲が湧き上がる。さあ、来やがれ。返り討ちにしてくれる!
「紹介状を読ませていただきましたが、いつ頃から自覚症状がありました?」
ん、人の話を聞かないと言われる割には、言葉づかいは丁寧ではないか。
「はあ、自覚症状と言いますと」
「尿が出にくいとか、残尿感があるとか、そういうことです」
「そうですか。実は10年ほど前に尿が出にくくなりまして、知り合いになった漢方薬屋さんに八味地黄丸を勧めらて飲むようになりました。それからは尿が出にくいことはないようです。残尿感は、そうですねえ、ああるような、ないような。何ともいえません」
「いまは尿意はありますか?」
「いえ、ありません」
「今朝、最期に排尿されたのは?」
「そうですねえ、9時半頃だったかな」
「そうですか。じゃあ、とりあえず膀胱と前立腺を見てみましょう」
えっ、これが患者の話にまともに耳を貸さない高慢ちきな医者か? 私には極めて丁寧に診察を進めてくれる医者としか思えないが。人によって受け止め方は様々あるようだ。恐らく、受け止める側の問題だろう。
ところで、膀胱を見るって、どうやって見るの?
「はい、そこのベッドに横になって下さい。下腹部を見ますので、ズボンを緩めて。はい、それで結構です」
なるほど、超音波で見るのか。
「これが膀胱ですね。これだけ尿がたまっている。この黒いところ、これが尿ですから。さて、次は前立腺です。これ、この丸いヤツ」
「腫れてますかねえ?」
「いや、大きさは正常値だと思いますよ」
それはよかった。まあ、暗い話ばかりの中に多少の光が差した思いである。
「次は前立腺が肥大しているかどうか見てみましょう」
えっ、前立腺肥大の検査。それって、肛門から指を入れてやるヤツ? それ、昔、妙齢の美しい女医さんにやられたことがあって、穴があったら入りたくなったんですけど……。
「はい、そうですね。お尻の穴から指を入れて触ってみます。じゃあ、腰を少し浮かしてパンツを下げて下さい」
「いや、これ、検査される方も嫌だけど、検査するお医者さんもイヤでしょ」
「まあ、これも私たちの仕事ですから」
そう言いながら、彼は薄いゴム手袋を装着している。やるんだ……。
あの屈辱の日と同じように、私のお尻の穴からズブリと指が差し込まれた。ウッ!
「それほど大きくなってはいませんね。少し固くなっているようですけど」
さて、この後いよいよ太い注射針で前立腺の細胞を盗られるのか。私は身構えた。ところが
「今日はこの程度にしておきます。それで、とりあえずお薬を出します。2週間服用してまた来て下さい。この薬でPSAの数値が改善されればいいのですが。 PSI値が高いと前立腺ガンが疑われますが、単なる炎症でも数値が跳ね上がることがありますので。で、この薬ですが、尿の出方が良くなった、若い頃みたいに勢いよく出るようになった、となれば薬が効いているので、尿の出方に注意して下さい。それから希にですが、この薬で立ちくらみが起きることがあります。もしそんな症状が出たら、薬の量を半分にして下さい。じゃ、これで今日は終わりです」
処方された薬はフリバスD錠という。1日1回、昼食後に服用する。1錠57.8円。効能書きには
「前立腺肥大症による排尿障害を改善するお薬です」
とある。
今日の昼食後、早速最初の1情を服用した。なんだかおしっこの出方が良くなったような気がするのは気のせいか?
次の診察は14日後。11月10日である。
さて、どんな結果が出るのだろう……。