2023
02.17

私は闇雲に糖質制限を進めているわけではない、ということ。

らかす日誌

糖質制限。食事から米、パン、麺類を排除する。おいおい、お前さんは新興宗教にいかれちゃったのかよ?! と後懸念の方もおいでなるだろう。第一、我が子どもたちはすべて、

「親父が狂った!」

思っているようである。だから、他人であるあなたがそう思っても無理はない。

だが、私は新興宗教に狂ったのでもなく、正常な判断力を失ったのでもない。高崎のS院長の解説に

「なるほど」

と頷いたにすぎない。
何故頷いたのか。四面楚歌に陥りかけた今、少々説明しておいた方がいいのではないか、と思い始めた。

話はややそれるが、私が栄養学を読書から学んだのは名古屋で単身赴任しているときのことだ。手軽な食事の作り方の本と思って買ってきた本が、実は綿密な栄養学に基づく本で、読めば読むほど面白く、同じ著者の本を、レシピまで含めて買い集めた。

その栄養学の基本は、カロリーであった。何故人は肥満するのか? 簡単である。食事で取り入れたカロリー数から、体の維持・管理、行動に費やしたカロリー数を引く。残ったのが体内に蓄積されたカロリーで、9kcalが脂肪1gに変換されてあちこちの贅肉となる。
必要な栄養素が含まれている食物のカロリーはやむを得ない。しかし、砂糖を使った菓子類は

「空のカロリー」

つまり、必要な栄養素を含まなず、肥満の元となる不要なカロリーだけしかないからできるだけ避けるべきだとあった。

「あなたは毒を口にしたくはないでしょ? 空のカロリーは万病の元ですよ」

というわけである。
だから、でもないが、私は甘いものをそれほど好まない。料理も砂糖を使うのはノーサンキューである。甘みが必要なら、みりんを使え、日本酒を使え。そちらの方がはるかに上品な甘みになるぞ。

さらに、栄養学では摂取総カロリーを管理しなければならない。避けるべきは肉類で、中でも

「動物性脂肪は体内に入ると固体になり、血管を塞ぎ、動脈硬化の原因になる」

とあった。だから、1日2500kcalが必要なら、その6割は米やパンなどの炭水化物からとり、肉、油脂はできるだけ減らす。昭和30年代の日本食は理想の健康食なのだよ。

以来、それなりに食べ物には気を使ってきたつもりである。肉類はあまり食べなくなった。タンパク質はできるだけ魚からとる。あるいは、大豆からとる。刺身、煮魚、焼き魚、寿司、全部大歓迎! 豆腐? あまり美味いとは思わないが、これも積極的に食べなくちゃ。今日の宴会は焼き肉屋? 俺、欠席しようかな。

これがつい先日まで信じていた栄養学の基本である。私と同様の「健康食」を信じていらっしゃる方はたくさんいらっしゃるに違いない。何しろ、栄養士さんが各種メディアに登場して勧めるのが、この「健康食」だから、なかなか疑いようがないのである。

ところが、なのだ。S院長は、私が長年信じ、実行してきた食に関する基本理念をあっさりと打ち壊してくれた。

「栄養学の基本になっているカロリーって嘘っぱちですから」

ん? カロリーが嘘っぱち? それ、どういうこと?

「知ってますか? 食品のカロリーって脂質、糖質、タンパク質を酸素のある状態で燃やして、1gの水を1℃上昇させる量が1カロリーなんです。0.25g燃やしたら1gの水が1℃上がった。だから、これは1gで4カロリー。でも、じゃあ、私たちの体の中に入った脂質、糖質、タンパク質が体内で燃えていますか? 風邪でもひいて高熱を出しても、せいぜい40℃でしょう。そんな温度で燃え出すものって、食品の中にありますか? 私たちの体は燃焼でエネルギーを取り出しているんじゃありません。全く違う仕組みでエネルギーを生み出している。だから、いま多くの人が信じて疑わないカロリーをベースにした栄養学って、嘘の上に組み立てられた無意味な学問なんですよ」

いわれてみればその通りである。体内で炭水化物が、タンパク質が、脂肪が燃え始めたら、私たちは直ちに焼死する。おそらく、体内でのエネルギー産出を計算できず、空気中で燃やしたときの値を基礎にしてしまったのだろう。基礎が崩壊した栄養学に頼るわけにはいかない。

では、あるべき栄養学とはどのようなものか。いや、私には栄養学なんてどうでもいい。体にいい、私たちが健康になる食べ物とは何か?
私はS院長の話に引きずり込まれたのだった。

「あのね、我々ホモ・サピエンスは25万年前に現れました。まだ農耕は発明されていませんから、当然狩猟・採集の暮らしです。勢い、食べ物のほとんどは動物の肉で、時々森で見つけたナッツ衣類や果物を食べていた。やっと農耕を始め、穀物を食べ物の中核にしたのはせいぜい1万年前でしょう。だから、残念ながら私たちはまだ、穀物を中心に摂取する暮らしに適応していないのです。それが様々な病の原因になっています」

こうして私の前に「糖質制限食」のドアが現れ、いつの間にか

「入ってみるか?」

という気になっていたのであった。

次回からは、入ってみた部屋の中の様子をお届けする予定である。