2023
02.19

糖質制限は安全なのだろうか?

らかす日誌

これまで食べてきた物から、「空のカロリー」とも呼ばれる糖質と、多少の食物繊維を取り除く。だから健康に影響はないはずだ、というのが私の糖質制限に対する理解である。
狙いがダイエットにあるのか、糖尿病体質の改善にあるのか分からないが、「糖質制限」をうたった食べ物が、一部の店頭に並んでいる。以前ご紹介したローソンのフスマパンもそのひとつだし、昨日はスーパー、ヤオコーで小麦を使わないスパゲティを見つけ、とりあえず一袋買ってみた。これも「糖質オフ」を看板にする商品である。

それなのにネットで糖質制限についてコメントされている方々は、口をそろえるように

「危険だ」

とおっしゃる。本当か? 積極的に糖質制限を勧めておられるS院長はどう考えておられるのか?

S院長は、糖質制限を危険だとする考え方を4つに別けておられる。

1)糖質制限を行うと、どうしても高たんぱく・高脂肪食となり、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化による病気のリスクが高まる。

2)糖質制限に伴うたんぱく質の過剰摂取は腎臓に負担をかけ、腎機能悪化の恐れがある。

3)長年の習慣である「主食と副食」という食生活が「主食なし」と一変するので脱落する人が多い。または出来っこない。
4)糖質制限にともなう脂肪摂取の増加は発がん性がある。

そしてこれに丁寧に反論されている。

1)糖質制限に伴う脂質(コレステロール)摂取の増加は、血中コレステロール値とは無関係であることはすでに米国厚生省(HHS)/農務省(USDA)の共同声明と、日本動脈硬化学会の勧告で示されている。

3)かならずしも糖質ゼロにする必要はなく、たとえば夕食だけご飯を食べない、というだけでも十分効果がある。それに、「ふすまパン」や、「こんにゃく麺」(現在本場イタリアで大流行のZen Pastaは乾燥しらたきだが、食感はふつうのパスタと区別がつかない)などの代替食品でも満足感が得られる。

4)糖質制限・高脂肪食に発がん性があるという根拠はない。むしろHDL-コレステロールが高いほど、大腸がんのリスクが低下することが示されており、糖質制限に必ずといってもいいほど認められるHDL-コレステロールの増加は大腸がんのリスクを低下させる可能性がある。

S院長が主眼とされたのは2)だった。そして、これについては

全く根拠がない。このような意見を言う人は、腎機能と腎不全とを混同しているのだと思われる。
たしかに、すでに腎機能が悪化している人では高たんぱく食が腎機能障害を進行させることを指摘した論文もあった。しかし、正常腎機能の人が高たんぱく食で腎機能を悪化させるという証拠はない。

その根拠として示されるのが

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2010年版」も、タンパク質摂取の上限(耐容上限量)は設定されていない。その理由は

「タンパク質の耐容上限量は、タンパク質の過剰摂取により生じる健康被害を根拠に設定されなければならない。しかし現時点では、タンパク質の耐容上限量を策定し得る明確な根拠となる報告は十分には見当たらない。そこで、耐容上限量は設定しないこととした」

日本腎臓病学会2010年のガイドライン (CKDガイド2012年)は、糸球体濾過率(GFR) 60ml/分以上(ステージ2未満)であれば、たんぱく質制限は必要ない、と明記している。日本糖尿病学会でも2013年、同様の声明を出している。

米国糖尿病学会(ADA)は、Position Statement on Nutrition Therapy for the management of adults with diabetes(糖尿病の栄養療法に関する声明)Diabetes Care 2013年10月9日オンライン版で、糖尿病性腎症では、たんぱく質制限は推奨しないとの声明を出している。ステージ3までの腎機能障害(糸球体濾過率>30%)では「たんぱく制限は血糖値に影響を与えず、よって心血管疾患のリスクも変えず、さらに糸球体濾過率にも影響がない」というのが理由である。
原文を示すと。
For people with diabetes and diabetic kidney disease (either micro- or macro-albuminuria), reducing the amount of dietary protein below usual intake is not recommended because it does not alter glycemic measures, cardiovascular risk measures, or the course of GFR decline.
(糖尿病および糖尿病性腎臓病(微量アルブミン尿または巨大アルブミン尿)の患者さんでは、食事性タンパク質の量を通常の摂取量より減らすことは勧めない。血糖値測定、心血管リスク測定、GFR低下の経過に変化がないためである)

つけ加えれば、ステージ4以上の高度腎機能障害、血液透析や腎移植が必要な末期腎不全の患者での糖質制限の研究はいまのところない、とS院長はコメントしている。

私の腎臓はまだ正常に働いている。どうやら、糖質制限に危険性はなさそうだ。
あ、昨日に日誌に書いた

「筋肉を分解してブドウ糖を作るため筋肉量が減り、体力を奪われる」

という疑いに対するS院長の見解はうかがったことがない。今度お目にかかったときに聞いてみよう。