2023
10.13

私と朝日新聞 2度目の東京経済部の2 「A級債」⇔「永久債」

らかす日誌

Tokyo Money」はYaさんと私でまとめる連載である。Yaさんは、直前は確か金融担当だった。この企画も、多分彼の提案だったのだろう。私と違ってYaさんは時代を見抜く鋭い目を持った先輩だった。金融を取材しながら

「いま、日本の金に大変なことが起きてる」

と感じ取ったのに違いない。
鋭い知性も感性も持ち合わせていない私はYaさんについて歩くしかない。何しろ、私の金融資産ときたら、会社から給与を受け取るために開いた銀行の普通口座があるだけである。定期預金などない。ましてや、投資信託、株・債権投資などは考えたこともない。考えたとしても、投入する金もなかった。ほかには朝日新聞の信用組合に借金がある程度である。金融はまったく知らない世界なのだ。これからは全てが勉強なのである。

「大道君、取材に行こう」

Yaさんは毎日私を誘った。記者としては金融のベテランともいえたYaさんでも、知らないことは多々あるらしい。私はノートを持って付き従うだけである。
日本銀行、日本興業銀行、東京銀行、三井銀行、富士銀行、野村證券、大和証券……。取材先は多岐にわたった。そのたびに、お経にも似た、まるでわからない話を聞かされる。仕方ない。これをメモして、1つずつ知識として呑み込んでいくしかない。

ある日、外資系の証券会社を訪れた。Yaさんと、取材に応じてくれた幹部が話している。私はひたすらノートを取る。

確か、日本企業の資金調達も国際化が進んでいるという話の流れの中だったと思う。

「ユーロでエイキュウサイが発行されている」

と取材先が話した。ユーロとは、ユーロ市場のことである。何でも、自国以外の金融機関に預けたお金=ユーロマネー=が取引される市場のことをいう。各国の規制が及ばないことから自由に金融取引ができる、というのは、後に知ったことだ。初めて耳にする「ユーロ」は、私の頭では、ヨーロッパの金融市場、と解釈された。なんで、そんなところまで出かけて金融取引をするのだろう?
その程度の理解力しかなかった。

それにも増して戸惑ったのが、「エイキュウサイ」である。耳にはそう聞こえた。だから私は

「A級債」

とメモした。
ほう、ユーロ市場(の理解も間違っていたのだが)で発行される債券にはクラス分けがあるのか。A級債があるのなら、B級債、C級債だってあるのだろう。どんな基準でクラス分けするのかな? A級債は最も上のクラスだろうから、信用度の高い企業、例えばトヨタ自動車、新日本製鐵などがユーロでA級債を発行し、一番安い金利で資金を調達しているのかな。

それがまったく見当違いだったことを知るにの、しばらくかかった。さて、誰に教えてもらったのかはっきりしないが、多分Yaさんと話していて、

「大道君、それはまったく違うよ」

と指摘されたのではなかったか。

「エイキュウサイ」とは「A級債」ではなく、「永久債」であった。英語で言うと「perpetual bond」である。国や企業が発行する債券は普通、3年、5年といった償還期限が決まっており、満期が来れば償還される。しかし「永久債」は償還期限を明示しておらず、「永久債」を発行した国や企業は利子を払い続けるだけである。株式に似ているが、あくまで債権なので、経理上では「資本」ではなく、「負債」の部に入る。詳しいことはわからないが、こうした資金調達方法にメリットを見出す国、企業もあるのだ。

「A級債」⇔「永久債」

こんなことも知らない記者が、国際金融の取材をして記事を書くことが本当に出来るのか?

前途多難を思わせるスタートアップであった。