12.24
私と朝日新聞 2度目の名古屋経済部の18 見た目にも気をつけないと
名古屋では、意図した訳ではないが、クリスキットの普及にも一役買った。
「えっ、このスピーカーはどこのですか?」
と問いかけたのは名古屋経済部で一緒だったYa君である。その日、確か
「俺の手料理を食べさせてやる」
と何人かを我がワンルームマンションに招いていた。このワンルームマンションに横浜で使っていた200リットルのスピーカーボックスは置けない。サブシステムに使っていた120リットルも無理である。そのため、アンプはクリスキットを持ってきたが、スピーカーは1本1万円ほどだったJBLの小型スピーカーを買った。1人の時、客が来た時、よく音楽を再生していた。Ya君はその音を聞きつけたのである。
「こんないい音は聞いたことがない!」
当時、音響システムの音質はほとんどスピーカーで決まる、というのがマニアの間で常識とされていた。Ya君はその常識に従って、よい音の原因、スピーカーを知りたいと思ったのである。
だが、クリスキットの常識では、音質の80%はアンプ、中でもプリアンプで決まる。私は解説してあげた。
「音がいいのはスピーカーのせいではないよ。これ、1本1万円の安物だもん。このアンプが決め手だ」
私は諄々とクリスキット哲学を説いた。やがて
「僕も作りたい」
という後輩がYa君を含めて2人現れた。
「だけど、作り方が分かりません」
そこで、私が制作の指導をすることになった。工具は私のものを使い回せば済む。ハンダもたっぷりある。だから、
「ハンダごてだけ買っておいで」
と2人に告げ、クリスキットの注文方法も教えた。2人が組み立てるのはプリアンプのMaek8-DとパワーアンプのP35 Ⅲである。
ある休日、いよいよ組み立てることになった。2人は朝9時頃、我がワンルームマンションに来た。ここから先は、「音らかす」で詳しく解説した組立て方を口と手を使って2人に注ぎ込んだ。
最初は戸惑っていたハンダ付けも、数をこなすうちになんとか様になるようになった。そして、やがて完成した。
「大道さん、出来ました!」
という声を聞き、私は点検作業に入った。なるほど、出来ている。音も正常に出た。よかった、よかった、と思いながら眺めていて、何となくしっくりこないところがあることに気がついた。1台のP35 Ⅲである。見た目が、何か違う。
「どこがおかしいのだ?」
じっくり見た。そして発見した。ピンジャックの取り付け方である。
ピンジャックとは左の写真の一番上に8つ並んでいる部品である。見て分かるように、厚紙にRCAプラグが2つ並んでいる。そして、これも見てわかると思うのだが、これはアンプの筐体の裏側から止めるものである。そうすれば表に出るのはRCAプラグだけになり、見た目が美しい。
ところが、このピンジャックが筐体の外側に取り付けてあった。厚紙を含めて全てが外に出ているのだ。それが違和感の正体だった。
「君、これは内側から止めるものだよ」
「え、そうなんですか。でも、機能的にはどちらから止めても同じでしょう」
それはそうである。ここにはプリアンプから出て来た音楽信号が入るところで、それがパワーアンプの必要なところに結線されてさえいれば機能上は問題はない。
「じゃあ、君はズボンを裏返しにはいて平気なのか? 機能だけ考えるのなら、あれだってどっちを外に出して履いても同じだろ?」
他愛もない話しである。ただ、朝日新聞記者にはこんな悠揚迫らざる大人物もいたことを知っていただきたくて書き留めておくことにした。
それにしても、彼らはまだ、あの時作ったクリスキットを楽しんでいるかな?