2023
12.29

私と朝日新聞 2度目の東京経済部の58 ウイークエンド経済は楽しい!

らかす日誌

福岡で起きたことは「編集部調査報告第2弾」で読者に伝えた。それで終わっても良かったのかも知れない。だが、ウイークエンド経済編集部内には何だか物足りないという空気が漂った。これだけで済ませていいのか? いったい、何故こんな悪辣な経済行為が生まれるのか? 単に、少し頭のいい、欲に駆られた悪人がいたというだけの話なのか? バブル経済とは、そんなずる賢いヤツらが主人公なのか?

翌週、私たちは「編集部調査報告第3弾」を掲載した。これもまず、記事の見出しで中身を想像していただこう。

中古マンション 高騰許した融資・税制
売買代金違う2通の契約書 実際の買値を超えて融資
金融機関の審査甘く 担保価値、高めに評価
「節税」で投資に拍車 赤字目当ての「損益通算」 「買い換え特例」で地方へ

もう想像していただけたと思う。私たちはバブル紳士たちの跋扈を生み出した制度、金融機関のあり方をまな板に載せたのである。この記事の書き出しはこうである。

「マンションの代金を支払っても、なお貯金ができるほどの融資をしてくれる金融機関。借金して購入し、赤字を出せば課税逃れのできる金融制度。中古マンションの異常な値動きを取材していくうちに、住まいをマネーゲームの道具にしてしまった構造が浮かび上がってきました。中古マンション調査報告第3弾は、融資、税制面にスポットをあてながら、マンション高騰を許したからくりを調べました。マンションの調査シリーズは今回でひとまず終わります」

やり玉に挙げたのは、まず銀行の杜撰な貸し出しだった。大阪市内の自営業者が2240万円で福岡市の中古マンションを買った。ところが、銀行が保管している売買契約書に書かれた売買代金は3520万円。仲介に立った関西建物が勝手に作った売買契約書だった。そして2800万円が融資された。マンションを買った自営業者は560万円の貯金ができたことになる。
こんな融資が次々に明らかになった。こうして世の中にお金が流れ出して溢れ、バブルという名のシャボン玉があちこちで膨らみ、やがて割れて消えてしまったのがバブル経済だったわけだ。

そして税制。借金をして不動産を手に入れ賃貸に出せば、毎月のローン返済額が賃貸収入を上回って赤字になる。この赤字を本業の所得と合算すれば課税所得が少なくなり、節税になる。「損益通算」という仕組みだが、これがマンション投資を後押しした。

では、どれぐらい税金が安くなるのか。私たちは試算した。モデルは年収1000万円のサラリーマン。専業主婦の妻と2人の子供がいる。
2500万円のマンションを頭金500万円、ローン2000万円で買い、月10万円の家賃で貸した。必要経費として認められるのは

・ローンの利息
・建物の減価償却費
・維持費(管理費、修理費など)
・固定資産税、都市計画税など

家賃収入から必要経費を差し引くと、不動産所得は年間146万5000円の赤字になる。

マンションを買わなかった場合、所得税と住民税は計145万円。マンションを1戸持つと税金は約96万円に減る。4戸持てば課税所得はなくなり所得税はゼロ、住民税は1万円あまりになる。

いいことばかりのようだが、税負担が軽くなるだけで全体としてみれば持ち出しの方が多い。マンション1戸所有の場合、家賃収入と節税額からローン金利と維持費、固定資産税などの支出を差し引いた年間の赤字は約30万円

それでもマンション投資が盛んだったのは、地価の上昇を背景にマンション価格が上がり、やがて赤字を上回る売却益が入るという期待感があったからだ。それがバブル経済の実態だった。多くの人がバブルに酔ったわけである。

この記事でも、私はアンカーだった。それぞれが取材したことを記事にし、それを私がまとめて1本にしたのだった。

それにしても、こんな仕事は楽しい。担当分野を持って取材すればどうしても視野が狭くなる。自動車担当をしていれば自動車業界には詳しくなるが、すぐ横の家電業界、鉄工業界、流通業界などには目が向かない。専門記者といえば通りはいいが、やがてその業界に洗脳され、全体を見通す目をなくしてしまう。

だが、ウイークエンド経済では

「面白い!」

という話を追いかけることができた。書きたい記事を書くことができた。専門知識がない分野にもずかずかと入っていけた。この仕事が面白くないわけはない。締め切りの日は徹夜になることも多かったが、それでも仕事が楽しかった。

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2023年の「らかす」は本日までとする。このページに訪れていただいている方々も年末年始は何かと多忙だろう。こんな、読んでも読まなくてもかまわない話に付き合っていて抱く時間はほとんどないだろう、と考えてのことである。ほかにやらねばならない仕事が多少あることも、「休暇」を取る理由である。ご承諾いただきたい。
新年は4日から再開する予定にしてる。それまでお待ちいただきたい。

それでは皆様、よいお年を。