10.12
2008年10月12日 厄日
連休の中日というのに、朝から不快なことが続いた。厄日か?
1件目はパンクである。
今日も次女の旦那は勉強会で、朝から出かけた。となると、当然の如く、次女と瑛汰は我が家に来る。お迎えとお送りは私の任務である。
そういえば昨日、妻と娘が話していた。
「明日、近くの幼稚園で運動会があるんだ。瑛汰を連れて見に行こうかなと思って」
「ああ、そう。じゃあお父さんに迎えに行ってもらえばいいわ」
私の意志や都合、快不快についての問い合わせは、今回も一切ない。まあ、お抱え運転手に、
「あなた、明日の都合はよろしくて?」
などといちいち聞く雇い主はいない。これは、このような家族を持った男の宿命と思って諦めるしかない。
というわけで、朝10時過ぎ、車で我が家を出た。すぐに変な音がし始めた。我が愛車は新車で買って3年目である。
「おいおい、こんなに早くエンジンに不具合が出るか? 出たら欠陥品だぞ!」
と思いながら運転していたら、ダッシュボードのあたりから警告音がし始めた。
「えっ、そんなに重傷なのかよ?!」
速度計やタコメーターがあるあたりを覗き込むと、タイヤのマークが出ていた。パンクである。
が、心配はない。私の車がはいているのはランフラットタイヤである。パンクをしても100km程度は走ることができる。エンジンではなかった。心安らかに娘と瑛汰を迎えに行き、運動会が開かれている中学校まで走った。駐車場はなく、仕方なく路上駐車をし、私は車に残った。
しばらく時間がある。この時間を利用して、ディーラーに電話を入れた。私の担当員は接客中で、若いお兄ちゃんが出た。
「タイヤの警告マークが出ちゃってさ」
「パンクだと思います。安堂さん、釘でも拾われたんではないですか?」
「そうかもね。ランフラットタイヤって修理できるの?」
「はい、できます。でも、修理はお薦めできません」
「えっ、でも修理できるんだろ?」
「はい、できますが、同じタイヤがもう一度パンクしたら、安全に走っていただけるかどうか保証できませんので」
こいつ、アホなんじゃないか? 直感的にそう思った。そう思えば、理屈は後からついてくる。私の頭は、実に便利にできている。
「ちょっと待ってよ。ランフラットタイヤって、中の空気が抜けても、ある距離は安全に走れるんだよね」
「はい、その通りです」
「だったら、パンクを修理したって安全に走れるはずじゃない」
「いえ、メーカーでは、一度パンクしたタイヤは初期性能を失うので、安全は保証できないといってます」
私の直感は正しかった。こいつ、やっぱりアホである。
「待ってよ。ランフラットタイヤって、横の部分が強く作られていて、空気が抜けたらそこで重量を支えるんだよね」
「はい」
「タイヤメーカーは100kmの走行安全を歌ってるんだよね。ま、実際は200km程度は走れると思うけど、まあ100kmにしておこう。だったらさ、パンクして修理するまで10km走ったとすると、修理後のタイヤは、空気が抜けても90kmは安全に走れることにならないかい? 単純な計算だけどねえ」
「いえ、だから申し上げているように、パンクをしたタイヤは傷を負ったわけです。だから、その後は保証できないわけで」
「分からん人だなあ。いいかい。パンクをした。修理をしなければ100kmは安全に走れる。10km走って修理をした。そうしたら後の安全は保証できない。だったら、安全に走れたはずの残り90kmはどこに消えちゃうのよ。それを教えてくれよ」
「いえ、ですから」
「もういい。君はタイヤメーカーの回し者か? ディーラーって、客の立場で物事を教えてくれるんじゃないのか? もういい。勝手にやる!」
次女と瑛汰を乗せて、ガソリンスタンドに向かった。真新しい釘が刺さっていた。
修理後、ディーラーの私の担当員から電話があった。彼はもう中年を過ぎたベテランである。
「皆さん、修理して乗ってらっしゃいますよ。大丈夫ですって」
一例だけで決めつけてはいけないが、いまの若いヤツ、人から言われたことを鵜呑みにするだけで、自分の頭で理屈を考えないのかなあ。
日本の先行き不安は、サブプライム問題だけではない。
昼前だった。先週買ってきたDVD-R DLを取り出した。開封していた10枚パックがそろそろなくなりかけたので、新しい10枚パックを取り出すためである。
一時は高かった DVD-R DLだが、最近はずいぶん価格もこなれてきた。前回買った時は国産品が10枚パックで1980円、木曜日に行った時は1980円のものもあったが、すぐ横に1880円の国産品があった。迷わず安い方を取り、6パック買った。
自宅で取り出した10枚パックを手にとって、何故か違和感があった。メーカーは、これまで使っていたのと同じTDKである。プリンタブルで、それもセンターの近くまで印刷できる。全く同じ機能の商品が、どうして1パック100円安いんだろう?
よくよく見てみた。ない。肝心なものがない。
「CPRM デジタル放送対応」
の表示がない! 代わりに、
「データ用」
と書いてある。あちゃー。
Content Protection for Recordable Mediaを縮めてCPRMという。ダビングしたDVDからのコピーをできなくしようという、放送の中身に関わる連中の既得権益を守ろうという不届きな規格である。憎んでもあまりある規格だが、それは本日のテーマではない。本日のテーマは、デジタル放送をダビングできないDVD-R DLを60枚も買ってしまったことである。
こんなもの、我が家に置いていても何の役にも立たない。秋葉原のF商会に電話をした。私はいつもここで買うのである。
「というわけで、取り替えて欲しいんだけど。もちろん、差額は払うよ」
「困りましたね。お客様、レシートはお持ちですか?」
「いや、袋はあるけどね」
「レシートがないと、交換や返品にはお応えできないんですよ。当社の伝票処理も面倒になりますし」
交換ができない? それもレシート1枚のことで?
ここでまた切れそうになった。本日2回目である。
「ちょっと待ってよ。そりゃあ、間違って買ったのは俺だよ。それは分かっている。でも、これは我が家では糞の役にも立たないんだ。DVD-R DL60枚に焼かなきゃいかんほどのデジタルデータの持ち合わせもないし。だから困って電話してるんだろうが」
「といわれましても……」
「いいかい、俺はお宅のカードも持ってる。自分の非を認めて頼んでいるのにそんな対応しかできないのかい? それはないだろう?」
「しかし、レシートがないことには……」
「あんなもの、誰が後生大事に取っておくっていうんだ。それほどいうんなら、これからうちのゴミ箱をひっくり返してみるわ。探してみるよ。出てこないかも知れないけど」
こうなったら焼け糞である。紙ゴミをひっくり返すしかあるまい。でも、土曜日に紙ゴミは出したしなあ。袋から商品を引っ張り出したのはいつだっけ? レシートが出て来なかったらどうしよう……。
「分かりました。お客様、いつお買いあげになったのでしょうか? せめてそれぐらいのデータをいただかないと」
いつ? といわれてもなあ。昔のことなら記憶にあるが、最近のことはとんと頭に残ってくれないという年代なっているし。
とはいうものの、1万円超のお金がかかっているのである。必至に記憶を探った。
ここ1週間以内だったとは思うんだが。いや、待てよ。秋葉原に行ったのは、夕方から入谷で仕事があった日だ。行く途中で寄ったんだ。
あの日は仕事が終わってから入谷のおでん屋で飯を食った。4人で食って、私の支払いは6000円だった。おでんで6000円とは高しぎはしないか? だって、おでん基本セット1200円なんて書いてあったのに。
いやいや、いまはおでんの価格を批評する時ではない。問題は、それがいつだったか、なのだ。
壁のカレンダーを見つめた。ああ、そうだ。あれは前から入っていた飲み会の約束がキャンセルになり、おかげで入谷の仕事ができた日だ。ということは……。
木曜日! ピンポーン!!
「うん、木曜日だよ。思い出した。お店に行ったのは午後の4時過ぎだ。間違いない」
私の不確かな記憶力も、1万円超がかかるとなると、割と正常に働く。現金なものである。
「分かりました。今回限りということで、お取り替えいたします」
「ありがとう。では、午後2時頃に伺います」
昼食後、車で秋葉原まで出かけた。駐車場の料金を払うのはいやなので、次女と瑛汰を車に乗せ、高速も使わずに秋葉原に向かった。ちょうど瑛汰の昼寝の時間である。早く着きすぎては、瑛汰の昼寝を破ってしまう。
道路脇に車を止め、次女と瑛汰を車に遺して交換に向かった。
戻ってみると、私の車から警察官が離れようとしていた。次女に聞いた。
「どうしたんだ?」
「5分以上泊まっているから車を移動しろ、って警察官が来たのよ。おかげで瑛汰も目を覚ましてしまって」
その直後に私が戻ったらしい。ま、実害はなかった。車を止めた場所が警察署の過ぎ近くだったのがいけなかったか。でも、ほかの場所は車が占領していたしなあ。
運転席に座り、車を発進した。間もなく、瑛汰はまた眠りに落ちた。
車の中が何となく臭う。安っぽいポマードの臭いである。
「おい、その警察官、窓から首を突っ込んだか?」
「どうして?」
「安っぽいポマードの臭いがする」
次女は、そうかな? という顔をしていた。私はポマードの臭いが鼻について辟易した。
夜、次女と瑛汰を送る時も、ポマードの臭いは車中に残っていた。2人を降ろして、窓を開けて走った。
明日も、あの安っぽいポマードの臭いは残っているかなあ。
1日のうちに不快が3つ重なる。
2008年10月12日は間違いなく厄日であった。