05.24
2012年5月24日 2日遅れですが
忘れておった。
前回の日誌を書いた22日は、私の63回目の誕生日であった。
前日の21日、横浜の瑛汰から手紙が来た。
「ぼす たんじょうびおめでとう」
という中身だった。
22日夕、四日市の啓樹が電話をしてきた。
「ボス、誕生日おめでとう」
だった。
それだけである。我が妻女殿からも、子供たちからも、私が愛おしく思う女御からも、何の働きかけもお言葉もなかった。
「ボス、誕生日のプレゼント何がいい?」
と言う瑛汰の電話に
「ギター」
と答えたのがいけなかったのかも知れない。
「下手に声をかけると、Martinのギターを買わされるぞ、放っておけ!」
という暗黙の合意が関係者の間に広がったのだとすれば、不徳の致すところである。
という次第で、22日に日誌を書きながら、己の誕生日のことなんて頭から消え失せていた。
ま、この歳になって誕生日はめでたくない。私の誕生日など、この程度の取り扱いでいいのである。望んででいいのなら、せめて私が愛おしく思う女御からの電話ぐらい欲しかったが……。
ところで。
四日市の啓樹から、とてつもない写真が送ってきた。
これ、何だと思います?
啓樹によると、段ボールで作ったカブトムシである。
見た瞬間、こいつは天才ではないかと思った。まだ小学校の2年生である。人に言いたくない誕生日を迎えたばかりの私にも、とても作れそうにないオブジェを、こんなに立派に作られては、私の立つ瀬がない。
「どうしてこんなもの作ったんだ?」
「うん、ボスに買ってもらった昆虫図鑑を見てたらカブトムシが好きなってさ。それで作ってみようと思って作ったの」
いまにも飛びかかってきそうなカブトムシの躍動感が凄い。一見、マジックで雑に塗られた黒も、段ボールの色を背景にリアルな感じを出している。
「パパに手伝ってもらったのか?」
「違うよ。啓樹が自分で作ったんだよ。これさ、羽根も動くんだよ」
…………。
啓樹、凄い。ボスは心から感心した。
啓樹はいま、絵本を執筆中である。夏休みまでに仕上げる計画とか。小学2年生、馬鹿にしたものではない。
啓樹が出れば、瑛汰も登場せざるを得ない。
何でも瑛汰、就寝時には、枕元に本を重ねておくのだそうだ。まだ5歳にもかかわらず、かなり自由に本が読めるようになった瑛汰は、ボスを真似て、就寝前の読書を楽しんでいるらしい。
「昨日もさ」
というのは次女からの電話である。
「朝起こしに行ったら、目をさましてすぐに本を開いて、『ああ、そうか』なんていってんの。一人で本を読みながらクスクス笑ったりもしてるし、私、自分子だけど、ちょっと気持ち悪いよ」
子供たちが、知的にすくすくと成長する。気持ちがいい。
昨日、私のエレアコ、DCPA3が売れた。
この人なら、ヤフオクで高く売ってくれるのではないかという知人宅に持ち込んだら、
「なに、これ、俺欲しいよ」
となり、
「いくら?」
と問いかけるので、
「ネットで買い取り業者を探して電話をしたら14万円といわれた、市内の質屋さんに業者間取引価格を調べてもらったら、12万円だそうだ」
と答えたら、
「その間でいい?」
というから即決した。彼は昨日、1時間ほどギター演奏を楽しんだのだという。
「やっぱり、いい音するね、Martinって」
というから、
「俺の惚れたギターも、俺の惚れた女も、そりゃあいいに決まってるでしょ?」
と答えておいた。
その金と、コンビニのATMで引き出した金をもって、いつもの楽器屋、私が通うギター教室を経営する楽器屋に行ったのは今日である。ギターの取り寄せを頼み、あわせて価格交渉をし、金を前払いしようとの懇談である。
「やっぱりそうだよね。買うんだよね」
と店長がにこやかにいった。頼んでもいないのに、Martinの00028ECが置いてあった。
「なんで、これがここにあるの?」
「いや、大道さんが欲しそうな話をしてたから、とりあえず取り寄せておいた方がいいかと思って」
商売人の勘は鋭い。
「で、値段なんだけどさ、ネットで調べた最安値は27万8000円、あのAmazoneでも29万3000円だよ。以前話したとき29万5000円が限度だといってたけど、もう少し頑張ってもらわないと」
「もういいですよ、ネットにあわせますよ……。ギリギリなんだよなあ……」
こうして、最安値で手に入れた。
抱くと、これまで弾いていたギターに比べて、右肩がガクッと下がる。その分、肩の負担が少ない。さあ、ギター練習を再開するぞ! 目指すはClapton!
と、本来なら燃えるところだが、何故か今日は、朝から右肩がいつも以上に痛む。おい、先生、本当にこれ、時間がたったら治るのかね? といいたくなる痛みである。
「昨日は外に出て、大量に酒を飲んだなあ。酔っぱらって寝てしまったので、ひょっとしたら右をしたにして眠っていたのかな?」
と反省するほどの痛みで、せっかく憧れの名器を自宅に持ち帰ったのに、触る気にならない。私が愛おしく思う女御がそばにいても、体調次第では手を触れる気分になれないのと似通っている。
というわけで、まだチューニングもしていない。
明日は是非触りたいと思いつつ、今日は眺めるだけの私なのである。