02.28
2014年2月28日 Layla
しばらく前、東京のSさんから、今回のEric Clapton日本公演に関して、どう読んでも不満たっぷりのメールをいただいた。
「良いも悪いも、ブルースとバラードの、とても落ち着いた大人のライブで、客席が盛り上がる曲は、『COCAINE』くらい、エレキバージョンの『LAYLA』はやらず、アンコールも1曲しかなく、それもクラプトンが唄う曲じゃない、とか、なんとなく消化不良で帰ってまいりました」
と、ご本人のご承諾も得ないまま勝手にコピペしてしまったが、これ、どう読んでも
「詰まらなかった」
と言うふうにしか読めない。
中でも、出だしだ。
「良いも悪いも」
とは、いいものを取り扱うときにはぜったに使用しない日本語である。
今回は見送った私には想像するしかないが、あの神の手を持ったEric Claptonのライブに満足できない? 何とも腑に落ちない話である。
決めは末尾だろう。
「消化不良」
ふむ。
と思っていたら、今度は会社の後輩からメールが来た。この人は感動の一夜であったらしいが、
「ただLaylaはアコースティックバージョンだけで、わたしとしてはやはり、あのエレクトリックギターバージョンを聴きたかったです」
両者に共通するのは、Laylaに関する失望である。
おかしいな。このLayla、私は自分で弾けるということも手伝って、どちらかといえばアコースティックバージョンの方が好きである。あのUnpluggedでやったLayla。あの良さがどうして分からない? 余分な音をそぎ落として訥々と歌う、リリシズムに溢れた哀しい恋の叫びに、どうして魂を揺さぶられない? エレキバージョンなんて、会場あげてワイワイ騒ぐためのお決まりソングになりさがっているじゃないか。
なのに、私が武道館に足を運んだときは、一度もアコースティックではやってくれなかった。そうか、今年はアコギでLaylaやったんだ。やっぱり行けば良かったかなあ。だけど、何でこの人たち、失望するんだろ?
私が好きなものを、同じようにEric Clapton大好きというこの人たちは好まない。あるところまでは感性が共通していているのに、あるところから突然道が右と左に分かれる。まったく、人間って摩訶不思議な生きものだよな。
という程度で忘れていた私の元に、先日、Eric ClaptonのDVDが5枚届いた。といっても、誰かが親切にも送ってくれたのではなく、自分で注文したものだから、届くのは当たり前である。
その中に、
「Eric Clapton Baloise session 2013」
という1枚があった。昨年11月、スイス・バーゼルの音楽フェスティバルでのライブである。かつての盟友、アンディ・フェアウェザー・ロウも加わったセッションだ。
プロのカメラマンが撮った見事な映像だが正規発売はされておらず、海賊版だ。
それを再生した。12曲目がLaylaである。
Eric Claptonは、ボディを紺色に塗った素敵なアコースティックギターを抱えている。恐らくMartinで、やたらと飾りが多いから、かなり値が張る物だろう。綺麗だ。
そして、Laylaの演奏が始まった……。
「? ん? ???」
それ、何か違わない? 妙に軽いリズムで、テンポも速い。友人、George Harrisonの妻に狂ってしまった苦しい恋、救いのない胸の内を切々と歌い上げるというより、何かニヤニヤしながら他人の失恋のうわさ話をしてるような……。
違う、違う!
「あのー、あなたが不満に思ったアコギバージョンのLayla、ひょっとしてこのアレンジじゃない?」
このDVDをコピーし、東京のSさんに送った。
「見てみて」
来た来た、返事が。
「先日のアコースティックバージョン『Layla』、まさに、Baloise session 2013と同じアレンジです。本人の思い入れは理解するとしても、何というか、せっかくの曲が『台無し』な気がしてしまいます」
そうか、やっぱりそうか。
ということは、あれだ。問題は、アコギかエレキか、ではなくて、曲のアレンジだったんだ。
しかし、Eric Claptonといえばアレンジ。Laylaだって、元々のエレキバージョンを、Unplugged Concertでアコギの曲にアレンジ、大向こうを唸らせ、結果としてEric Claptonは極めつきのメジャーなミュージシャンになった。「オズの魔法使」の名曲、Over the Rainbowだって、ジャズのコードを沢山使ってアレンジしたEric Claptonバージョンは実に洒落ている。子供向けの映画の主題歌であったとはとても思えない大人向きの曲に仕上がっている。
それが、Laylaでこのアレンジ。どうした、Clapton!
と思いながら本日夕、久しぶりに我がギターでLaylaを奏でた。自己採点は57点。まだ人前で披露するような代物ではないことを再確認した。
私も、Sさんに煽られたのか、何だか消化不良になりそうだ。Eric Claptonの次回公演、恐らく2年後だろうが、行かねばなるまいかなあ……。