2019
03.10

2019年3月10日 あかり帰る

らかす日誌

8日から長男一家が来ていた。ということは、あかりも一緒ということである。

事前に、あかりの誕生日プレゼントを頼まれていた。レゴである。7日に長男が発注した荷物が我が家に届いた。これもあかりの誕生日プレゼントである。

「ほほう、あかりの誕生日を我が家でやるのか。それにしても、あかりの誕生日は13日だったはず。繰り上げるのかな?」

というのが私の認識であった。

8日、昼過ぎに到着した。昼食を済ませて桐生が丘動物園。

「エネルギーパンパンなので、昼間に疲れさせないと大変なことになる」

というのが、長男夫婦の解説でのお出かけだった。

この日は寒かった。気温が上がらず、おまけにかなりの風が吹いた。そのためか、動物園の動物たちは縮こまっており、なかなか動こうとしない。そりゃあそうだろう、この寒さだもん。陽だまりで暖をとるか、暖房の効いた部屋に引っ込んでいたいわなあ。

坂の多い動物園で、あかりも多少は体力を使ったであろう。ところが、これが翌日から裏目に出るとは、付き添った大人の誰一人として気がつかなかったのは迂闊である。

それはそれとして、自宅に戻った夕方から誕生日会の準備が始まった。ケーキは午前中に、マリー・ポールという洋菓子屋から引き取ってきた。ロウソク2本付きである。
我が妻女殿は折紙で、リングチェーンを作っておられた。これが狭いダイニングルームの壁にセロテープで取り付けてあった。長男夫妻が持参したのは「2」の形をした大きなバルーンである。これは壁に立てかけた。

「あかりちゃん、何歳ですか?」

と長男夫婦が呼びかける。何度か呼びかけていると

「にさい」

と小さな声であかりが答えた。2歳?

「おいおい、まだ1歳だろう。誕生日はもう少し先じゃないか」

と思わず声をかけると、

「何いってんの。あかりのだ誕生日は今日だよ」

えっ、あかりの誕生日は3月8日?
そういえば私、長い間、四日市の啓樹の誕生日は12月31日だと思い込んでいた。15日であると知ったのは啓樹が何歳になってからだったろう?
この手の記憶障害、思い込みの強さは私の持病なのか?

それはそれとして、あかりは無事ケーキのロウソクを吹き消し、「ハッピー・バースデイ」を合唱して誕生日会は粛々と進み、やがてレゴが2つもプレゼントされた。
私が買わされたのは8900円

「えっ、そんなにしたの?!」

と声を出した長男によると、このレゴ、すでに生産が終わっているものとのこと。生産中は5000円もしなかったそうである。それが生産停止で貴重品となり、約1.6倍の高騰。あくどいぞ、Amazonに出品していた販売業者!
にしても、長男夫婦が買ったレゴはその半額程度。奴らの作戦勝ちか?

あかりの異変は翌朝現れた。大量の鼻水である。くしゃみとともに2本の鼻水が鼻から飛び出す。
この日は「華蔵寺公園」か「ぐんまこどもの国」に行く予定だったが、そうもいかぬ。多分、気分が悪いのだろう、あかりは朝からぐずり気味である。耳鼻咽喉科に駆けつけた。

「お父さん、頼りない先生でした」

といったのは、あかりのママである。
なんでも、

「はあ、これは風邪か花粉症ですね」

という最初の一言は、まあ、詳しいことはもっと調べなければ分からないだろうと聞き流したそうだ。ところが、次の言葉が聞き流すには強烈すぎた。

「お薬を出しましょう。この薬は10歳児を基準に作ってあるので、1回当たり10分の1程の量を飲ませてください」

総じて、小さな子のママというのは医学知識、中でも小児科系の知識が豊富なものである。あかりのママも、2年間の子育てで博識になっていた。

「先生、そんな薬ではなく、小児用のムコダインじゃいけないんですか?」

反問された先生はオタオタしたらしい。

「あ、あ、そうですね。それでもいいですね。うん、ムコダインにしましょう」

患者の母親に指摘されて処方薬を変える。そんなに見識がなくても耳鼻咽喉科は務まるのか?
これが桐生の医者の平均像だとは思いたくないが……。

戻って昼食。薬を飲ませるとやや落ち着いた。あかりが落ち着くと、

「やっぱり出かけようか」

慢性体調不全のわが妻女殿を気遣ったのだろう。やはり出かけることになった。行き先は、マタニティカフェ,ラルゴ

しかし、である。あかりは超個性派である。10数人の参加者でコンサートが開かれていたが、あかりは歌のお姉さんも、周りにいる子どもも大人も一切無視し、一目散におもちゃ箱に駆けつけた。次々におもちゃを引っ張り出し、一人で遊ぶ。パパと私に

「これ、あげる」

と運んでくる。まわりで何が起きていようが、どんな人が周りにいようが、あかりは一切無視である。究極の個性派、極めつけの天上天下唯我独尊派。

2歳になったばかりだというのに、何と頼もしいことか。

1時間ほどでカフェを出て新川公園。遊具は滑り台しかない、だだっ広い空間である。
一目散に滑り台を目指したあかりは、だが、滑ろうとしない。上に上がり、あちこち居所を変えながら

「ここだよ」

と私たちに声をかけ、私たち大人が走り回るのをて楽しんでいる。
長男が

「あかりちゃん、どうして滑らないの?」

と声をかけても一切無視である。
たがて、長男が素っ頓狂な声を出した。

「あかり、うんちしてるわ! だから滑らないんだよ」

確かに、おむつの中にうんちの固まりがあれば、腰を下ろせばうんちがお尻中に広がってくっつく。そうか、あかりは極めて繊細な皮膚感覚を持ち、肌を気持ちよくしておくにはどうすればいいかの知恵を備えた2歳であったのか。

図書館でおしめの取り替え。だが、あかりに発熱の兆しがあり、帰宅。

というわけで、あかりは今日も機嫌が悪かった。悪いまま、川崎に戻っていった。

3時間ほどして、長男からFacsTimeが来た。iPhoneの画面にはあかりがいる。

「あかり、おうちに着いたのか?」

無視

「何してるの?」

無視

レゴ製作に夢中らしい。そういえば、目線はずっと手元に向いている。こちらを見ようともしない。

「そうなんだ、いま一所懸命作ってるんだ」

無視

「じゃあ、バイバイね」

無視

あかりは個性の強い2歳の女の子である。繰り返すが、頼もしい