2019
04.27

私の身体、もうしばらくは役にたちそうだ

らかす日誌

群馬大学関連の仕事がそれなりに忙しくなってきた。

今週水曜日は、東京に出かけた。木曜日の午前10時に銀座の会社に営業するという仕事があって、

「早い時間だから、前日から東京に行っておこう」

という話になったのである。同行者は2人。
うち一人が、

「東武線西新井の駅で会いましょう。そこまで車で迎えに行きます」

ということだったので、午後2時過ぎの東武鉄道の乗客になった。
西新井で車に乗り換え、向かったのは上野である。ここにホテルをとったという。

「別に上野でなくてもいいじゃないか。久喜とか東武動物公園前でもホテルはとれただろうに。それに、そちらの方が安いはずじゃないか」

と聞いてみると、

「だから、安い方から埋まっているんです。安いホテルは海外からの旅行者で満杯。やっと上野で空きを見つけたんです」

なるほど、海外からの旅行者が金持ちばかりとは限らない。あこがれの日本、東京に来ても帝国ホテルに宿をとる金がない人たちは、少しでも経費を節約しようと安い宿泊先を探す。東京見物をするのに、東京近郊のホテルを使って宿泊代を安く上げようというのは生活の知恵だろう。

ということで、車は一路上野を目指した。予約を取ったというホテルはナビに入れてある。その指示に従えば着くはずだ。車はトヨタのプリウスである。

「この辺のはずなんですが」

そのホテルには駐車場がないという。そこでまず車を駐車場に入れ、周りを見た。それらしいものは見あたらない。何だか連れ込みみたいなホテルが数軒あるだけである。

「おい、君と二人で連れ込み宿にしけ込むのか?」

同行者は40代後半、バツイチの男性だ。そのような事態は避けたい。

「冗談じゃない。普通のホテルのはずですよ」

そのような事態を避けたいのは私だけではないらしい。一安心である。
が、安心しても目的のホテルは見あたらない。

「おい、もう一度ナビで検索してみないか?」

今度は違った地点を指した。それに従って車が動く。が、同じ所をグルグル回るだけで目的のホテルは見つからない。

「おかしいなあ」

彼はスマホを取り出し、スマホのマップで目的地を探し始めた。

「あれ、高速道路の反対側みたいだなあ」

トヨタのナビの性能はその程度らしい。しっかりせよ、トヨタ!

「多分、あの辺ですよ」

公共駐車場に車を止め、2人で歩く。彼はスマホのマップとにらめっこである。
私たちの足はアメ横に踏み込んでいた。

「こんな所にホテルがあるのか?」

「このマップじゃこっちになってますもん」

歩く。アメ横を歩く。何だか猥雑な街を歩く。アメ横を歩くなんて何年ぶりだ?

「ああ、ありました。やっぱりここでした」

大変にものすごいホテルだった。
まず、入り口が通りに面していない。通りから人一人歩くのがやっとの横町に入ると、入り口ではなくエレベーターがある。そして、フロントは2階と書いてある。

2階に昇った。エレベータのドアが開く。首を出すと狭苦しい通路が見えた。ここにホテルのフロント?
いや、フロントがあった。そして、普通はフロントの前にあるロビーがない。あるのは「通路」としか呼べない空間である。そこに、アジア系の家族と思われる人々がたむろしていた。ある人は椅子に、ある人は床に座り込んでいる。どうやら観光客らしい。大人が数人、子どもが数人。何家族いるんだ? 安いホテルを探してここにたどり着いた人々か?

フロントでチェックインを済ます。

「お泊まりいただくのは、一度ここを出ていただいて、通りの反対側にある建物です」

と説明してくれたのは、言葉を聞く限り日本人ではない。アジアからの留学生のアルバイトか。それとも、留学を終えて日本で働くべく、このホテルに就職したのか。
フロントのカウンターの上には、電子翻訳機が置いてある。ということは、ここはアジアからの観光客を当て込んで作られたホテルなのだろう。いくつもの国から客が来るから、2つや3つの言葉を話せても間に合わないのだろう。
国際都市・東京の一面である。

そこを出て、指定された別棟に歩を運ぶ。カードキーでガラスのドアを開け、建物の中に入る。こちらにもロビーなどない。ドアの先には通路があり、エレベーターがある。エレベーターに乗ると、カードキー返却用のボックスがあった。

「そうか、だからこのホテルは料金先払いなのか」

先ほどフロントで、料金を取られたのだ。
考えてみれば、これほど合理性の固まりのようなホテルはない。ホテルとは、要は寝ることさえできれば用が足りる。不要な空間であるロビーなどは設けず、料金は先払いで、チェックアウトする客はボックスにカードキーを放り込む。フロントはチェックインの受付さえすればいいから、従業員をギリギリまで減らすことができる。
アジアからの客に向けたホテル業とはこのようなものらしい。

やがて3人目もやって来て、夕食である。鳥料理専門店に案内された。3人目はまだ30代の若手である。私を除いた2人が1次会だけで済むはずがない。ある程度お腹ができると、2次会へ直行!

何度も書いたが、間もなく私は古希である。明日28日には、子供たちが横浜で古希の祝宴を張ってくれるので朝から出かける。そのような年齢になると、2次会は基本的に避ける。己の体力と相談した上でのことだ。が、このような流れになると、人一倍空気を読む能力がある私は流れに乗らざるを得ない。

なお、一部には、私を空気の読めない男と表現する人々がいる。その人々は、この日の私は単に酒を飲みたかっただけ、あるいは久々の東京で,単にお姉ちゃんのいる店に行きたかっただけ、と表現するであろう。まあ、彼らを否定するつもりはない。人の機微を理解する能力が私より少ない方々であるなあ、と同情するだけである。

2次会だけならまだましだったであろう。
3人目は近くに住む。よって彼は2次会を終えると帰宅した。残った2人は、普通ならアジアからの観光客目当てに作られたホテルに戻って眠りをとるものである。

「大道さん、何だか腹減っちゃった。ラーメン食べましょうよ」

と声をかけたのは40代後半の男性である。
で、食った。リンガーハットのチャンポンを。そして飲んだ、確かビールを2本。

かくして翌木曜日午前10時、我々は営業先に顔を揃えたのであった。

情けないことに、二日酔いであった。事前に朝食をとるべく喫茶店に入ったが、口にできたのは半きれの食パンとコーヒー、ゆで卵程度。
それでも、年の功というのはある。二日酔いを自覚しつつ、営業だけはきちんと済ませた。いや、済ませたはずである。最初は半信半疑だった営業先の人の目が、後半はキラキラ光っていた(と思えた)のだから、なにがしかの印象を残したことは疑いない。これを、きちんと営業を済ませたといわずして、何と表現したら良かろう?

その程度であれば、まあ、酒が嫌いではない私には日常的にあることである。違ったのは、東京・銀座で営業を済ませた木曜日、夜は群馬県沼田市で飲み会の約束が入っていたことである。これも仕事の一環なのでサボるわけにはいかない。

東武鉄道で駅弁を食べながら桐生に戻ったのは午後2時過ぎ。何となく身体がだるい。できることならボーッと過ごしたい気分であった。だが、私はそれから沼田までドライブしなければならない。沼田のホテルで午後5時に落ち合う予定である。落ち合うのは、東京にご一緒した40代後半と、群馬大学の先生、それに沼田の農業法人の中心人物である。

疲れを自覚しながら沼田まで走る。無事ホテルに着き、チェックインして3人と顔を合わせ、沼田の彼が予約してくれた飲み屋へ。

「いや、俺、昨日東京で飲み過ぎたらしくて二日酔い気味なんだよね。酒は控えめにしなくちゃ」

といいながら、生ビールで乾杯。大学の先生も

「俺もさ、昨日高崎で飲み過ぎちゃって」

元気なのはあの40代と、地元の彼。二日酔い2人と、そうではない2人の対決。
やがて、

「あのさ、今日は酒を控えなくちゃ、といってる俺のグラスが、どうして減り方が一番早いの?」

と全員に声をかけたのは私である。

「あ、ホントだ」

と応じたのは残り3人である。対決の序盤で優位に戦いを進めたのは、何とであった。
このあたりから、どうやら調子に乗ってきたらしい。その後は最初のアヘッドを活かしつつ、他に見劣りしないペースで生ビールをおかわりし、日本酒に切り替えて確か4合。

「大道さん、この焼酎、美味いよ」

といわれて、焼酎の水割りを10杯。二日酔いには迎え酒、というのは真実なのか?

沼田でのことゆえ、2次会はなし。
ホテルに戻り、パイプたばこをくゆらせてベッドに入った。

目が醒めたのは午前4時である。腰が痛い。そうか、このベッド、柔らかすぎるんだ。
やむなく床に横になる。ベッドから掛け布団を引きはがしてかぶるが、眠りが訪れない。30分も横になっていただろうか、とうとう睡眠を諦めて起き出し、テーブルに向かって読書を始めた。たっぷり読めた。

ホテルで朝食を取り、帰宅したのは昨日午前10時頃だった。眠い。だるい。リクライニングチェアで1時間ほど仮眠をとった。
沼田から桐生まで、赤城山の麓を回って戻ってきたが、きっと酒が残って軽い飲酒運転だったんだろうなあ……。

午後は妻女殿を歯科医にお連れ申し、午後5時から群馬大学関連の仕事のホームページ造りの打ち合わせ。そう、営業を含めて様々な場面に顔を出すようになった私は、ホームページの担当でもあるのである。

というわけで2日間働き通し、昨夜はいつものように映画を2本見て、西川ムアツ布団で熟睡。今日は何だか疲れが抜けたようである。やっぱりいいのかな、西川ムアツ布団?

過酷な労働にもかかわらず、一夜の睡眠で元に戻り、今日は朝から原稿の点検を続けた。
この身体、もうしばらくは役にたちそうである。