12.14
皆様、冬支度は済みましたか？
石油ストーブ、エアコンの暖房を使い始めてもう1ヶ月ほどになる。わが妻女殿は、寝る前に布団乾燥機で布団を温められるようになった。半年ほど前
「布団にダニがいるみたい！」
と訴えられ、私があれこれ調べて布団乾燥機で敷き布団、掛け布団を加熱し、ダニを殺そうと決めて購入した。いつものようにAmazonでポッチンしたのだが、ものが到着したころにはダニ騒動は一段落しており、布団乾燥機は使われないままとなっていた。
「朝起きると全身が痛い」
というのが最近の訴えで、
「であれば、寒さが悪いのだろうから、寝る前に布団乾燥機で布団を温めておけば少しはいいかもしれない」
とアドバイスしたが、わが妻女殿は頑固である。あるいは、超保守派である。長年続けてきた生活習慣を改めることに驚くほど慎重で、暮らしに利便性を取り入れようとのわがアドバイスはほとんど無視される。その性癖を十二分に理解しながら、蹴飛ばされるに違いない提案をし続ける私は生来の善人である。
布団乾燥機もいつもの例に漏れず、2、3度のアドバイスでは行動が始まらぬ。あまりのことに
「だったら布団乾燥機、不要品で出そうか？」
との嫌みを口にするにいたって、やっと重い腰を上げられ、最近はお使いになっているようである。
おっと、我が家の内情を暴露しても仕方がない。要は、本格的な冬がやって来た、と言いたかったに過ぎない。
今週は西高東低の冬型気圧配置が強まるそうだ。日本海側では大量の積雪も予想されている。となると、わが桐生にもいつ雪が降り始めるか分かったものではない。そこで今日、車のタイヤをスタッドレスに履き替えた私である。
タイヤの交換でおかしなことが起きた。
交換をお願いしたのは、スタッドレスタイヤとホイールを買い、夏場にはスタッドレスを、冬場にはノーマルタイヤを預かっていただいている市内の整備工場である。
作業が終わると社長さんがおっしゃった。
「タイヤはローテートしておきましたから」
つまり、昨冬前輪に使っていたタイヤは後輪に、後輪であったタイヤは前輪に用いたということである。なるほど、配慮が行き届いている。
3080円の費用を支払い、
「ありがとね。じゃあ次は来年3月末かな」
と挨拶して私は走り出した。来年のカレンダーもしっかりいただいた。
ゴソゴソゴソゴソ
車のどこかから音がする。車内のBGMとして聞いている落語にこんな音が入っていたかな？
ラジオを消す。やっぱり音がする。何だ？
信号が赤だ。止まる。音が消える。青。走り出すと再び
ゴソゴソゴソゴソ
速度を上げるとゴソゴソの間隔が短くなり、速度を落とすと
ゴソ ゴソ ゴソ ゴソ
と緩やかになる。
あれまあ、タイヤが何かに触れている！ えっ、ひょっとしてボルトがしっかり締まっていない？ 車輪がぶれて車体をこすっている？ ということは、このまま走るとタイヤが外れる？
すぐに整備工場に電話を入れ、脱輪の恐怖に怯えながら引き返した。走ると音が出るんです。
「えーっ、そんな！ ……、出ますね、音」
せっかくはめたタイヤを取り外して調べてくれた。見ると、後輪のホイールがブレーキシステムの一部に触れて削れている。当たった部分のブレーキシステムも削れているのはもちろんだ。これ、作用反作用の原則？
「ああ、ここ、当たってますねえ」
うん、これで異音の原因は分かった。でも、なぜ？
「4つのホイール、全てBMWの正規品だよね。それなのに、昨冬はこすれず、前と後ろを入れ替えた今年は擦れてしまう。こんなことってあり？」
「あり得ないですよ、もちろん」
といいながら、社長さんは
「とりあえずやってみましょう」
といいながら、再び前と後ろのタイヤを入れ替え、装着してくれた。
「あれー、今度は擦れないわ。不思議！」
再度強調するが、4つのホイールはすべてBMWの純正品（中古ではあったが）であり、規格はすべて同一である。だから、論理的には起きるはずのない不具合である。だが、現実には起きるはずのない不具合が起きている。
「うーん、とりあえずこの冬はこれで走って下さい。来春、タイヤを夏用に取り替えるときに調べてみます」
不思議といえば、昨冬は同じ不具合が起きなかったことである。4本のホイールのうち2本は、後輪に取り付けるとブレーキシステムと接触する。ということは、接触しない2本をたまたま前輪に取り付けていたことになるからだ。
「そんな偶然、確率論的にはほとんど起きえないことですよね」
「そうですよ。えーと、確率を計算すると……」
私は九州大学法学部の出身である。社長さんは群馬大学工学部（現理工学部）を出ている。国立大卒が2人。期せずして一致したのは
「えーっと、確率ってそうやって計算するんだっけ？」
「あー、私も忘れました」
かくして、私の車の冬支度は済んだ。あとは雪が降るのを待つだけである。