03.07
群馬大学医学部付属病院での初診はあっけないの一言であった。
起床6時35分、出発7時半過ぎ。それでも群馬大学医学部付属病院に着いたのは9時少し前だった。というのも、迷ったからである。
最初は、iPhoneのナビで迷った。家を出てすぐに指示してくれる道が
「えっ、それよりこっちの方が近いだろう」
と思わせるものだったので、私はナビを無視し、自分のルートをとった。
「ああ、そうなのか」
と理解したのは走り始めて15分ほど、街中に出てからのことだった。私はひたすら国道50号線に出る道を選んでいたのに、ナビは裏道を案内していたのである。理解してからはナビに従った。ちょうど出勤時間帯である。だから50号は混み合うとナビは判断して裏道を指示しているのだろうと推測できたからだ。
2度目は群馬大学医学部付属病院に着いてからである。
「ん? 駐車場にはどうやったら入れる?」
入口を探しながら群馬大学医学部付属病院を2周してしまった。結局、正門から入ることが分かったのはその結果である。
流石に国立大学の付属病院である。広い。まるで迷路としか思えない通路を、外来受付目指して歩く。途中にレストランがあったり、コンビニがあったり、まるでモールを歩いているような気分である。案内指示を何度も見やりながら、外来受付にたどり着いたのは9時を少し回った頃である。
目的地に時間内にたどり着いて少しゆとりが出た私は、周りを見てみた。
「こんなに病人がいるのかよ!」
と驚くほど人が多い。この受付周辺だけでも、恐らく100人を遙かに超す患者、あるいは患者の付添人がいる。
予想通り、ここで結構足止めを食った。病院の事務って、どうしてこんなに時間がかかるんだろう? 不思議である。
「では、これを持って3階の泌尿器科の受付に行ってください」
といわれたのは10時前。いはい、分かりました。3階ね。
その泌尿器科受付で先ほど渡された書類を出す。
「では、これに記入してください」
と渡されたのは、既往症やアレルギーの有無を聞くアンケートのようなものである。加えて、
「ここは大学の付属病院。診断や治療に学生を立ち合わせてもよろしいか?」
という趣旨の承諾書を渡された。なるほど、私たちは医学の発展、医者の卵の育成に貢献するモルモットであったか。はいはい、勝手にしてちょうだい。でも、重粒子線の照射に立ち合って、なにか勉強になるのだろうか?
待たされること20分あまり。看護師が寄ってきて
「では、最初に採尿、採血をします。場所は2階で、あのあたりにありますから、着いたら診察カード(外来受付で作ったもらった)を機械に差し込んでください」
言われた通り2階に降り、診察カードを機械に差し込んだ。紙コップと順番待ちの数字を書いた紙が出て来た。トイレで尿を紙コップに取り、窓口に差し出して待合室に戻る。20分ほどで私の番が来て、血を抜き取られた。多分、PSA値を見るのだろう。
私はすでに1ヶ月ほど前からがんに対する兵糧攻めを始め、青嵩、びわの種の粉末という刺客も体内に送り込んでいる。だからPSA値は下がっているはずだと思うのだが、さてどうだろう。
終えて再び泌尿器科の待合室へ。40分もしたろうか。私が呼ばれた。中年の女性看護師がやってきて、小部屋に誘う。おいおい、ここは病院である。あなたと2人、小部屋に入って何をする?
「じゃあ、ベルトを緩めて、ズボンとパンツを少し下げてください」
中年の女性である。マスクがあるから美人かどうかは不明だ。だが、女性である。
「はい、私はまな板の鯉。おっしゃる通りに致します。お好きなように取り扱ってください」
覚悟を固めた私は、素直なものである。
「でも、いったい何をするのですか? まさか……」
「はい、膀胱に残っている尿の量を見ます」
なんだ、そんなことか。なにかを期待した私が愚かだったらしい。
「尿意はありますか?」
「いや、あまり」
「直前に排尿してから何分ぐらいたちました?」
「30分以上はたったと思いますが」
「測ってみましょう。あれ、100cc以上ありますよ。これで尿意がない? それにしては膀胱にたまっている尿の量が多いんです。尿意がないまま膀胱に尿がたまると、炎症が起きるなどの危険があるんですよね」
「そうですか。だったら出してみましょうか」
2人で話していた部屋の隣がトイレである。それほど強い尿意はないのだが、出し始めるとそこそこ出た。
「そこそこ出ました」
「もう一度測ってみましょう。ほら、こんなに減りましたよ。54cc。これなら完全に正常です」
といわれたってねえ、私、前立腺がんの患者なんですけど……。
再び待つ。30分たっても40分たっても声がかからない。いかん、腹が減ってきた。朝食は7時過ぎ。フスマパン1個とベーコン、キャベツのスープだけだ。時計を見る。もう12時を回っている。いつまで待たせる気? 大きな病院ではよくあることだけど。
やっと私の番が回ってきた。ああ、これで私の治療計画がはっきりする! 勇んで診察室に入った。
ん? でも、何か変だぞ? 普通は医者が座る椅子と患者が座る椅子があって向かい合うのだが、えっ、この部屋にはベッドがある。そう、さっき膀胱内の尿量を図るために横になったのと同じようなベッドである。
「初めまして。私が担当の〇〇です」
というあいさつが終わったと思ったら、
「では、ズボンとパンツをズリ下げてベッドに仰向けに寝てください」
えっ、また下半身を晒すの?」 今度はいったい何をする気?
「はい、肛門から指を入れて前立腺を確かめます。終わったら超音波の器具を差し込んで前立腺の映像を撮ります。はい、そのまま両足を抱えるようにしてお尻を上げて下さい。では……」
ま、このあたりはあまり書きたくない。でも、先生。前立腺の映像とおっしゃるが、桐生の病院で撮って、今日持ってきたじゃないですか。それも超音波じゃなくてMRIで撮ったヤツですよ。
「いや、こちらでも治療計画を立てるのに自前の映像も必要ですから」
ふむ、そんなものかね。でも、私の前立腺にがん細胞があるのははっきりしているのだから、一刻も早く治療に移った方がいいかと思うんですけどね、
「はい、今日は採尿と採血をしました。その分析結果が出るのを待って、お持ちいただいた画像と今日の画像を合わせてどのような治療がいいか判断するわけです」
でも、私は重粒子線d根の治療を求めてきているわけで、セカンドオピニオンを求めた2人のお医者さんもそれがいいとおっしゃっていたのですが。
「はい、そうでしたね。しかし、今日の結果を見てみないと」
ということは、重粒子線での治療が必要ないということもあり得るわけですか?
「いや、そうではありませんが……」
ふむ、では重粒子線治療はいつ頃始まりますか?
「そうですね。結構込んでいまして、半年ぐらい先かなあ」
というわけで、17日に再び群馬大学医学部付属病院を受診することになった。予約時間は午前9時。おいおい、今度は6時起きか?
というやりとりで終始した今日、聞かねばと思っていたことを聞き逃してしまった。
①MRIの.3次元画像でもはっきりと姿を現さない(多分、このあたりががんだろう、という程度にしか、私の目には見えない)がんに、重粒子線を使った治療器はどうやって焦点を合わせるのか?
②MRI画像でもその程度にしか見えないのに、がん細胞が縮小した、消えたというのはどうやって判断するのか?
の2点である。17日にはきっちりと説明をしてもらわねばならない。
というわけで、群馬大学医学部付属病院から解放されたのはもう午後2時前。帰宅途中でトンカツの店に入り、ロースカツ定食、ご飯は半盛り。
それでも、入浴前に体重計に乗ったら、81.0㎏だった。私のダイエットは確実に進んでいる。まだ出っ張りが目立つお腹周りに騙されてはならない。がん細胞もダイエット、いや死滅し始めているはずだと思うが、さて?