09.22
2011年9月22日 笑う
昨日は、テレビを見ながら笑った。
「こいつら、アホや!」
画面には、台風で電車が止まったにもかかわらず、駅に押しかける東京の群衆が映し出されていた。
「はい、動かない電車を、もう1時間待ってます。会社は早く帰宅しろといわれて出てきたんですが、駅に着いたときはもう電車が動いてなくて」
かーっ、かったるい奴らだな!
台風が直撃する。風が強まる。安全のため、電車が止まる。
だから君たちは帰宅の足が奪われたのだ。
だけどね、地震でライフラインがズタズタになったわけではない。
今回の台風は時速50kmで走り抜けた。だから、風の影響を受けるのは瞬時のことである。その瞬時における危険を避けるために、電車は止まる、台風が去れば、路線の安全点検が行われる。点検して安全が確認できればすぐに電車は動く。
という理屈を理解しておれば、対処法はすぐに出てくるはずだ。
その「瞬時」と、後に続く安全点検の時間をつぶせばいいのである。
東京の近くを台風が通過したのは午後6時頃である。であれば、午後9時まで待てば、電車は正常運転される、とは論理が導くところである。
その間、
酒を飲むのもいい。
酒が飲めなければ、コーヒーを飲む手もある。
時間が時間だから、食事をして時間をつぶしたらどうか。
好ましき相手を、
「ねえ、どうせ時間をつぶすんだったら、お願いがあるんだけど」
とホテルに誘うことに成功したら、台風様々になる。
いずれにしても、台風が去り、電車が動き出すまでの時間を有効につぶすのが賢い選択だった。
なのにお前ら、駅に詰めかけて、人波に揉まれて、当面来るはずもない電車をどうして待つ?
大型台風が東京の阿呆をあぶり出した。と酒を飲みながら笑い飛ばしたのは昨夕のことである。
笑い飛ばすには、己は津波の及ばない高台で無事・安全を謳歌していなければならにと気がついたのは、今日のことだ。横浜の我が家に住む次女から電話が来た。
「お父さん、テレビのアンテナが曲がってるんだって」
そういえば昨夕、次女から
「地上波が写らない」
と電話があった。BSは写るという。
「何が悪いの?」
と聞かれても、遠く離れた私に分かるはずもない。地上波系のアンテナ配線のどこかに不具合が起きているとしか想像できない。
「俺に言われても分かるか。工事したところに電話をして直させろ」
それから1日たっての
「お父さん、テレビのアンテナが曲がってるんだって」
である。
そんなはずはないではないか。昨日お前が電話をしてきたとき、まだ台風の風はそれほど強くなかったぞ、といってしまって、ふと気がついた。
そうだ。横浜と桐生は離れている。桐生で風が穏やかだったからといって、横浜でも穏やかであったはずはない。よくよく考えれば、横浜で地上波が写らなくなったのは、横浜でいちばん風が強い時間ではなかったか?
自分が暮らす場所での状況を元に、離れた場所での出来事を推論する。私は単なるアホである。テレビに出てきたアホとたいした違いはない。あんたら、ほんまにアホやな、わてもアホやけど、と自嘲するしかないではないか。
と落ち込む私に追い打ちをかける電話が、間もなく次女から来た。
「お父さん、屋根の一部がめくれてるよ!」
昨日、桐生はたいした風は吹かなかった。それで安心していたが、横浜はそうでもなかったらしい。
明日、明後日と続いて、テレビアンテナの業者、屋根の業者が横浜の我が家に来て、診断、修理をする。我が家も台風の被害世帯となった。
あんたら、電車に乗れないぐらいでよかったな。俺のところはさあ……。
テレビでアホ面を曝した連中と会ったりすることがあれば、相手がアホだとは重々承知しつつも、泣き言のひとつも言ってみたい心境である。
俺って、アホ以下?
だからではないが、明日から横浜に行く。
と決めたのは、我が妻殿である。昨日、次女と電話で話しているのをそばで聞いていたら、
「だから、明日行くから」
と勝手に宣言していた。私は、まったく事前の相談に応じた記憶もなければ、了解した記憶もない。だから、不自由な身体で、無理して電車で1人で行くのかと思ったが、
「うん、お父さんと一緒に行くから」
知らぬ間に、当然のことの如く、専属運転手の役割を命じられていた。まあ、私が行けば瑛汰は喜ぶ。それを考えれば、
「お前、何を勝手なことを」
と言うわけにもいかない。私が来ると聞かされた瑛汰が、しばらくあとに
「ボスは来ないんだって」
と知ったら、どれほど悲しむことか。
それでなくても、左肘剥離骨折の患者なのである。
瑛汰、そういうわけで明日行く。今日は、額は少ないがボスの給料が出る日で、ボスの財布は1ヶ月のうちでいちばん膨らんでおる。
何か欲しいもの、あるか? ラゾーナに本を買いに行くか?
桐生に戻るのは日曜日の予定である。