2012
10.09

2012年10月9日 一念発起

らかす日誌

して、本日よりしばらくの間、酒を遠ざけることにした。夕刻、妻女殿に宣告した。

「今日からしばらくキュウカンビにするからな」

理解してもらえなかった。

「えっ、どうして新聞が来なくなるの?」

いや、そちらは休刊日。私がいっているのは休肝日である。分からんかなあ。もう何年夫婦をやってんだ?

何しろここ数年、酒が切れたことが1日もない私である。いや、就職して以来40年、酒が切れた日は両手の指で数えられるぐらいしかない私である。
休肝日を休刊日と聞き違えられても文句は言えないのかも知れない。
にしても、

「何を、突然!?」

驚かれるのもむべなるかな。しかし、今回の一念発起、別に山中教授のノーベル賞受賞に感激して決断したわけではない。輝かしき業績は

「だったら、酒で臓器がボロボロになっても再生できるはず!」

と酒の量を増やしかねない朗報である。

 

一言で言えば、酒を美味く飲むための一念発起である。

理解できない? そうかも知れない。

毎年健康診断を受けるのだが、ここ2回ほど、肝臓の健康度を示す数値であるγGTPが基準値を上回った。
それしきのことでじたばたする人間ではないことは、皆様もうすうす御存知のはずである。血圧が基準値を上回っても、断固として降圧剤は飲まない。

 「体は、必要あって血圧を上げておる。それを薬で無理矢理下げるなんて無茶なことをしたら、せっかく自分を守ろうとしている体の努力が無駄になるではないか」

これには裏付けがある。あるお医者さんの書いた本によると、体が血圧を上げるのは血栓を吹き飛ばすためである。血管のどこかで塊ができる。それが脳に運ばれ、血管が狭くなっているところにひっかかる。それが脳血栓である。塊が蓋となって血液の流れを遮るから、そこから先には栄養素が届かなくなり、脳の一部が死ぬ。正確さは欠くかも知れないが、それが脳梗塞だ。体は、この塊を吹き飛ばす、いや液体だから押し流すために圧力を高めるのである。
薬で無闇に血圧を下げれば、当然のことながら脳梗塞のリスクが高まる。

では、血圧が高いとどんなリスクがあるのか。脳溢血だ。弱くなった脳血管に高圧で血液が送り込まれると、その圧に絶えきれなくなった血管が破裂し、脳内に出血する。
確かに、高血圧は脳溢血のリスクを高める。

だが、待たれよお立ち会い。
そのお医者さんによると、日本人の場合、脳梗塞になる人の比率は、脳溢血患者の何倍も多い。つまり、日本人に脳溢血は起きにくく、脳梗塞は起きやすいのである。

薬で血圧を下げれば、ただでさえ発症しやすい脳梗塞のリスクがさらに高まるのは理解しやすいことだ。その代わり、何もしなくても発症しにくい脳溢血のリスクは下がる。

であれば、どちらを選ぶのが理性的選択か?

この先生は、製薬会社の販売政策に乗って高血圧の基準値を引き下げ、膨大な数の高血圧患者を作り出した医療政策を批判していた。より低い数値で高血圧と診断されれば、降圧剤を飲む人が急増する。製薬会社は大もうけするわけだ。ついては、降圧剤に支出される金が増え、日本の保険制度はさらに赤字が膨らむのである。

という話を知人に教えた。

「えーっ、そうなんだ。確かに筋が通ってるねえ」

この男、私と似て一言多いタイプである。

「でも、脳梗塞になってもあまり死なないし、後遺症が残って医療費がかさむよねえ。それに比べれば、脳溢血だとだいたい死んじゃうんで、そのあとの医療費はかからない。とすると、降圧剤を沢山飲ませると脳梗塞患者が増えてその後の医療費も莫大にかかる。もうけが長続きするのか。考えたもんだね、製薬会社は」

お断りしておくが、私に正確な医療知識がないことは自明である。ここにあるのは、私が本で読んだこと、それを元に知人と交わした会話のレポートであり、それ以上のものではない。
ただ、私は降圧剤の服用は断固拒否している。幸い、最近は毎朝測る血圧の数字も、いまの基準でもおおむね正常範囲に収まってはいるが。

いや、話が本筋からそれすぎた。元に戻す。話はγGTPである。
数値にはオタオタしない私だが、

「そういえば」

と思い当たることがあった。このところ、酒が弱くなったのである。それも、体全部が酔う前に、何だか胃の調子が悪くなる。ムカムカしてくる。生ビールを中ジョッキで3、4杯飲んだあとに日本酒を2、3合付け加えると、自宅に戻って嘔吐する回数が増えた。
加えて、昔ほど酒がうまいと思わなくなった。何となく付き合いで、そのうち勢いで飲むだけで、ひとしずくずつを味わって喉に流し込むという感動が薄れた。

「やっぱり、肝臓が疲れてるのかなあ」

考えてみれば、酒だけではない。ここ1年半ほど、私は腰の薬を飲み続けている。加えて、ここ数ヶ月は右肩の故障を治療すべく、漢方薬まで服用している。これが肝臓に負担をかけないはずがない。

「やっぱり肝臓が疲れてるんだね。だから、酒の味に感動できなくなっているんじゃないか」

というのが、私の素人判断である。
であれば、我が肝臓君にしばしの休暇を与えねばなるまい。なーに、肝臓君というのは極めて頑健な臓器である。どれほど疲れようと、しばらく休暇を取れば、元通りに元気に働くものなのだ。肝臓君が元気を回復すれば、昔と同じように酒が美味く飲めるはずである。

と思い立っての休肝宣言なのである。飲んべえの休肝宣言なんて、所詮その程度のものだ。

あ、いつまで持つかは分かりません。明日になったら君子豹変してコロリと考えを変え、晩酌にビールを味わっていることだってあります。我が肝臓君が、1日の休肝日でリフレッシュしてくれればのことですが。

それに、15日には次の飲み会が予定されています。その日は飲まざるを得ないでしょう。

というわけで、今日だけで終わるのか、しばらくは継続するのか、先行き不透明な一念発起ではありますが、とりあえず、今日から挑戦を始める私であります。