09.25
2016年9月25日 木工
昨日から今日にかけて、棚を1つ、本棚を5つ作った。木工に明け暮れた週末であった。
きっかけは、我が妻女殿がダイニングルーム用に低い棚を欲しがられたことだった。4畳半程度の広さしかなく、物を置く場所がなくて整理ができないという理由である。だから、本来ならダイニングルームにピッタリサイズの棚を1つだけ作ればよかった。その程度ならおやすい御用である。
話が広がったのは、O氏のおかげである。
そろそろ棚を作らねばと思っていた頃、O氏宅でその話をした。O氏が仕事をしている事務所には古い本棚がたくさんある。様々な本や資料を突っ込んであるのだが、これがすべてできあいの本棚であった。できあいの本棚とは、本や書類を載せる棚板がたいこ張りになっている。角材をつなぎ合わせて形をつくり、それに薄いベニア板を張ってシートを貼り付けてある。
数万円出しても、いまや家具屋さんにはこの類の本棚しかなくなった。だから、自分で作ろうという人以外は、こんな本棚を買ってくるしかない。だが、これは甚だしく実用性に欠ける。細い角材でできたフレームに薄いベニア板を張り付けてあるだけだから、曲げに弱いのである。1枚1枚の紙は軽くても、それが重なって本や書類になると、ズシッと重くなる。それをこんな棚板に並べれば、重さに負けた棚板は曲がり、中央部が落ち込む。何ともだらしない本棚になってしまう。
だから、O氏を尋ねるたびに、
「本棚、替えようよ。ネットで言い本棚屋さんがあるし、場合によっては俺が作ってあげてもいいから」
と何度もいってきた。その度にO氏は
「そうだよねえ」
とはいうのだが、いつもそれだけで終わっていた。こんなやりとりが、6年も続いただろうか。
それが、である。この日のO氏は違った。
「だったら、うちの本棚も全部作ってもらおうかな」
これは独り言ではない。提案でもなく、御願いでもない。それらを超越した最終決定である。彼はこのような話術で人を動かす名人なのではないか、と私は理解している。
かくして、我が妻女殿が待ち望む棚と、O氏の事務所風景を一変させる本棚づくりが本決まりとなった。
「それで、さ」
O氏には、木工所を経営する友人がいる。
「これ、このテーブルに使っている木もそこで切ってもらったヤツでさ。これ、ゴムの木で作った合板なんだよね。この木、いいでしょ。あいつにいえば板を安く譲ってくれるし、加工もしてくれる。俺、話してみるからさ」
日を置かずして
「いつでもどうぞ」
という回答が来たそれで私は図面づくりを始めた。
いや、我が家の棚の図面はすでに書いてある。板の厚みに合わせて寸法を少し直せばいつでも使える。
問題はO氏の本棚の図面である。
「何か、描いた?」
「いや」
事態がここまで詰まれば、事は性急に進めた方がよい。性急に進めるためには私が描くしか方策がない。
「で、どんなものを、どの程度納めるの?」
ある日私は、私のメジャーを持ってO氏の事務室を訪れ、今ある本棚の寸法、中にある本や書類の高さ、など本棚を作るに必要なデータを集め始めた。
話はややそれるが、本棚を自作する場合に必要なのは、どのサイズの本、書類をどの程度納めるか、使う木材の厚みはいくらか、手に入る木材のサイズは、の3点である。これだけあれば部屋のサイズにピッタリあった本棚の図面が描ける。
今回使える材料は、
・厚さ21㎜、縦横が1000㎜×2000㎜の板=6900円
・厚さ22㎜、縦横は240㎜×3400㎜=2900円
であった。市販の合板と比較すれば、格安である。
素人工作で図面を描く際に最も必要なのは、どういう図面を描いたら材料の使用料、あるいはコストが最低になるかを考えることである。例えば、長さが3400㎜の板を使った場合、半分に切れば長さは1700㎜。つまり高さ1.7mの本棚しかできない。2mの本棚を作ろうと思えば、あまりが沢山出る。余った部分は棚板に使えばいいのだが、そうなると本棚の横幅次第で余りが出ることになる。
では、1000×2000の板ならどうか。これを250㎜幅で4つに切ると、250×2000㎜の板が4枚できる。高さ2mの本棚がほしければ、こちらの方が好ましいに違いない。だが、本当にそちらの方がお得かどうか。
それは、かかる費用と望ましい本棚のサイズとのかけひきであり、妥協である。
かくなる計算を経て、私もO氏も、1000×2000㎜の板を250㎜に幅に4つに切って使うのが最もコストパフォーマンスがいいという結論に達した。我が家の棚は板1枚でできる。O氏の本棚には板が6枚必要だ。
という最適解が出たあと、2人で木工所を訪ねた。図面を渡し、加工を依頼するためである。工場長さんが対応してくださった。恐らく、見ていただければ分かるように描いたつもりの図面ではあるが、ざっと説明を済ませ、気になっていたことを聞いた。
「でも、何でゴムの木の合板なんです?」
出てきた答えに納得した。
「ゴムの木は、15年~20年しかゴムの樹液はとれません。そうなると、かつては木を引き抜いて焼いてたんです。でも、それはもったいないだろう、ということで合板にして輸入、ここで加工してるんです」
そんな合板、何に使うんです?
「一番多いのは階段ですね。この合板は硬くて重いんです。それだけ丈夫なわけで、うちではお客さんから頂いた図面できちんとした部材に加工し、出荷しています」
工場を見せてもらった。なるほど、住宅用階段の部材が沢山出来上がっていた。足を乗せる踏み板がたくさんある。踏み板を支える側板(というのかどうか不確かだが、本棚の側板のように、踏み板を支える部分)には、踏み板、蹴込み板をはめ込む溝がきちんと切ってある。住宅建築の現場に持ち込んで組み合わせてクギを打てばば、すぐに丈夫な木製階段になる。
は、すごいもんですね。
「ところで、本棚はどうやって組み立てます?」
「はい、横から木ねじをねじ込んで棚板を固定します」
「だったら、そのねじ穴を開けておきましょうか?」
「いや、そこまでやっていただかなくても」
「でもねえ、ゴムの木って硬いんです。だから木ねじがなかなか入りません。無理してねじ込もうとすると、木ねじがねじ切れることもあります」
こうして、ねじ穴はもとより、棚板を差し込むほぞ穴まで加工してもらうことになった。願ったり叶ったりである。
通常の日曜大工では、こうはいかない。ホームセンターに行って板を決め、自分で描いた図面を元に切ってもらう。自分で切るより正確に切ることができる。
そこまではいいのだが、自宅に持ち帰った部材には、メジャーで測りながら棚板の位置を記す書き込みをしなければならない。棚板を正確に取り付けるには、左右の高さが違っては困るからである。ねじをねじ込む時は、棚板がずれないよう、片手で支えて反対の手で電動ドライバーを使う。この寸法撮りに作業に一番時間を食う。
だが、工場で棚板用の溝を切ってもらい、ねじ穴まで作ってもらえれば、あとの作業は木ねじをねじ込むだけだ。楽な作業である。
「でも、そこまでやっていただくと、大変な作業を御願いすることになって申し訳ないと思うのですが」
「いえいえ、うちは全部機械化されてますんで、コンピューターで数値を打ち込めばあとは機械がやってくれます。手間でも何でもないですよ」
こうして出来上がった部材を、昨日と今日組み上げた。我が家の棚を作るのに要した時間は約2時間。これは低い棚なので、ねじを隠すために別の加工をしたためだ。
そして今日は、午前9時過ぎにO氏宅を襲い、正午過ぎにはおさらばした。途中、古い本棚を運び出し、部屋の掃除も手伝い、ながらの3時間強である。実質150分前後。本棚1つを組み上げるのに30分しかかかっていない。
「いやあ、いいねえ、これ。誰か来たら『無印で1つ5万円だったかなあ』っていってやろ」
予想通り、O氏は喜んでくれた。一緒にいた奥さんも
「凄い! 部屋が明るくなった」
こんな話をされると、
「少しばかり腰が痛くなったって、これだけ喜んでもらえるんだから」
と思ってしまう私である。O氏との腐れ縁(?)はなかなか切れそうにない。
目を外に転ずれば、東京都庁の伏魔殿ぶりが次々に出てきて、小池のおばさん、ますます受けに入っている体である。が、小池のおばさんだって受け狙いで始めたに違いない豊洲市場問題。予期せぬ事に広尾病院問題まで出てきて、さてどう裁くつもりなのか。小池劇場はいつまで観衆を惹きつけることができるのか。
北朝鮮が懸命に
「俺、ドスもってるもん」
とひけらかすのは、多分政権の末期症状だろうし、世界の目を自分からそらすために北朝鮮を野放しにする中国の政権だっていつまで持つのか。アメリカはどちらの嫌われ方が少ないかの大統領選挙が大詰め。
2016年も残り少なくなってきた。これから何が起きるのか?
私生活も外の世界も、いたずらに嘆いてみても仕方がない。あらゆる条件の下で、人生を謳歌できることを心がける私である。