11.12
2016年11月12日 購買欲
先日から
「手に入れたい」
と思うものがあった。万年筆である。
パーカー 5th インジェニュイティ スリム ラグジュアリーライン ディープブラックレッド
という。
ボディは黒で、指で掴むところに赤いベルトが巻いていある。新聞広告で初めて目にし、デザインに惹かれた。
いや、デザインだけでなく、ペン先を使わない万年筆という珍しさにも関心を持った。いってみれば、普通の万年筆にインクを補充するカートリッジにペン先が付いているような仕組みだ。だから、本体は単なる筒。そこにペン先つきのカートリッジを装填して使う。
「面白い」
新しい物好きの私は、直ちにネットで検索してみた。その結果、
「うっ!」
と唸ったまま購買を諦めた。何と、2万7000円もする。確か、新聞に掲載されていた定価も同額である。ということは、ネットでも一切値引きされていない。
「まだ買えないな」
いや、買えない理由はもうひとつある。ほしいものは筆記具である。である以上、手に持って書き味を試さねば購買行動に入るわけにはいかぬ。さわったこともない筆記具を買うわけにはいかぬ。
というわけで、
「どこかに置いてないか」
と探してみた。
太田のジョイフル本田には、パーカーの5th インジェニュイティはあるのだが、私のほしいスリムタイプはない。あれは最新型なのだ。ま、それでも新しい機構だけは試してみようと思って、陳列されていた普通タイプをショーケースから出してもらった。
これ、結構太い。日本人としては大きな手をしているはずの私でも太いと感じる。太目の万年筆の方が疲れないという人もいるが、私は小説家ではない。売文家でもない。手が疲れるほど万年筆で文字を書くことはない。
あ、そうか、いまは小説家も売文家も、原稿はパソコンで書くんだよな、きっと。
ま、それはそれとして、書き味はなかなかなのだが、購入するかどうかを決めるのは、やはりスリムタイプを手にしてからである。
そう思って10日ほどたっただろうか。昨日、妻女殿をお乗せして前橋日赤に行った。妻女殿を送り届け、いつものようにけやきウォークを散策していて、紀伊國屋の文具コーナーを通りかかった。ここにも、私のほしいスリムタイプはない。
ふむ、前橋も、新製品は一呼吸送れてやって来る地方都市の範疇を出られないか。
が、パーカーの5th インジェニュイティが並ぶ中に、やや細身のタイプがあった。値札を見ると1万円。アーバン プレミアム、というタイプらしい。出してもらって試し書きしてみた。なかなかよい。
が、これはこれ。私がほしいのは黒いボディーに赤いベルトのおしゃれなパーカーなのである。
「ありがとう」
いったんはしまってもらった。その足で妻女殿に頼まれたレッグウォーマー、オイル・サーディン、アンチョビを買いに行く。頼まれものが終わると、自分の買い物だ。本である。時間つぶしに最適だ。
数冊の本を抱えて店内をうろついている間に、何故かふと思ってしまった。
「そうか、あれは1万円か。だったら、とりあえず買ってみるって手もあるな」
万年筆が本当に馴染むかどうかは、使ってみるしかない。ましてや、この万年筆にはペン先がない。これまで使ったことがない機構なのだ。ほしいヤツの値下がりを待つのはいいとして、その間、この1万円をさんざん使い倒して、それでも具合がよければ、あの黒に赤ベルトの価格がこなれてきた時点で購入する、というのはいい選択ではないか?
思考がそのような筋道を辿れば、もうブレーキは効かないのが私の常である。
というわけで、いま私の手元には
パーカー 5th アーバン プレミアム パールメタル
がある。これはこれでなかなか美しい。
ただ、この文章を書くためにAmazonを見て、Amazonでの価格を知ったことがショックであるといえばいえるが……。
まあ、2万7000円の万年筆も時がたてばこの程度の値引率になるのだろう。ということは1万5000円ぐらいになることが分かったのはよかったとも言えるが。
待つぞ、それまで。
今日は暑くもなく寒くもなく、実に快適な気候であった。その心地良さに誘われたのだろうか、ついつい足のトレーニングをやってしまった。
といっても、家のすぐ前にある階段を上り下りしただけである。数えてみると、37段。まあ、たいしたことはなかろうとなめてかかったのだが、なかなかどうして、たいしたことがあった。
降りて登って、確か3回目。何となく足がふらつく。下りになると足元が不安になり、思わず眼鏡を外した。眼鏡をかけると距離感があやふやになって足元を見極めるのが難しくなるのである。踏み外しでもしたら大変なことになりかねないと、事前に取った予防策である。
4回目。息が切れる。心臓のビートが速まる。ふーっ、こんなに息が切れる運動をするのはいつ以来だろう? が、まあ、この程度の息切れなら、肺気腫もたいして進んではいないということだなあ。
5回目。おー、しんど! これ以上やったら足が腫れるぜ! まあ、今日はこれぐらいにしておくか。よし、明日もやってやろう。そして正月までには10回でも20回でも上り下りできる下半身にしてやらねば。
啓樹や瑛汰、璃子に嵩悟。あいつらと一緒にゲレンデを滑り降りたい。それには、いまの下半身では無理であろう。
私はその日を目指してトレーニングを積む。そう心に誓う私であった。