08.12
#28 : ダイ・ハード - 万歳!アナログ男(2005年4月1日)
1980年、私は名古屋にいた。1982年4月、東京に転勤して浦安に住んだ。同年8月、横浜市に転居した。1985年4月、札幌への転勤命令が出た。1987年5月、再び東京での生活が始まった。
慌しい。それが私の’80年代だった。「スキーらかす」で詳述した、悲しくも面白い超越体験は、この間の出来事である。
そして1989年2月、「ダイ・ハード」が日本にやってきた。’80年代の空気をたっぷり吸い込み、それを作品のパーツとして生かし切ったアクション映画の傑作である。
’80年代の空気? さて、’80年代とはどんな時代だったろうか?
1980年
11月、予備校生が両親を金属バットで殴り殺す事件が発生。校内暴力・家庭内暴力が広がる。
1981年
6月、日本人フランス留学生がオランダ人女性殺害で逮捕。死体の一部を食べていた疑いがあった。9月、三和銀行茨城支店行員が、オンラインで1億3000万円詐取。
1982年
2月、日航機、機長の異常操縦で羽田沖に墜落。「逆噴射」が時の言葉に。
1983年
10月、ロッキード事件で田中角栄被告に有罪判決。
1984年
3月、グリコ・森永事件。
(余談)
この間、1984年10月、我が家が完成した。いまでも住んでいる家である。
2つの条件から、3階建てとした。
敷地30坪、建坪率60%、容積率200%。2階建てでは親子5人、ひょっとしたら親と同居もありうる我が家の事情からして手狭である。駐車場が必要なことを勘案すれば、親子5人だって入りきるかどうか。上に伸びるしかない。
加えて、南隣に敷地ぎりぎりに建った2階建てがある。おかげで我が家の1階部分にはほとんど日光が差し込まない。1日中薄暗い部屋。こいつは、居間としても寝室としても不適格である。居間、寝室ともに、上に伸びるしかない。
かくして我が家は、1階はオーディオルーム兼書斎兼夜の客間、という運命をたどる。私が音楽を聴けるのは夜中、私の客が我が家を訪れるのも夜中、太陽光は関係ない時間帯なのだ。太陽光がほしい居間、寝室は2階、3階に配置した。
完成した直後に札幌への転勤命令が出た。我が妻は激しく憤り、我が上司に直談判に行くと宣言して我がサラリーマン生活を危機に陥れようとした。
1985年
3月、日本発のエイズ患者認定。8月、日航機御巣鷹山に墜落。
1986年
4月、チェルノブイリ原発で事故。男女雇用機会均等法施行。
1987年
5月、朝日新聞神戸支局襲撃事件。10月、東京株式市場の大暴落。
1988年
8月、ソ連軍がアフガニスタンから撤退完了、イラン・イラク戦争終結。9月、昭和天皇重体に。11月、ブッシュが大統領に。消費税法案成立。
1989年
1月、昭和天皇が亡くなる。11月、ベルリンの壁が崩壊、坂本弁護士一家殺人を公開捜査。12月、ルーマニアのチャウシェスク政権崩壊。
いかがであろう。子供による両親虐殺といい、人肉食といい、機長の錯乱といい、グリコ森永事件といい、’80年代とは、長い間我々が信じてきた価値観が崩壊し始めた時代である。
そして、’80年代後半になると、昭和天皇が亡くなり、東西の壁が崩壊した。1つの時代が、確実に終わった。
さて、そこで我らが「ダイ・ハード」である。こいつは、男女雇用機会均等法の成立に象徴される、女性の地位向上が重要な伏線となっている。
男は凛々しく強いもの、凛々しく強くあらねばならないもの、という価値観が、長い間我々を覆ってきた。女性はかよわいもの、守らねばならぬものであった。家庭内における亭主関白は、当然のこととされてきた。男の象徴、それは若きジョン・ウエインであり、カーク・ダグラスであり、ゴッドファーザーのマーロン・ブランドだった。
なのに、「ダイ・ハード」のヒーロー、ジョン・マクレーンは、女房に頭の上がらない、情けないダメ亭主なのである。このダメ亭主が単身、決然と、時にはぼやきながら、旧来型のヒーローだったら絶対に口にしないジョークも交えながら、重装備の悪の一味と戦う。
若き日のジョン・ウエインがジョン・マクレーンを演じていたら、面白くもおかしくもない映画になっていただろう。ヒーローらしくないヒーロー。こいつが、「ダイ・ハード」を傑作にした最大の要因ではないかと見当をつけている。
まあ、粗筋は簡単だ。
ニューヨークの警察官、ジョン・マクレーンは、別居中の妻、ホリーに会いにロサンゼルスへ行く。ホリーを彼女の勤務先、ナカトミ商会のビルに訪ねるのだが、バスルームで旅の疲れをいやしている最中に、このビルがテロリストに乗っ取られる。ジョンを除いて全員が人質となり、孤立無援の中、ジョンはテロリストとの戦いに立ち上がる。手にする武器は、ニューヨークから携行した拳銃1丁だけ。対するテロリストたちはマシンガンからロケット砲、爆弾まで備えた、ちょっとした軍隊である。しかも、首魁はドイツの過激派グループに所属していたことがあり、戦闘には慣れている。ジョンは、果たして愛するホリーも含めた人質を無事救出できるのか……。
結論から言えば、概ねのハリウッド映画のお約束をはずすことなく、ジョンはテロリストたちを1人、また1人と倒してホリーを救出するのだが、この戦闘場面がとてつもなくよくできている。そこらあたりは、まだご覧になっていない方は、是非一度見て頂きたい。スクリーン、あるいはテレビの画面に最後まで釘付けになるのは確実である。
で、本論だ。’80年代である。
飛行機でロスへの旅をするジョン・マクレーンは、ニューヨーク警察のデカというごつい仕事をしているのに、飛行機にからきし弱い。情けないことに、着陸態勢に入ると思わず座席の手すりを握りしめ、臨席のセールスマンにからかわれてしまう。
SALESMAN : | You don’t like flying, do you? |
いやはや、男の風上にも置けない軟弱者なのである。
さらに、このセールスマン氏、親切にも
SALESMAN : | Ya wanna know the secret of successful air travel? After you get where you’re going, ya take off your shoes and socks. Then ya walk around on the rug bare foot and make fists with your toes. |
と、旅の疲れの癒し方まで教えてくれる。教えを頭から信じ込んだことが後に大きな災害をもたらすのだが、当然のことながらジョンは知らない。
軟弱者にもかかわらず、ジョンは、男が外で働き、妻はともに暮らして夫を支えるべきだという、’70年代までの価値観に凝り固まった我々の仲間である。いまとなっては、前世紀の遺物と呼んでもよい。
一方ホリーは、新しい女である。何故女は男の付属物として一生を送らなければならないのか? 仕事で自分を生かすチャンスがあれば、当然掴み取るべきではないのか?
こうして、日系企業ナカトミ商会に職を得、ジョンをニューヨークに置き去りにし、子供2人を連れてロスに移り住んだのである。半年前のことだった。
性格の不一致、どころではない。価値観が、人生観が完璧に対立しているのである。’70年代までなら、ホリーが折れることで世間的な夫婦関係を保っていたはずだ。だが、時は’80年代である。頑迷固陋な軟弱男は、女に置いてきぼりを食らう時代に入ったのだ。
ジョンがロスを訪れた日、ナカトミ商事はクリスマスパーティを開いており、ホリーもまだ会社にいた。ジョンはナカトミ商会のビルを訪ねていく。だが、まず受付で戸惑ってしまう。カウンターに座っているガードマンに、ホリー・マクレーンに会いたいというと、タッチパネル式のコンピューターを指さされる。こいつを使って勝手に探せというのだ。
受付に座っているのだから、お前が教えてくれるのが当然だろう。過去の遺物、アナログ人間のジョンは、当然そう考える。しかし、考えても現実が変わるわけではない。仕方なく、不慣れなタッチスクリーンでホリー・マクレーンを探すのだが、コンピューターは答える。
「NO SUCH EMPLOYEE LISTED」
えっ、そんな……。思い直してジョンは、
「HOLLY GENNERO」を探す。GENNEROは、結婚する前のホリーの名字である。今度はあった。30階のオフィスだ。
2人はまだ離婚したわけではない。なのに、名字を変えるなんて……。ジョンは、徹底的にコケにされる亭主なのだ。
だから、再会を果たすと同時にこんな会話が始まる。
HOLLY : | …I’ve missed you. (寂しかったわ) |
MCCLANE : | Especially my nam. You must miss it every time you write a check. When did you start calling yourself ‘Ms. Gennero’? (特に僕の名前をね。小切手に署名するたびに、僕の名前を忘れるのに違いない。いつ、ミズ・ジェネロなんて言い始めたんだ?) |
ご覧の通り、日本語に直すと何のことか分からないが、missという単語が、「いなくて寂しく思う」という意味と、「しそこなう」という意味を持っていることを使った、極めてシニカルな会話なのである。
そしてホリーは、ナカトミ商会での成功者でもある。入社半年で早くも大きな取引に成功し、会社から腕時計のプレゼントをもらう、ばりばりのキャリアウーマンなのだ。自宅には、留守中子供の面倒を見るメイドまでいる。おそらく、公務員であるジョンよりはるかに多い収入を得ているのだろう。
これでは、いくら亭主であると威張ってみても形無しだ。
飛行機に弱く、女房に弱く、ITに弱く、時代の流れについて行けず、女房に去られ、収入は女房以下。我らがヒーロー、ジョン・マクレーンは、こんな惨めったらしいアナログ男なのだ。
ところが、テロリストたちがビルを制圧すると、我らがアナログ男は俄然輝き始める。己の肉体と知能を全開させて走り回り、近代的なビルの機能を使いこなし、倒した敵から奪ったマシンガンや無線機を活用し、12人のテロリストを翻弄する。ついには、たった1人で12人の賊を1人残らず殲滅してしまう。おまけに、あの女権論者ホリーを、再びメロメロにしてハッピーエンドを迎えてしまうのだ。
してみると、あれか? こいつは、アナログ対デジタルの対決で、どれほどデジタル技術が進もうと、最後はアナログが勝つんだという、旧世代の自己主張の映画なのか?
’80年代。もう一つの大きな出来事は、日本経済の躍進である。そのころは「Japan As No. 1」なんていわれた。終身雇用と年功序列が日本企業の強さの根元であるとの分析が世界中でもてはやされて、トヨタ自動車のカンバン方式が全世界の製造業の模範になって、とにかく日本人が自信を持って世界中で札束をばらまき、羨望のまなざしで仰ぎ見られながら、
「フン、黄色い成金が!」
と蔑まれた時代であった。
(余談)
懐かしい時代です。ほんとにいい時代でした。
それがあなた、当時どん底にあったアメリカ企業の真似をするのが、最近の日本企業の流行で、目標管理制度だとか、派遣社員、アルバイトを活用して人件費を下げるだとか、まあ、情けない事態が進行しております。たくさんの人が憂き目を見て企業だけが繁栄する日本。
どこか根本のところが間違っているとしか思えない今日この頃であります。
テロリストを装い、ナカトミ商会のビルを襲った一味の狙いは、ナカトミ商会がビル内の金庫室に保管する6億4000万ドル(約700億円)の「negotiable bearer bond」なのである。首魁のハンスは、人質を前に
”Ladies and gentlemen, due to the Nakatomi Corporation’s legacy of greed around the globe, it is about to be taught a lesson on real power. You…will be witnesses. If our demands are not met, however -You may become participants instead.”
などと演説し、世界各地で収監されている反政府勢力のテロリストたちを釈放するように要求するのだが、実は政治的主張は単なるカモフラージュにすぎない。実態はただの泥棒なのである。金額が大きいので、泥棒の規模、仕掛けが大がかりなだけなのだ。
(注)
negotiable bearer bond。持参人払い譲渡性債券、とでも訳するのでしょうか? 映画の字幕では一覧払い債券、となっておりました。いずれにしても、それがどのようなものであるかの知識は、私には皆無であります。ま、とにかく、ここは現金とほとんど同じもの、と解釈して先に進みましょう。
その泥棒どもが狙ったのが、GMでもない、IBMでもない、ハネウエルでもない、シティバンクでもない、日系企業のナカトミ商会だったのである。ナカトミ商会は、ロサンゼルスにハイテックな近代ビルを持ち、ビルの金庫に6億4000万ドル分もの債券を保管している、超金持ち企業なのだ。’80年代とは、日本の企業がそのような目で見られた時代であったのだ。いまとなっては懐かしい、古き良き時代なのである。
ひょっとしたら、こいつも’80年代なのかも知れない。
警察の幹部、FBI、マスコミ、テレビに登場する識者が、徹底的にバカにされるのである。
まずヤリ玉に挙がるのは、ロス市警の警視ロビンソン。事件を知って現場に駆けつけ、それまで1人で対応していた警官パウエルから指揮権を奪う。この警視さんが甚だ頭が悪い方なのである。
とにかく、しゃにむに突っ走るの。スワットチームに突入を指示するロビンソンに、パウエルは思わず反抗する。
POWELL : | Going in…are you out of your mind? There’s 30 hostages in there - for all we know - (突入って……。気でも狂ったんですか? 30人も人質がいるんですよ) |
|
ROBINSON : | - all we know? We don’t know shit, Powell. If there’s hostages why hasn’t anyone asked for ransom? If there’s terrorists, where’s their goddamn list of demands? All we know is that someone shot up your car, and it could be the same flake you’ve been talking to on the radio! (怪しいもんだ。人質がいるんなら、身代金の要求があるはずじゃないか? テロリストだっていうんなら、奴らの要求リストはどこにある? 俺たちに分かっているのは誰かがお前の車に発砲したことだけだ。そいつはお前が無線で話していた相手かもしれんじゃないか!) |
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What about the body that fell out of the window - ? (窓から落ちてきた死体は?) |
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ROBINSON : | Who the hell knows? Maybe he was a stockbroker who looked at the Dow Jones and opted for early retirement! (誰に分かるってんだ? 株価を見てて早めに引退した方が良さそうだと思った株屋かも知れんじゃないか!) |
いやはや、この程度で突入されたんじゃ、人質だけじゃなく、命令されたスワットチームもたまったものではない。
組織の出世街道を駆け上るのは、決して優秀、有能な人間ばかりではない。私が身をもってそれを知ったのも、ふむ、そういえば’80年代だったなあ。あいつが俺より偉くなって……。やめよう、馬鹿馬鹿しい。
遅れて登場したFBIも、頭のできはロビンソンと五十歩百歩だ。状況をさっと聞くなり、
“Sounds like a standard A-7 scenario.”
(こいつはA7のケースだな)
と教科書通りの対応を始める。彼らには、教科書に書いてないことは世の中に存在しないのである。現実にもよくいる、成績が良かっただけの馬鹿なのである。
A-7 scenarioには、ビルへの電源供給を止めるという手法がセットされていた。彼らは教科書通り、電源供給を止める。ところが、それがテロリスト、いや強盗団の狙いで、ナカトミ商会の厳重な金庫をあける手段だった。自分たちではできない電源供給停止を、FBIを使ってやらせる。教科書通りにしか動けないエリートたちが笑い飛ばされるのである。
教科書秀才は役に立たない。そんな単純な事実を浮き彫りにしたのも ’80年代、だったような気がするが……。
では、いち早く現場取材に駆けつけたテレビ局はどうか?
警察無線の盗聴で、中にいるのがジョンであり、その妻ホリーであり、ロスのホリーの自宅には子供がいると知って、自宅に駆けつける。家政婦のポリーナは取材を拒もうとする。ポリーナはヒスパニックである。
THORNBURG : | One minute, that’s all we ask. You could be denying them their chance to talk to their parents. (1分だけでいい。いいか、あんたは子供たちが両親に話しかける最後の機会を奪おうとしてるんだぞ) |
PAULINA : | I’m sorry…Mrs, Holly says I couldn’t let strangers into - (といわれても……。ホリーさんは、見知らぬ人間を入れてはいけないと-) |
THORNBURG : | Strangers? I’m with KFLW TV, that’s affiliated with the FCC, and I’m sure you know that’s the United States government…just like the INS? (見知らぬ人間? 私はKFLWテレビの者だ。連邦通信委員会に加入してる立派なテレビ局だ。つまり、それは連邦政府の……、そう、移民帰化局のようなもんだ) |
こんな時に、子供のインタビューを取ろうとするのも常識はずれである。ましてや、移民帰化局への通報をちらつかせて家に押し入るのは、居直り強盗と何の変わりもない。
驕り高ぶるテレビよ、お前たちは視聴率に魂を売った、人間性のかけらもないガキどもだ!
と言いたいのであろう。分かる、その気持ち!
テレビマンの無知蒙昧さも、遠慮なく笑いの対象とされる。事件の解説場組の一幕だ。
GAIL : | …author of… ‘Hostage/Terrorist, Terrorist/Hostage, a Study in Duality.’ Dr. Hasseldorf, what can we expect in the next few hours? (「人質/テロリスト、テロリスト/人質 二重性の研究」の著者、ハッセルドルフ博士です。博士、これから数時間の間に何が起きるのでしょうか?) |
HASSELDORF : | Well, Gail, by this time the hostages and their captors should be entering the early stages of the Helsinki Syndrome. (そうですね、ゲイルさん、人質、人質を監視する両者は、すでに初期のヘルシンキ症候群の段階にあります) |
HARVEY : | As in Helsinki, Sweden? (ヘルシンキ、スウェーデンの?) |
HASSELDORF : | Uh…Finland. (フィンランドです) |
ヘルシンキがどこにあるかも知らないキャスター……。このような職業につかれておる方々のレベルは日米で大差ないらしい。
そしてこの、解説番組も俎上に乗る。ハッセルドルフ博士は、続けて言う。
”Basically, it’s when the hostages and the terrorists go through a sort of psychological transference and projection of dependency, what can only be described as a strange sort of trust and bond develops. We’ve had situations where hostages have embraced their captors after their release and in one case even corresponded with them in prison…”
(人質とテロリストの間に心理的な交渉が続いた場合に、ですね、奇妙な信頼関係とでも呼べるものが生じるんです。釈放された後抱き合ったり、1つの具体例を挙げると、テロリストが獄につながれた後でも交際を続けたり……)
ハッセルドルフ博士の話はまだ続く。
”…all depends on what we mean by “Terror. ‘ If Clauswitz could say ‘War is the last resort of Deplomacy, ‘ couldn’t we just as well say that terrorism has an equal claim to…”
(すべては、「恐怖」の意味によります。クラウゼヴィッツ「戦争は外交の最後の手段」と言いましたが、だとすればテロリズムも同じだと言えないでしょうか……)
30数人の人質がナカトミ商会のビルで人質になり、現場では彼らを救出する戦いが積み重ねられているその時に、したり顔でテレビに登場し、深い知識と教養をひけらかす有識者。
おいおい、あんたら、ちっとも世の中の役には立ってないよ。他人の犠牲を飯の種にして肥え太っていくのがあんたらの生き方か?
メディアの王者に上り詰めたテレビに、文化人、有識者、評論家などと呼ばれる方々が登場して毒にも薬にもならない、いやおおむねは毒にしかならない言葉を垂れ流す。視聴率に追いまくられるテレビに金で雇われた方々だ。人道をはずれた取材を繰り返すレポーターと同じ構造である。
待てよ、目的が視聴率ということは、そんな番組を作るとより多くの視聴者が見るわけで、ということは、テレビに非道な取材や売らんかなの番組作りを強いて、訳が分からない文化人、有識者、評論家を登場させているのは、視聴者の責任ということになるわけで……。
このような構造がくっきりと見えてきたのも、ひょっとしたら’80年代ではなかったかという気もするが……。
(反省)
今回は、すべてを’80年代に収斂させようという、やや強引な運びが目立ちます。ごめんなさい。書いているうちに、何となくそんな気がしてきたもので……。
というわけで、’80年代の特徴として並べ立てたものは、厳密な時代考証を経たものではありません。反省を込めてお断りしておきます。
にしても、である。
「ダイ・ハード」とは、なかなか死なないという意味なのだと、何かで読んだ記憶がある。何度もこの映画を見て、
「なかなか死なない」
のは、ジョン・マクレーンであると思い続けてきた。しかし、今回初めてメモを取りながら見て、
「?」
が灯った。
ジョン・マクレーンもなかなか死なないのだが、本当になかなか死なないのは、実はこの男だ、というラストシーンが用意されているのだ。強盗団の1人である。
そういえば、マクレーンが体現する’70年代までの価値観もなかなか死なないし、教科書秀才もなかなか死なないし、如才なさだけで出世街道を上り詰めるやつもなかなか死なない。うん、「ダイ・ハード」は、なかなか死なないもののオンパレード映画でもあるのだなあ……。
【メモ】
ダイ・ハード (DIE HARD)
1989年2月公開、上映時間131分
監督:ジョン・マクティアナン John McTiernan
出演:ブルース・ウィリス Bruce Willis = ジョン・マクレーン
アラン・リックマン Alan Rickman = ハンス・グルーバー
ボニー・ベデリア Bonnie Bedelia = ホリー・ジェネロ・マクレーン
アレクサンダー・ゴドノフ Alexander Godunov = カール
レジナルド・ヴェルジョンソン Reginald VelJohnson = アル・パウエル巡査
ポール・グリーソン Paul Gleason = ドゥエイン・T・ロビンソン
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