2017
09.08

#83 トゥルー・クライム ― 男の知性(2008年3月20日)

シネマらかす

昨今の男どもは、何故にかくまでも軟弱化し果てたのか、とお嘆きのあなた。私も同じ憂いを共有する。
我が世代の男の第一の価値は、雄々しさである。雄は強くあらねばならぬ。か弱き雌どもを守らねばならぬ。そう信じて己の道を築いてきた。
なのに、いまのヤツらと来たら……。

ん? お前らの年代は受験戦争とやらを展開したではないか。机にへばりつく雄が強くなれるか? ひ弱な受験秀才を排出しただけではないか?
もっとも至極な疑問である。だが、こうお考えになってはいかがか。強さの定義は時代によって変わる。現代は、肉体を鍛え上げても妻子を養うに足る収入を得るのは至難である。プロのスポーツマンになれるのは天賦の才に恵まれた一部の人間の特権なのだ。
それに、思ってもみていただきたい。世は狩猟採集で生計を立てる時代ではない。英雄豪傑が日頃鍛えた技を戦場で存分に発揮し、立身出世する時代でもない。
そう、世は学歴社会であった。この中で生き抜き、上を目指す。そうして、一家を構える経済基盤を構築する。それが雄としての戦いであった。
そして、受験勉強だけに没頭するガリ勉をどことなく排斥する健全な価値観も同時に存在した。文武両道。これが男の理想型だった。

(余談)
私が雄としての戦いで勇者であったか否かは、この際不問に付していただきたい。

 それが昨今はいかがか。
我が社の人事担当者は採否をペーパーテストだけでは決められないと嘆く。それだと、採用者の9割が女性になる。人員構成上まずい。 すでに男どもは受験秀才ですらない。
今年はオリンピックイヤーである。さて、期待できる男子選手がどれほどいるか? 女性には柔道の谷亮子、マラソンの野口みずきをはじめ、世界のトップに立つ選手が少なくないのに。
酒場では、若い連中は男女を問わず割り勘という風習が根付いた。女ごときに金を払わせるとは。おじさんたちには理解しがたい習俗である。男女間には差があって然るべきではないか!
家に戻ればカカア天下。亭主関白という言葉はほとんど死語となった。亭主関白を続ける気概も力量も、男から失われた。
嘆かわしい!

と、地団駄を踏む思い出日々を過ごしていらっしゃるオトコの皆様。是非「トゥルー・クライム」を見ていただきたい。胸がスッとすること請け合いである。
つまんない男しかいなくなったわね~、と男への夢をなくしかけている女性の皆様。是非「トゥルー・クライム」をご覧いただきたい。男の良さがしみじみと実感でき、これなら惚れてやってもいいかなと思われるはずである。
この映画には、絶滅に瀕する種族であるオトコがいる。

Were it left to me to decide whether we should have a government without newspapers or newspapers without a government, I should not hesitate a moment to prefer the latter. But I should mean that every man should receive those papers and be capable of reading them.
(新聞のない政府か、政府のない新聞かの選択を迫られれば、私は躊躇せずに後者を選ぶ。すべての人々が新聞を手にとって読むことができるという前提付きだが)

 米国独立宣言の起草者、トーマス・ジェファーソンの言葉である。
政府は常温で放置すれば腐敗する。腐った政府を食った日にゃ、下痢だけで済めばめっけもの。悪くすれば命がない。冷凍保存はきかないから、防腐剤がいる。それが新聞だ。こいつは、腐敗臭をかぎつけるとハエのようにたかって暴き立てる。それが腐るのを防ぐ。確かに、防腐剤だけではたいして役には立たない。だが、それほど悪さをするわけでもない。比較考量すれば、防腐剤抜きの政府より、防腐剤単体の方がはるかに安全である。
ということだろうか。なるほど、新聞記者とは大変な重責を担わされているものらしい。

では、その新聞記者とはどんなヤツらなのか。常に天下国家を考え、政府の腐敗に目を光らし、世の堕落を憂い、庶民の味方として、弱者たちの代表として世の中と切り結ぶ志高き人たちなのか?

社会部長、ボブの呼び出しを受けた時、スティーヴ・エベレットはボブのベッドでボブの妻とのお楽しみの最中だった。エベレットはオークランド・トリビューン紙の記者である。
花の都ニュー・ヨークでの記者時代、ピュリッツァー賞も狙えると嘱望された。都落ちしたのは、彼の股間に鎮座してやんちゃぶりを発揮し続ける一物のせいである。社内の資材庫で若い娘と組んずほぐれつのところを見つかってしまった。たまたま、その娘は社主の娘で、未成年。居続けられるわけがない。
華やかな職場を追われ、田舎新聞に拾われた。もう落ちる先はない。普通なら前非を悔いる。行いを慎む。だが、エベレットの辞書に普通はない。股間の息子は相変わらずアナーキストである。彼の体内には天然バイアグラ製造工場がビルトインされているのである。上司の女房とできてどこが悪い?
ん? 新聞記者って……。

一盗二卑三妾。男から見た女遊びの楽しさの順番だそうだ。私にはいずれも未体験ゾーンだが、エベレットはいわば男冥利を尽くしていた。が、その最中に呼び出されるとなると話は別。出社するしかないが、そこにはボブがいる。できれば透明人間になりたい瞬間だろうという程度の想像はつく。
しかも、顔をあわせたボブから、開口一番こんなことを言われたら?

Bob:  Apparently, you and I have a little problem.
(おい、俺たち、ちょっと厄介なことになったぜ)

いつもは元気を持てあましている逸物も、小さく縮こまらざるを得ない。

Everett: Do we?
(そうなのか?)
Bob: Yes, we do.
(ああ、そうなんだ)
Everett:  Look, Bob….
(いや、その、ボブ……)

脛に傷を持てば、すべての言葉が突き刺さる。自分への当てこすりに聞こえる。

Bob: Michelle Ziegler was killed in a car-wreck last night.
(ミシェル・ジーグラーが交通事故で死んじまった。昨夜のことだ)
Everett:  What? Michelle? That couldn’t be! I was with her last night. Oh no!
(何だって? ミシェルが? まさか! 昨日の夜は一緒だったんだ。何てこった!)

驚いたには違いない。エベレットは前夜、酒場でミッシェルを口説いていたのだ。それが、こんなタイミングで悲報を聞かされる。エベレットは悲しんだか? それとも、不謹慎にもホッとしたか?

こうしてミッシェルがやるはずだった仕事がエベレットに降ってくる。今夜刑を執行される死刑囚、フランク・ビーチャムの取材である。

6年前、雑貨屋で店番をしていたエイミー・ウィルソンが殺された。現場で目撃されたフランク・ビーチャムが逮捕され、2人の目撃者の証言が決め手となって死刑判決が下った。

ミッシェルは午後4時にビーチャムをインタビューする予定だった。代わりに君が行って死刑囚最後の日の記事を書け。それがボブの命令だった。
だが、事件の概要を聞きながら、エベレットは何故かピンと来る。証人が銃声を聞いていなかったのだ。ビーチャムはホントに犯人か?
ビーチャムの資料を持って席に戻る。11時45分、処刑まで12時間と16分。エベレットはパソコンを立ち上げ、大急ぎで書類に目を通し始めた。 感が正しければ、世紀のスクープになる……。

(余談)
このエベレットのパソコンが、なんとMacなのですな。画面から判断する限りOS9で動いております。どうでもいいことですが、Macファンはこの瞬間、静かな喜びに包まれます。そして、思わず叫びたくなります。
くたばれ、Windows!!

 死刑囚にインタビューして、毒にも薬にもならない記事を書く。そんなのは願い下げだ。他人の女房を寝取る男には、山っ気はつきものだ。
エベレットは犯罪現場を見た。証人の1人、会計士のポーターハウスに会った。ビンビン感じる。こいつは嘘をついている。確証はないが、ビーチャムは無罪だ。死刑囚最後の日の記事? そんなもの、糞っくらえ!

彼を突き動かしたのは何か? 正義漢? 人間愛? ボブの女房との情事がばれて危うくなった自分の職を守りたかった? それとも、新聞記者の本能?
彼を突き動かすのは、どうやら下半身だけではない。

死刑の雑感記事なんか書かない、ビーチャムの無実を証明してみせる、と編集長のアランを説き伏せた時、時計は午後2時51分を指していた。エベレットは、全力で事件の真相を探り始めた。ビーチャムにインタビューしたのが午後4時4分。別の男が現場にいたことを割り出して会社に戻ったのが午後5時48分。ビーチャムがやってないのならその男しか犯人ではありえない。だが、その男がどこの誰なのかはわからぬまま。午前0時過ぎの処刑までの残りはもう6時間と少々。エベレットは死刑判決を覆す事実を掘り起こすことができるか……?

6年前の事件だ。ビーチャムの死刑は捜査権限を持った警察官が詳細に調べ上げた証拠に基づいた判断である。残り時間はほとんどない。常識はいう。ビーチャムを救うのは無理だ。
だが、エベレットはできると思った。なにしろエベレットはパンツを脱いでばかりいる確信犯的色惚け野郎である。常識という言葉は、この男の辞書にはない。

 英雄色を好む
 大賢は大愚に似たり

この2つ、同じこといってるんじゃないか? 「トゥルー・クライム」を見てそんな気がしてきた。常識という色眼鏡をかけるから単なる色惚け、大バカ野郎にしか見えない。だが、世の中を一変させるのは、そんなヤツらではないか?
エベレットは色好みの大愚だ。世間の爪弾き者だ。新聞記者ぐらいしかできない男だ。常識的には不可能なことに躊躇なくぶつかっていくのは、だから、ではないか?

(独り言)
常識に捕らわれるな。我が座右の銘である。が、不思議なことに行動は常識人に限りなく近い。平々凡々たる日常である。座右の銘は、いつまでも単なる目標にとどまり続ける。

 話は変わるが、この映画に原作があることはご存じだろうか? 「真夜中の死線」 (アンドリュー クラヴァン著、芹澤恵訳、創元推理文庫) である。帯に

「10年に1度出るか出ないかの至高の傑作である」

という内藤陳氏推薦の言葉があって手に取った。米国で1995年に出版され、読んだクリント・イーストウッドが惚れ込んで映画化権を買い取った、と何かで読んだ。
私は逆の順序でこの作品に接した。最初に映画を見、しばらくして小説を読んだ。大変に面白い小説で、一気に読み切った。読み終えて巻末の解説を眺めていて驚いた。この作品は「トゥルー・クライム」の題名で映画化されている、とあったからだ。
「トゥルー・クライム」? どこかで聞いたような……。Excelで整理してある我が家の映画在庫一覧で検索した。あった。デジタル・ビデオテープで保存されていた。早速取り出して見始めた。

「なにこれ。一度見たジャン!」

そうなのである。私は原作を読みながら、一度見た映画を一度も思い出さなかったのである。私の記憶力って……。

何故なのか。自分の記憶力の粗雑さを直視したくない私は、もう一度小説を読んだ。今回は、映画と比較しながら、である。

原作では、エベレットはミシェルを口説いていない。職場での不満を解消しようと酒とマリファナでラリったミシェルは行きずりの男の誘いに乗り、一夜限りのセックスに耽る。が、後味が悪かった。翌朝、前夜の記憶で自己嫌悪に陥ったミッシェルは二日酔いのまま車を運転し、死のカーブに突っ込む。
この冒頭部分のたったこれだけの変更で、私は映画を見た記憶から切り離された。

「何か、似たようなストーリーに出会った気がするなあ」

というデジャヴ感覚を持っただけで、本を最後まで読み終えたのだ。 私の記憶力って……。

それはそれとして、恐らくこれは意図的な変更である。エベレットに身持ちの堅いミシェルまで口説かせ、エベレットを類のない女ったらしに仕立て上げる。そうすれば、色好みの大愚こそが世の中を変えるというテーマがさらに際だつ。

ほかにもある。原作ではエベレットは35歳の中堅どころである。自分で主役を演じる必要がどれほどあったにせよ、クリント・イーストウッドは絶対に35歳には見えない。
エベレットの一粒種は、原作では息子。映画では、自分の愛娘をスクリーンデビューさせる必要から女の子になった。
ま、どうしても自分でエベレットを演じてみたかったのは分からないでもない。子役はそのついでだろう。微笑ましい親ばかぶりである。高齢になってできた子はことのほか可愛いというし。

(余談)
いくら可愛くても、私にはその覚悟はない。ついて行かないのだ、体力が。あ、たぶん金力も。

 が、一つだけ大きな変更がある。
映画のビーチャムは黒人である。
原作でのビーチャムは白人なのである。しかも、白人であることで奥行きのあるストーリーに仕上がっている。
原作では、米国では黒人の死刑囚が多すぎる、と最高裁の判事が話した直後に事件が起きる。ビーチャムの裁判が大詰めを迎えると、地区検事が、死刑を適用して正義を貫くべきだ、と大演説をぶつ。ビーチャムが白人だからこそ死刑にすべきだというのだ。地区検事は選挙で選ばれる。進歩派の旗は選挙戦に有利に働くと踏んだのだ。
ところが、そのあとで黒人が出頭してきた。こいつこそ真犯人だ、と目星をつけた警察官がいた。が、再捜査は許されなかった。進歩派の旗は降ろせない。朝令暮改は地区検事の選挙に響く……。
これは、人種差別撤廃を掲げた、新たな人種差別の物語なのである。黒人差別をなくそうとする。ところが現実はどこかでねじ曲がる。その結果、黒人差別は温存され、新たな犠牲者が出る。人種差別はアメリカ社会の膏肓に深く入り込んだ病なのである。

小説を映画化する場合、原作を忠実に再現する必要はない。原作に想を得て、一つの映像世界を創り上げてもいい。だが、それにしてもこの変更は重大だ。

監督イーストウッドはこの原作に惚れ込み、すぐに映画化権を手に入れたらしい。その彼が、何故こんなストーリーの変更をしたのだろう? 彼は根深い人種差別主義者なのか?  白い人間が白馬の騎士になるのが好きなのか?

映画を繰り返し見た。ひょっとしたら、という推測が生まれた。時間の制約、である。
冤罪の決め手となるのは、犯人の祖母、アンジェラ・ラッセル(Angela Russel)の胸にかかっていたロケットである。表面にA.R.のイニシャルが刻まれていた。何の不思議もない。
エベレットが、ひょっとしたらロケットが決め手になると啓示を受けた時、処刑まであと1時間少々に迫っていた。取材はすべて暗礁に乗り上げ、おまけに浮気がばれて妻には離婚を宣告され、やけのやんぱちで酒をあおっていた最中だった。
エイミー・ウイルソン(Amy Wilson)はロケットを犯人に奪われていた。エイミーの父、フレデリック・ロバートソン(Frederick Robertson)が、16際の誕生日にプレゼントしたものだ、とテレビで話していたのを思い出したのだ。ん? だとしたら、エイミーのロケットにもA.R.と刻まれていたはずだ。犯人はA.R.のイニシャルを見て、祖母にプレゼントしようと奪ったのではないか?

ここまでは映画も同じ筋身をたどる。そして一気に解決に向かって疾走する。だが、よく考えてみればこれだけでは単なる推測でしかない。
だから原作では、酔眼朦朧としたエベレットはロバートソン家に車を走らせる。A.R.のイニシャルを刻んだか? 答えはイエスだった。だが、それでも決定的な証拠にはならない。偶然だってあり得るのだ。だが、父は付け加える。結婚して姓が変わったエイミーはロケットの内側に新しいイニシャル、A.W.を彫らせた……。
アンジェラ・ラッセルの首に掛かっているロケットの内側にA.W.があれば死刑を覆せる。こうしてエベレットはアンジェラの家に向かってボロ車を走らせるのである。

人種差別社会アメリカで、黒人が白人を救うために簡単に立ち上がるだろうか?
原作に描かれた精緻な仕掛けがあって初めて、黒人が白人を助ける行動を起こすことを説明できるのである。
だが、映画には時間に限りがある。黒人が黒人を救う話にすれば、精緻な仕掛けはいらない。最高裁判事の話も、地区検事の大演説も、エベレットがロバートソン家に車を走らせたことも省略できる。映画が2時間の枠を大きくはみ出すことはない。
あくまで推測である。事実がどうであったかは分からない。だが、ここだけはやっぱり原作通りの映画にして欲しかった。

だが、その1点を除けば、実に練り上げられたシナリオだ。
本と映画の最大の違いは、登場人物の内面の描き方である。本なら、登場人物が誰にも話せない苦悩、恐怖、悩み、怒り、絶望、自分と交わす会話、そんなものを活字を連ねることで表現できる。が、映画ではどうしても描ききれない。映画で一人語りさせたのではリズムが狂って間が抜ける。映画という表現の限界である。

イーストウッド監督は、死刑執行に至る詳細な手続きを執拗に映像化した。刑執行が11時間後に迫ると、独房にいるビーチャムは夕食に何を食べたいか、身の回りのものを誰に引き取ってもらうかに始まり、遺体の引き取り手、葬祭の費用のあて、鎮静剤は必要かまで聞かれ、処刑の細かな段取りを説明される。ビーチャムが指の間に挟んだたばこから、長くなった灰がポトリと落ちる。
死刑の執行停止を各方面に働きかけている弁護士と繰り返す電話。かすかな期待をつないで受話器を取るが、いつも裏切られる。
看守たちは、何度も処刑の手順を確認しあう。時間が迫ると、リハーサルまでする。
移動ベッドにくくりつけられるビーチャム。8角形の処刑室に運ばれると処刑台に移し替えられ、左手の静脈に点滴用の注射針が射し込まれ、赤い血が流れ出る。時間が来れば、この注射針から、まず5gのペンタトールナトリウムが体内に入る。ビーチャムは数秒で昏睡する。次に20ccの食塩水と50ccのパンクロニウムが筋肉を弛緩させ、呼吸を止める。最後は50ccの塩化カリウムが流れ込み、心臓を停止させる……。
画面を見つめる我々にも、ビーチャムの死の恐怖が忍び込んでくる。

死刑は是か非か。間違った判断を避けることができない人間という生き物が、死刑を宣告していいのか? そんな問いかけがひしひしと伝わってくる。いい映画である。

そうそう、忘れていた。オトコである。この映画の最大の魅力をこれからご紹介する。ビーチャムの無罪を確信したエベレットが、取材方針を編集局長のアランに説明しに行く場面である。
先にジャブを放つのはアランだ。

Alan: Stop fucking Bob’s wife. He doesn’t like it.
(ボブの女房とやるのはやめろ。あいつが嫌がってる)
Everett: What would he do in the company? Put it in the newspaper?
(ヤツはどうするつもりだ? 新聞記事にでもするのか?)
Alan: If he comes to me and wants your ass, I have to give it to him. You’ll just be a hole with no ass around it. You know what. You’re fucking womanizer. That’s what. You’ll fuck up your all career and fucking your marriage. If you can’t keep your god-damned prick in your pants, I can’t god-damned  protect you! How was she?
(あいつがお前のケツが欲しいと言ってきたら、俺はくれてやらなくちゃならん。そしたらお前は、ケツのない単なる穴になっちまう。えぇ、分かってんのか? お前はとんでもない女ったらしだよ。そういうこった。それで仕事も家庭も棒にふっちまう。テメエのチンポコをズボンの中にしまっておけないんなら、俺はお前を守れない。ところで、あの女、具合よかったか?
Everett: None of your damn business. Not bad.
(あんたの知ったことか。でも、悪くはなかった
Alan: Lucky bastard! I always liked her and respected her. Hey, did I ever tell you about the assistant D.A. I was banging in the New York?
(この野郎! 俺もあの女に目をつけてたんだぞ。そういやあ、俺がニューヨークでこましてた検事補の話はしたっけな?)
Everett: No. And if you start to tell me now, I’m gonna come close to the desk and rip your throat out with my bare hands.
(聞いてないな。いまから話そうってんなら、俺がこの手であんたののどを引き裂いてやるぜ)
Alan: I’ll save it for another day. Edifying story though.
(またにしとこう。いい話なんだがな)
Everett: I’ve got this problem.
(困ったことになってる)
Alan: The nickel finally drops! You do have a problem. Didn’t I tell you Bob’s been gunning for you since the day he got here in his quiet, earnest, reasonable way. He’s perhaps glad you banged his wife. Now he has a ethical mandate to ???? you.
(とうとうばれたか。そうとも。ボブはずっとお前さんを見張ってたんだ。お前さんがここに来た日からな。あいつらしく控えめに、ひたすらに、筋を通してな。あいつはお前さんが女房とやってくれて喜んでるよ。これで堂々とお前さんを追い出せるもんな)
 Everett:  That’s great. I live to make him happy. That’s not the problem.
(そいつはいいや。俺はあいつを幸せにするために生きてる、ってか。だが、困ってるのはそんなことじゃない)
Alan:  You should fuck my wife. I’d just punch you out.
(俺の女房とやってりゃよかったんだ。そしたら俺が叩きだしてやったのに)
 Everett:  I did fuck your wife.
(もちろんやったさ)
 Alan:  Lucky bastard! How was she? Good?
(この野郎! どうだった、良かったか?)
 Everett:  A real wild cat. But that’s not the problem.
(ありゃ、本物の野生猫だな。だが、問題はそれでもない)
 Alan:  What’s your problem? Tell Papa, you do come to Papa,  you soulless sack of shit. Come on! What is it?
(いったい何だってんだ? ほら、パパんとこに来てお話ししてごらん、下種な糞袋ちゃん。ほれ、どうしたってんだ?)
 Everett:  It’s Frank Beachum. I think he may be innocent.
(フランク・ビーチャムだ。あいつ、無罪かも知れない)
 Alan:  All right. All right. What have you got on Frank Beachum? Oh, Ev,Ev….
(分かった、分かった。で、どんな材料があるってんだ? エブ、エブちゃんよ)
 Everett:  Alan, look, look, listen to me.
(アラン、ちょっとだけ話を聞いてくれ)
 Alan:  I don’t have to listen to you! I’m looking at you. I’m looking and I can see a reporter who’s about to tell me he has a hunch.
(お前の話なんか聞かなくたって分かってる。なあ、俺の前に立ってる野郎は、ピンと来たんだって言いたがってるブン屋だよなあ)
 Everett:  I’ve been checking on some things.
(調べてみたんだ)
 Alan:  Do you know my opinion of reporters who have hunches?
(おい、ピンと来たっていうブン屋に関する俺の見解を知ってるか?)
 Everett:  I’ve interview with witness who said he saw a gun. I don’t think he saw a gun.
(俺は銃を見たって言う目撃者と会ってきた。あの男が銃を見たはずがない)
 Alan:  I can’t fart loud enough to express my opinion!
(どうやら、どんなでかい屁をしても俺の見解を理解させられないらしいな)
 Everett:  Even Michelle thought whole things were stunk. She talked about the discrepancies.
(ミシェルも何か臭うと思ってた。何か辻褄が合わないと言ってたんだ)
 Alan:  Discrepancies! After a police investigation, a trial of six years of appeals? And you found discrepancies! How long did it take you, half an hour?
(辻褄が合わないだと! 警察が調べたんだぞ。6年間も上訴が繰り返されたんだぞ。その挙げ句、お前さんが辻褄の合わないところを見つけただってか! 時間はどんくらいかかった? 30分か?)
 Everett:  You know the system. His first attorney was probably some 12-year-old legal aid guy. He couldn’t object enough for the court to make an intelligent decision.
(あんただって司法の仕組みは知ってるだろう。あいつの最初の弁護士は12歳の弁護士見習いみたいなものだったんだ。反論もできなくて、裁判所が賢明な判断を下す役に立てなかった)
 Alan:  Ev, come on. I got your appeal. Come on!
(エブ、分かった。話は聞いたよ)
 Everett:  They are going to kill the guy tonight.
(あの男は今晩殺されるんだ)
 Alan:  All right, man. I must be on acid! So you are trying to tell me that you wanna  turn a routine execution piece into a fight-for-justice story and what that gives  me an excuse to stand up for you when Bob asks me to transfer you to the toilet. That’ it, uh?
(ふーっ、こいつは悪夢だな。 で、お前さんは何でもない死刑執行の記事を、正義のための戦いの記事にしたいといってるわけだ。そうすりゃあ、ボブがお前さんをトイレに放り込みたいと言ってきたときに、俺は、いやそいつはやめといた方がいい、といえるって寸法だ。そんな筋書きか?)
 Everett:  Alan, I need this.
(アラン、やらせてくれ)
 Alan:  You are not going to get your wife and kid back. You know that. She’s gonna find out. O.K?  And I can’t even tell you what will happen, if this turns out to be another Varges piece, O.K? So you come up with something fine, I’ll run it. But man, it had better be good.
(そんなことをしても、女房、子供は帰ってこないぞ。分かってるよな。女房にはすべてばれちまう。こいつがバーガス事件の二の舞になったらどうなるかなんて、俺には口にする勇気がない。いいか、ちゃんとした記事に仕立ててこい。そうしたら載せてやる。でもな、いい記事じゃなきゃダメだぞ)
 Everett:  The Varges thing, I was drinking. You lose your nose when you’re drinking. My nose is back.
(バーガスのときは酔っぱらってたんだ。あんただって、酔えば鼻がきかなくなるだろ。俺の鼻はまたきくようになった)
 Alan:  Well, we’ll both find out, won’t we?
(ま、間もなく分かるさ)
 Everett:  But just one thing, If I do come up with something, we can’t wait till tomorrow to run the story.
(でも、一つだけ。何かが分かったたとして、こいつは明日まで待てない)
 Alan:  My God! I know what you’re thinking, you know. It’s like dogs that can hear a high pitch sound that humans can’t. I can’t actually hear your little brain tick, tick, ticking away. I really can’t. O.K. And let me just remind, if  you go to Lowenstein thinking he’ll call the governor…
(何だと! 分かったぞ、お前さんの考えていることが。人間の耳には聞こえない高周波が聞こえる犬みたいなもんだ。俺にはお前さんの小さな脳みそがチック、チックって音を立てているのが聞こえない。なあ、お前さんが社主のローエンスタイんのところに行けば、彼が知事に電話をしてくれると考えているとしたら……)
 Everett:  The governor will listen to him.
(そうすりゃあ、知事だって話を聞いてくれる)
 Alan:  It would better be awfully fucking good. Or he not only won’t call the governor he will eat your heart and throw you to the dogs. You won’t have to bone his wife, pal. He’ll fire you for free. O.K?
(こいつは底抜けにいいや。だがな、社主は知事に電話をしないばかりか、お前さんの心臓を食っちまって残りは犬に放り投げるぞ。社主の女房と寝る手間もいらないんだ、坊や。社主はお前さんを首にしちまうんだ)
 Everett:  Thanks.
(そいつはどうも)
 Alan:  Ev, you don’t have to thank me. ‘Cause I ???? I don’t know whose ass you’re trying to save. Beachum’s or your own. But if your nose for a story is gone, my friend, you are gone too. Because I’m not going to run this paper to salvage what’s left of your smarmy exixtence. So look, you stand there and look me in the eyes and tell me man to man. Was she pretty good? Seriously?
(俺に礼を言う必要はない。俺には、お前さんが誰のケツを救おうとしているか分からんからな。でもな、お前さんの鼻が鈍ってれば、お前さんは終わりだ。お前さんの尻ぬぐいをするために新聞を出してるんじゃあないからな。いいか、そこに立って、俺の目を見て、男と男として答えろ。あの女はすばらしく良かったか? ホントに良かったか?
Everett: Fuck you!
(この野郎!)
Alan:  Lucky bastard! Go get them,tiger!
(幸せ者め! さあ、獲物を採ってこい!)

削りようがなくて、ついつい全文紹介した。長くなった。ご容赦願いたい。
いかがであろう。機関銃弾のように矢継ぎ早に飛び出す言葉は、下品さのオンパレード。アランが手元にある弾を撃ち尽くさんばかりの勢いで身持ちの悪いエベレットを追い詰めていたかと思うと、次の瞬間には一転して、あの女、具合よかったか? こういう素早い身のこなしに、私は知性を感じてしまう。
エベレットもしたたか者だ。並のオトコでは、悪くはなかったさ、と平然と受け流すのは難しい。
切れ味の鋭い頭脳と頭脳が、真っ向から渡り合う。えげつない言葉の群れは、何ともいえない調味料だ。
汚い言葉を投げつけあいながら、でも2人は相手の意図を正確に理解する。欠点を指摘し、過去の間違いをあげつらい、現状の危うさを並べ、それでもアランは、やってみろ! とエベレットを戦場に放つ。
これこそが男の醍醐味だ。男としてやらねばならぬことを理解したもの同士の会話。2人はお互いを認め、お互いを尊敬する男たちなのである。
と私は思うのだが、いかがであろうか?

(余談)
よせばいいのに、このシーンの真似をしようとするから、私は世の女性たちの顰蹙を買うのであろうか?

 最後は、身に覚えのあるあなたへのサービスである。盗んでいる自覚のあるあなたが読者だ。 とうとう○○がばれたとき、エベレットは如何に対処したか?

Bob: I don’t know what to say to you. Been thinking about for all morning to figure out what it was I wanted to say to you, and I don’t.
(お前さんに何を言ったらいいのか分からん。何を言いたいのか、朝からずっと考えているんだが、いまだに言葉にならん)
Everett: I’m sorry, Bob. I really am sorry.
(ボブ、すまなかった。心から悪かったと思ってる)
Bob: I don’t, I don’t think you are. I don’t think you’re capable of feeling sorry. You’re not capable of feeling anything for other people.
(いや、お前さんは何とも思っていない。お前さんには、悪かったと感じる感性がない。他人はどうでもいい、というのがお前さんだ)
Everett: Maybe right. Maybe you’re right, Bob. How did you find out?
(そうかもしれない。あんたの言う通りかもな。でもボブ、どうして分かった)
Bob: She told me.
(妻が話した)
Everett: She told you?
(えっt?)
Bob: Yeah. She saved some of your cigarette batts that you put in an ashtray by the side of the bed. Her way of letting me know.
(そうなんだ。お前さんが捨てたたばこの吸い殻を、妻がベッドの脇にある灰皿にとっておいた。あいつはいつも、そうやって俺に知らせる)
Everett: All I guess that’s all I was, was a way of getting your attention. If it helps you any, I feel awful.
(あんたの気を引くために浮気をしたのか。これで少しでもあんたの気が済めばいいんだが、俺はゾッとしてる)
Bob:  It doesn’t help.
(いや、済まないね)

いかがでありましょう? お役に立ちそうですか? ま、どちらの立場になるかにもよるのでしょうが。
私、ですか?
まあ、女の不可思議さを学びました。
reallyという副詞が、主語とbe 動詞の間に来ることもあるのか、ということも学びました。 けど……。

【メモ】
トゥルー・クライム (TRUE CRIME)
1999年公開、127分

監督: Clint Eastwood クリント・イーストウッド
原作: Andrew Klavan アンドリュー・クラバン
出演: Clint Eastwood クリント・イーストウッド =スティーブ・エベレット
: Isaiah Washington イサイア・ワシントン =フランク・ビーチャム
: Lisa Gay Hamilton リサ・ゲイ・ハミルトン =ボニー・ビーチャム
: James Woods ジェームズ・ウッズ =アラン・マン
: Denis Leary デニス・レアリー =ボブフィンドレー
: Diane Venora ダイアン・ヴェノーラ =バーバラ・エベレット
: Michael Jeter マイケル・ジェッター =デイル・ポーターハウス
: Hattie Winston ハッティー・ウィンストン =ラッセル婦人
: Francesca Fisher Eastwood フランシスカ・F イーストウッド=ケイト・エベレット
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