12.17
2017年12月17日 運動不足の果て
しかしながら、である。
情けない身体になった。
先週の金曜日、つまり15日に、私を酒に誘う悪友があったとお考えいただきたい。その日の昼間、
「○○に6時に予約をしたんだけど」
と電話があった。何度か行ったことがある店である。
「ああいいよ」
と応えるのは当然のことである。
そこで彼はもう一つ問うてきた。
「どうやって来る?」
その店のロケーションを思い描いた。徒歩で30分前後。そういえば、前にも歩いたことがある。
「ああ、歩いて行くから心配しないで」
「えっ、歩くの?」
「うん、最近、すっかり運動不足でさ。こんな時にでも歩かないと、なかなか歩く機会がないから」
それは、常々私が懸念していることである。何しろ、地方都市は歩く機会が少ないとは前にも書いた。
現役時代は、それでも、嫌々でも行かなければならないところがあった。おおむねは車で移動するのだが、向こうの駐車場から先は歩く。だから、多少は歩いていたはずである。
ところが、今はいけない。行きたくないところには絶対に行かない。行かずに何をしているかというと、パソコンに向かって原稿を書いていることが多い。いまはそういう仕事なのである。そして、原稿に飽きると、瑛太に教えるために算数の問題をひたすら解く。
いずれも机の前に座りっぱなしだ。歩かない。運動不足もここに極まれり、の暮らしである。
だから、歩く機会があればなるべく歩く。夏場は歩こうにも歩けないから、秋から冬にかけては、心がけて歩く機会を増やす。
そう思い定めているのである。
家を出たのは5時25分頃だった。気温は低かったが、幸い風が弱かったので歩くのにそれほど苦労はしなかった。それでも、店に着いた時は汗を流していた。私はとことん血の巡りがいいのだ。少しの運動量で汗が噴き出す体質である。
とりあえずの生ビールが済むと熱燗。なかなか楽しい飲み会だった。
「私ね、ビートルズを聴いて何に感動したかっていうと、曲の短さなんですよ。あれ、カラオケに最適! ね、これからビートルズを歌いに行きましょうよ」
というしつこい誘いを
「あのね、ビートルズの曲って、どんなに工夫して歌っても奴ら以上にうまくは歌えないの。自分で情けなくなるほど下手な歌にしか聞こえないの。あれほどカラオケに向かない音楽もないんだわ」
などとやんわりとお断りして、午後10時前には家に戻った。
ま、それはよい。いい思いをしたといえば済む話である。
ギョッとしたのは翌日、つまり昨日の土曜日のことだ。
痛いのである。
いや、酔った勢いで転んだわけではない。どぶ板を踏み外したわけでも、見知らぬ誰かに因縁をつけて、逆にボコボコにされたわけでもない。
お尻から足の付け根にかけて痛みが広がっているのである。
何のことはない。
筋肉痛
なのだ。
「えっ、たった30分歩いて筋肉痛?」
ショックだった。
山登りをしたわけではない。
どこかのマラソン大会に出ようと突然決意して、初練習に臨んだわけでもない。
歩いただけなのだ。
それも、たった30分!
珍しく、さが妻女殿が慰めの言葉をかけられた。
「翌日に凝りが出るのはいいんだって。身体が本当に老化すると、動いて3、4日後に筋肉痛になってひどいことになるんだって」
それ、いま目の前で、歩こうとするたびに
「痛てっ!」
といっている人間にとって慰めになるか?
いやはや、68歳とはそのような年齢であるか。
いや、地方都市暮らし9年目の運動不足の積み重なりとは、そのようなものであるか。
心して、歩く機会を増やさねばならないと心に決める私であった。
その傷心の私をムッとさせたのは、今朝の朝日新聞も投書欄である。
何でも、確か40歳の公共団体非常勤職員である女性の方が、たばこが大嫌いなのだそうだ。
宴席で、
「たばこ、いいかな?」
と聞かれると、ダメとはいえない心優しい方のようであるが、でも一皮むくと
「いつの間にか宴席はたばこの煙で覆われ、家に戻ると髪の毛にまで臭いが染み込んでいる」
と怒っていらっしゃる。
それぐらいなら、その場で
「ごめんなさい。私、たばこが苦手で」
とにこやかに宣言すればいいと思うのだが、女性の心は分からない。
外面如菩薩内心如夜叉?
もっと分からないのは、そのたばこ対策として、
「いつまでもたばこを吸う人がいなくならないのは、偉い人が吸うからだ。偉い人が真っ先にたばこをやめれば禁煙社会が実現する」
とおっしゃっていることである。
えっ、俺って、どこかの偉いさんが吸ってるからいまだにたばこをやめないのか?
それとも、偉いさんとは俺のことか? 私にその自覚はないのだけれど。
この方、やっぱりおかしい。世の中って、偉いさん(というコンセプトがいまいち分からないが)の真似をする人の集まりなのか? あんたは、どっかの偉いさんがたばこを吸わないから吸わないのか?
あのヒトラーはたばこが嫌いだった。でも、ヒトラーより偉くなかった人たちはスッパスッパとたばこを吸っていた事実をご存じ、……、ないだろうなあ。
もっとも分からないのは、こんな摩訶不思議な投書を紙面化する朝日新聞である。メディアとして禁煙派であることは百歩譲って認めるとしても、だったら、もっと説得力のある投書を選んで掲載したらどうだ?
昨夜見た映画では、フランス語を話せないイギリス兵と、英語が話せないフランス娘が、たった1本のたばこで恋に落ちた。「ソルジャーズ 連合軍を救った男たち」というB級映画である。それなりに楽しめた。
なんてことを言っても、正義の権化になってしまった禁煙派の連中には、無駄の効用が分からないだろうな。寂しい人たちだと思いませんか?
そうそう、ここ1年ほどの間に、私の周りで2人の肺がん患者が出た。一人はすでに亡くなり、いま一人も、手術しようとしたができなかったと聞いた。
この二人、一度もたばこを吸ったことがない。
いや、ま、それだけのことであります。
なお、投書子の言葉として「」を使いましたが、これは私の記憶に残っているもので、新聞を引き写したわけではありません。わざわざ新聞を取りに行くほどでもない、と思ったもので……。
その分、割り引いてお読みください。