02.06
2018年2月6日 沖縄
名護市長選挙が終わった。
米軍普天間飛行場を辺野古に移す政府の方針を受け入れる新人候補が当選した。移設反対をかかげて3選を目指した現職候補は3000票以上の大差をつけられた。
皆様はどんな感慨をお持ちになっただろうか?
私は、ニュースに接したとたん、格好悪いが
「へーっ」
と愚にもつかないことを口にしてしまった。
沖縄の外に住む私は、メディアを通じなければ沖縄の状況に触れることはない。だから、普天間飛行場について
「少なくとも県外」
と宣うた元総理の火星人を引き合いに出すまでもなく、沖縄は反米軍基地で一枚岩になっていると何となく思い込んでいた。自民党員だった現職知事が、知事になったとたんに自民党の方針に逆らい、移設反対を唱える闘士に変身したのも、
「やっぱり沖縄は、米軍基地に関する限りは一枚岩なんだ。基地に反対しなければ知事になっちゃいけないんだ」
とい受け止めていた。
それが、移設反対をかかげた現職市長のまさかの大敗。沖縄は変わりつつあるのか?
という関心を持ちながら、今朝の朝日新聞を読んだ。いま購読しているのは朝日と地元の桐生タイムスだけなのである。
なにしろ、普天間移設という、沖縄が当面する最大の問題に住民が答を出す選挙である。日米安保条約の帰趨がかかっている選挙ともいえる。朝日新聞だって事前の取材は綿密にしたはずだと思いたい。
そのような準備を整えた朝日新聞は、この選挙結果を
「先の見えない国との対立に疲れた市民の、ごく普通の思いを反映した結果だったといえる」
と分析した。
うーん、これ、ごく普通か?
前回2014年の選挙では、現職が1万9836票を得ている。今回は16931票。失ったのは2095票である。
候補者は違うが、前回の選挙で辺野古受け入れを主張した候補が得た票は1万5684票。今回当選した候補者は20389票だから4705票の上積みだ。
数字を見れば、現職を見限ったのは2000人で、この2000人がすべて辺野古受け入れに考えを変えたとしても、さらに2700人の受け入れ賛成派が登場したことになる。
2000人が考えを変えていなくても、現職は勝てなかったわけである。
言い換えれば、基地受け入れに抵抗を示してきた人たちの一部が「あきらめ」たから現職が負けたのではない。もっと違った原因があってこの結果に繋がったのである。
同じ面に掲載された出口調査の分析で目立つのは、公明党支持者の動きである。2014年は期日前で32%、当日は68%が移設反対を唱える現職に投票していたが、今回はそれぞれ94%、84%が新人候補に票を入れた。
この公明支持層の変節を分析しなければ、今回の選挙を分析したとはいえない。
さらに、無党派層でも前回は75%が現職支持だったのに、今回は期日前58%、当日で63%と大きく目減りした。地方自治体の首長は3期目の選挙が最も強いといわれる。その最も強いはずの選挙で、現職は無党派層の支持を落としている。なぜなのか? 基地移設反対の先頭に立つ姿ばかりが私たちに伝えられてきた現職は、他の政策では市民の支持を失っていたのではないか?
などと考えていくと、決して市民の「ごく普通の思い」では、この選挙を分析したことにはならないはずである。
そもそも、前回の選挙でも投票した有権者の44.2%は、基地移設受け入れを唱える候補に投票していたのだ。つまり、沖縄は米軍基地に関して、ちっとも一枚岩ではなかった。一枚岩だと何となく思い込んでいた私は、メディアに汚染されていたといえる。そして、この解説は、汚染された読者にしか通用しない論でしかない。
このような、一見分析に見えるが、実は記者が勝手に思い描いたストーリーは消化に悪い。朝日新聞に太田胃散でも配っていただきたいものだ。
さらに、この「解説」は最後の段落で、
「移設計画をめぐり安倍政権がいつも言う『市民の理解』が、今回の結果をもって得られたというわけではないことを、政権も私たちも忘れてはいけない」
と締めくくっている。
では、この解説を書いた記者氏にお訪ねしたい。「市民の理解」とは、どのようなものなのか? 何が起きれば「市民の理解」が得られたことになるのか?
少なくとも今回の市長選挙は、移設受け入れか否かを対立点として行われた。その結果、受け入れを拒否する現職を、名護市民は落選させたのである。それを「市民の理解」と解釈するのが、私たちの代議制民主主義のルールではないのか?
代議制民主主義は虚構であると私は何度も書いた。その私がこのような書き方をするのであれば、まだ論理は一貫する。
しかし、朝日新聞で筆を執っているあなたたちは、日本の代議制民主主義を金科玉条としておられるはずである。代議制民主主義を金科玉条とする人が、基地移設問題を最大の争点として争われた選挙の結果について、選挙に現れた民意を否定する書き方をされる。
筆先とは便利なものよのう、と私は嘆息する。
念のために書き加える。
私は辺野古移設賛成派ではない。「少なくとも県外」派である。ただ、具体的方策を持ち合わせないので、主張はしない。
安倍内閣を支持するものでもない。安倍内閣の政策に関しては是々非々の立場を貫いていると思っている。
だからこそ、もう少しピリッとした解説を読みたいのである。