10.28
2018年10月28日 あかりの写真
操作の間違いで、1時間かかって書いた原稿が、タイトルを除いてすっ飛んだ。怒り心頭に発する思いだが、実行行為者は私である。私の心頭から発した怒りは自分に落ちてくるしかない。ばかばかしいから、怒りを抑え込む。
でも、何を書いていたんだっけ?
あかりの写真をプリントした。先日遊びに来たとき、桐生が丘遊園地で撮った1枚である。妻女殿のご下命で、私が作業に従事した。
あかりは大きく、クルクルした目と、広い額を持った女の子である。それだけなら、
「成長すれば、知性がにじみ出る美しい女性になる」
はずだが、何故かパパである我が長男の、見るからにがんばっている鼻を受け継いだ。ために、桐生であかりの成長を楽しみにしている老夫婦は
「あれ、大きくなったらどんな顔になるのかな?」
「大丈夫よ。子どもは成長すると顔が変わるの。きっと美人になります」
などと、いらぬ心配をしている。大きな目、秀でた額に加わるがんばる鼻。成長で変わる造作のバランス……。生きていくとは、悩みを友にすることらしく、心配でおちおち眠れない。
というのは、話を大げさにする私の癖である。
そんな私が昨日、桐生が丘遊園地で撮ったあかりの写真をパソコンに取り込んだ。ついでに、長男が設定していったgoogleフォトの写真共有に、全83枚をアップした。作業が終わり、アップした写真をスクロールしていて1枚の写真目が止まった。
いい、あかりの表情がいい!
「おい、ちょっと見てみろよ」
台所にいた妻女殿をお呼びした。
「これ、この写真。あかりがいい顔しているだろ?」
「あ、ホントだ。いいわ、この写真。あかりちゃん、きっと美人になるわ。大丈夫よ。これ、プリントして」
ということで、今日の作業となったわけである。
その写真は、遊園地に置かれていたミニチュアカー(記念撮影用)の運転席によじ登ったあかりを撮ったものである。3枚あり、1枚目はハンドルを持って、多分パパのいる方を見ながらニッコリ笑っている。それもいいのだが、極めつけは2枚目である。
これも、両手はハンドルをしっかり握っている。違うのは、その姿勢で胸をグッとはり、何故か左肩を突き出していることだ。それに、目は笑っているが口元は大笑いして歯をむき出すのではなく、グッとしっかり引き締め、いかにも得意そうな顔をしている。それが、なんとも、いい。
「見てよ、私、車の運転が出来るのよ」
とでもいいたいのだろうか。得意満面とはこのような表情をいうのだろう。城、緑、赤、青、黄色に塗り分けられた車に、赤と黒の横線が入ったパーカーを着たあかり。実にいい絵柄である。
あかり、1歳7ヶ月。こんな表情を見せるようになったか。
しかし、いま思えば、これが私の財布が緩むきっかけとなったシーンである。
あかりが川崎に戻った後を追いかけるように、Amazonに「アンパンマンドライブ」を発注し、届け先をあかりにした。車をこれほど楽しむのなら、「アンパンマンドライブ」は是非ものである。
思えば、啓樹が同じような年齢の頃、初めて「アンパンマンドライブ」を買って与えた。当時私は横浜にいて、開封したのは横浜の家である。啓樹は箱が空くのが待ちきれないように「アンパンマンドライブ」の運転席に乗り込み、さて、何時間車を運転していただろう。
その車は四日市で嵩悟に引き継がれた。確か途中で壊れ、私が買い直したような気もするが、ひょっとしたら嵩悟は壊れた「アンパンマンドライブ」で我慢したのだったか?
啓樹がそうなら瑛汰にも買い与えねばならぬ。瑛汰も、啓樹に負けず劣らず、この玩具を遊び尽くした。
啓樹、瑛汰、嵩悟は男の子である。璃子がこの玩具で遊んだ記憶はあまりない。だから、女の子であるあかりには不要な玩具だと思っていた。しかし、この表情をされたらそうもいってはいられなかったのである。
女の子のあかりが「アンパンマンドライブ」。だが、考えてみればそれほど不思議でもない。いまや職業に男女差がほとんどない時代である。というより、あらゆる職業で女性が男性を凌ぎ始めた時代だといえる。一部の大学医学部で女性受験者に不利な採点をしたというのも、生の点数では女性の方がはるかに高い得点を取っていたからだろう。男性の天国は崩れつつあり、大型トラックの運転席に若い女性が座っている姿を目にすることも珍しくはなくなった。
あかりが車の運転に興味を持つのも自然なのである。
「アンパンマンドライブ」が川崎に届いた日、FaceTimeで連絡が来た。iPhoneのディスプレーの中であかりが「アンパンマンドライブ」に乗り込み、ハンドルを操っていた。
あかり、安全運転を頼むぞ!
というわけで、ハンドルを握って得意げに喜びを見せたあかりは、私の口座から6000円ほど消し去った。
まあ、それはよい。あかりが楽しんでくれるのならむしろ嬉しいことである。だが、Amazonに注文したとき、あかりの笑顔で刺激された消費はそれだけだと思っていた。
「今週暇なときでいいから、ジョイフル本田に行くからね」
妻女殿がそうおっしゃったのは、プリントしたあかりの写真をお渡しした直後だった。
へっ、あかりの写真とジョイフル本田。なんの関係がある? 何で突然そんなことを言い出す? やっぱり、頭のねじが2,3本緩んでおられるのか?
私は当然の質問をした。
「何で?」
妻女殿は、こんなに簡単な摂理が分からないのかという顔をしながらおっしゃった。
「写真があったら、額が必要になるのは当然でしょ」
なるほど。妻女殿の頭の中では、論理がさようにつながっておるか。いまだに妻女殿の「見えない」論理の筋道に右往左往する私である。
というわけで、あかりの得意満面は2つ目の消費を喚起することになった。
大阪本町 糸屋の娘
姉は十六 妹は十四
諸国大名 弓矢で殺す
糸屋の娘は目で殺す
あかりは1歳7ヶ月にしてボスの殺し方を知ってしまった。後生畏るべし。多くの男を笑顔と目だけで殺す女に育つのか?
という感じのことを書き、続いて別の話題を持ち出したのが消え去った原稿であった。返す返すも惜しいことをした。
そこそこの行数になったので、消え去った後半は後日、ゆっくり書き直すことにする。