2019
08.06

約束に違反した事情を書いておかねばならない。問題は「2時間」であった。

らかす日誌

8月3日、約束違反を犯し、4日の日誌で、その事情は別途ご説明すると書いた。それを実行する。

3日は桐生の夏祭りの中日であった。例年のように私は本町3丁目の詰め所に陣取り、3丁目の「翁鉾」と4丁目の「四丁目鉾」に曳き違い(単にすれ違うだけ)が終わった後の酒宴に臨んだ。
あのO氏が東京から来た友人夫妻を伴って姿を見せたのは、酒宴が始まろうという時である。乾杯の後、ビールを飲んでいると、

「飲みに行く?」

と誘われた。彼が伴ってきた友人は、私の知人でもある。否、はあり得ない。

「行く」

こうして酒宴を離れた私たちは、南に下って飲み屋に席を占めた。

ビールはもういい。日本酒である。冷やでクイクイ飲んでいて、ふと時計を見た。もう11時近い。そういえば、日誌が書きかけであった。遅くとも10時には戻って書き継ごうと思っていたのに、もうこんな時間か。いかん、このままでは日誌が書き継げず、2日の日誌で

「続きは再び明日とする」

と書いた落とし前がつけられなくなる!

私はタクシー会社に電話をした。一刻も早く自宅に戻り、何とか約束を果たしたいと律儀に考えたのである。だが、電話から流れてきた声は、その希望を打ち砕いた。

「はあ、いまからだと、そうですね、2時間ほどお待ちいただきますが」

2時間?! 午前1時までタクシーが来ないってか? それじゃあ、約束を果たすのは無理ではないか。
私のスマホには、タクシー会社は1社しか登録されていない。知人が経営する会社である。焦った私は、店の女の子に、他のタクシー会社に電話をして、どれくらいの時間で来てくれるか聞いてもらった。間もなく姿を現した彼女はいった。

「どこも2時間ほどかかるといっていますが」

絶望的である。すぐに私は決断した。

「俺、帰るわ」

席を占めてまだ30分ほど。これから飲もうか、という時間である。しかし、背に腹は代えられぬ。

「えっ、タクシーが来ないのに、どうやって帰るの?

そんな問に、私は決然と答えたのである。

「歩く」

午後11時とはいえ、外の気温はまだ30℃前後はあるだろう。暑さが嫌いな私は、絶対に歩きたくない温度条件である。だが、歩く。

こうして私は、即座に席を立ち、歩き始めた。

歩いて帰宅するには苦い記憶がある。5月の末、歩いての帰宅を試みた私は、出入りする車のためにスロープを造る鉄板に躓き、人はこのようにして死ぬこともあるのだとの思いを抱いた。こちらでご確認いただきたい。高齢者が夜中に歩く。この上なく危険なことである。だが、歩く。

歩いた。飲んだ酒のせいか、あるいは30℃前後の外気のせいか、自宅にたどり着くまでに2度小休止した。それでも、今回は何ものにも躓くことなく、無事に自宅にたどり着いた。もうあと5分ほどで午前様の時間である。
あわててお断りを書いた。この程度なら1分もあれば書ける。書いてアップし、私は浴場に歩を運んだ。考えてみて欲しい。30℃前後の外気温の中、40分ほど歩いたのである。ただでさえ汗っかきの私が、どれほどの汗にまみれていたことか。

シャワーで全身の汗を洗い流し、もうこれまでと思い定めて布団に入った。いつもは夕刻に入浴を済ませて食事をするから、布団に入るときには髪は乾いている。しかし、この日は水がしたたる洗い髪のまま横になったのはいうまでもない。

いま考えてみれば、翌4日は何の予定もなかった。この日誌に書いた

「続きは再び明日とする」

という一言さえなければ、私は飲み続けて午前1時のタクシーを待っても良かったのだ。

同席されていた方々には、宴席を途中で失礼するという無礼を働いた。もしこの日誌をお読みなら、この場を借りて謝罪する。

でもねえ、私は宴席をしらけさせる無礼者なのか。それとも読者への約束を何とかして果たそうというまれに見る律儀者なのか。読者への約束などほったらかしてあの席で飲み続けていた方が良かったのではないかとも思うが、あなたはどう思われますか?

いずれにしても、「らかす日誌」はこのようにして書き継がれているのであります。