2019
08.29

桐生市は暗黒時代に足を踏み込んだ、と妻女殿は宣うた。そこまでのことはないと思うが……。

らかす日誌

昨日の桐生市議会で副市長人事が決まった。それを新聞でお読みになった我が妻女殿は、見出しの如くつぶやかれた。暗黒時代、である。

桐生市の副市長人事については4月17日の「らかす日誌」で軽く触れた。選挙中だったので選挙妨害になっては行けないと詳細は書かなかったが、驚くべきことに、あの時詳しく書かなかったことが実現した。
当選した現市長が、元市議会議長を副市長に推し、議会が認めたのである。あれまあ。

それだけならたいしたことではない、とお考えになるかも知れない。そこで、私が

「あれまあ」

と思った次第を書いておきたい。

私は、副市長とは中央官庁の事務次官に当たると思う。官僚組織の頂点に立つ役職である。

中央官庁の最高責任者はいうまでもなく政治家である大臣である。だが大臣は時の総理大臣の組閣によってコロコロ変わる。組閣のたびに、「大臣心待ち組」が多数いて自薦他薦を繰り返すから、政党をまとめるためにはあちこちに配慮せざるを得ないためだと思われる。いまの麻生財務大臣はずいぶん長いことやっているが、あれは例外的なものだ。それに、例外的に長く財務大臣にとどまっている麻生さんにしてみても、安倍内閣が終焉を迎えればポストを離れるだろう。大学を出て官僚となった連中とは、仕事への慣れ具合が全く違う。官僚がいなければ大臣は何も出来ないと言ってもよい。
そのような仕組みになっているので、事務次官とは大臣の意を受け、官僚組織を取り仕切って大臣の意向の実現に努める。それが基本的な仕事である。

市という行政組織で、市長は政治家である。これも大臣並みではないが、コロコロ変わる。任期は4年。3期連続当選しても12年たてば別の政治家が市長に納まる。トップが代わっても行政は連続しなければならない。そこに官僚組織の存在意義がある。行政の継続性を保ちながら、行政については素人である市長の意向を具体的な政策に落とし込み、実現を図るのが市職員の仕事なのだ。

その組織で副市長は市長の意向を最初に聞き、役所の組織のどこ、誰を使い、どう動かせばその政策を実現できるかを考えて指揮する役職である。市長の片腕と言ってもよい。だから副市長人事は市長が議会に提出するのである。
だが、市長と副市長の関係は単なる信頼関係ではない。市長として信頼できない相手は論外だが、いくら信頼できても行政組織を動かす能力がなければ意味がない。市長として最も重視しなければならないのは市民に約束した政策の実現であり、市に活気を取り戻すことである以上当たり前のことだと思う。

だから、地方行政組織の「副」(副知事、副市長など)は行政経験者から選ばれることが多い。副市長でいえば、ベテランの市職員から選んだり、県庁の職員、たまには中央官庁の職員に頭を下げて副市長の役職を引き受けてもらうのは市長の仕事である。

無論、以上は一般論である。民間から副市長を選ぶことはルール違反ではない。だが、民間から選ぶ際にはそれなりの合理的な狙いと、役所をどうしたら動かしていけるかの計算がなければならない。市でいえば、副市長を2人にし、その一人を官僚出身者にするなどもその目的にかなうだろう。あるいは、特定の部長を「最高位の部長」として処遇し、実質的に副市長の仕事を肩代わりさせることもありかも知れない。官僚とは上から言われたことを唯々諾々とやるだけの人間集団ではない。私やあなたと同じように理性を持ち、感情を持ち、判断力、智恵を持つ人々のかたまりである。おかしな上司の指揮命令は、表面上は従う振りをしながら、実質的には無視する智恵は備わっているのである。

そのようなことをすべて考慮に入れた上での副市長人事だったのか? 元市議会議長に市職員を把握し、指揮命令するの力はあるか? 市職員は市議会議長時代の彼をよく知っているのである。

「あれまあ」

のもう一つの理由はずっと泥臭い。その上、はっきりした証拠があるわけでもない。取材などしていないからエビデンスを持ち合わせているわけでもなく、いわば間接的な証拠しかない。これから先は

「と思われる」

という話である。

いまの市長は元市議会議員であり、1期4年だけ県会議員に転じた後市長選に出馬して当選した。彼が市議会議員のころ、今回副市長になる元市議会議長は彼の後輩議員であり、私の見るところ、仲間であった。

新しい市長が県会議員の間、桐生市の当時の市長は3期目を務めており、任期終了を機に政界から引退するとみられていた。その市長の息子の県議選出馬などもからむ話だが、複雑になるのでそれは無視する。そして、次の市長候補と目されのが、県議である彼であった。

「他にいないだろう」

という見方が大多数であり、中には

「彼なら何も出来ないから、桐生市を悪くすることもないはずだ」

と話す人もいたが、それは少数派である。私の知る大多数は、彼が後継市長になるのを当然視していた。

そんな状況の中、市議会で彼を次の市長選に担ぎ出す動きが出始めた。結局、22人の市議中16人が趣旨に賛同したと賛同者の1人に聞いた。こうして彼は、万全の態勢で市長選に臨んだのである。

28日の市議会で、

「この副市長人事は論功行賞ではないか」

という質問が出たという。私は詳細は知らないが、市議会16人の動きの中心にいたのが元市議会議長だったとしても不思議ではない。市議の一人からそんな質問が出るのはその「間接証拠」であるとも思える。

次の「間接証拠」は、この元副議長が今春の市議選に出なかったことである。最初は

「どうしたんだろう?」

と話題になった。そのうち

「副市長になるんだってよ。何でも密約を交わしたらしい」

という話が出始めた。4月の選挙期間中に私はその話を聞き、

「あれまあ」

と呆れて4月17日の「らかす日誌」を書いたのであった。

その上、である。お節介な私は市長選後の5月初め、市内で行き会った現市長(その時点で絵はまだ就任前)に申し上げたのである。

「副市長人事でおかしな噂が出ていることは知ってるよね。あちこちで耳にしたが、噂通りの人事が実現したら変だと思うよ、俺も。行政が動かなくなり、市民の信頼が離れていくと思う」

あえて副市長候補の名前は挙げなかった。それでも十分に伝わると思った。

「はい、慎重に考えます」

と彼はいった。笑い飛ばさなかったことから、はあ、話はかなり進んでいるんだな、と判断した。しかし、まさか本当に実現するとは思わなかった。いや、思いたくなかった、ということかも知れない。

以上は、私の考えすぎかも知れない桐生市副市長を巡る動きである。単に2人が肝胆相照らす同志であるということかも知れない。2人で力を合わせて桐生を立て直そうと誓いを立てているだけかも知れない。

だが、副市長人事の評判は、私が知る人の中では極めて悪い。すでに10日ほど前から

「副市長人事が決まったそうですよ。もう市役所とは話は出来ないですね」

という若手経営者がいた。

「どうしたんだ、あいつ? 裏で金の力を使ったヤツがいるのでは?」

という反応を返す人がいた。

「もともと市には対して期待はしていないけど、でもねえ……」

と困惑を隠さない知人もいた。

今春の選挙で、現市長は2万8798票を得た。事前には市議16人の後押しも得て圧勝するだろうと言われていたが、相手候補の得票数は1万8758票である。決して圧勝ではない。かなりの批判票が相手候補に流れたとみるのが自然である。

「いまの市長は前市長の後継とみられていたから、これは前市長卯への批判票だ」

という人がいた。だが、それだけだろうか? 副市長人事の噂話は、よそ者であり、新聞記者でなくなってからは情報収集もしなくなった私の耳にまで選挙戦の最中に届いたのだ。多くの市民が噂話を耳にしたがゆえの批判票もかなり含まれているのではないか?

どうなる桐生市?
目につくことがあったら、また報告することにする。