07.17
私の頭は「老人化」が進んでいるのだろうか?
それにしても、今年の梅雨は珍しい。すでに7月17日になるのに、昼間でもクーラーが要らぬ。湿度は高いのかも知れないが、気温が低いのでジメジメしらない。実に過ごしやすい梅雨である。
加えて、本当によく雨が降る。我がふるさとは雨が降りすぎてかなり被害が出たらしいが、豪雨には見舞われていない桐生でも
「こんなに雨が降る梅雨は、過去にあったかな?」
というほどの長雨である。
長期予報では、今年の夏は「猛暑」らしいが、本当かいな? むしろ冷夏、冷害を危惧した方が良いのでは?
さて、今春から始めた高校数学は、やっと最初のハードルを乗り越え、整数論に進んだ。使用中の参考書「Focus Gold 4th Edition 数学Ⅰ+A」でいうと、441ページまで踏破した。
ハードルとは、「順列・組合せ」、それに「確率」である。この分野、簡単に言えば「数え方」を学ぶわけだが、これが何とも頭に入りにくい。高校数学の他の分野とまるで違う頭の働きが必要な気がする。問題を読んでいると、なんだか頭がするグル回りを始め、どこで出ていいのか分からなくなってしまう。何か、人を寄せ付けぬ、独特の構造をしているような気がする。
「数え落としがないよう、重複して数えることがないよう」
というのが原理原則だというが、「Focus Gold」の問題を解いていて、何度数え落としを、重複して数えたことか。ついには、自力解決を諦めて解答を見ても何でそうなるのか理解が届かない問題が増え始めた。
「いや、これはいかん」
と、雑誌増刊の「大学への数学 マスター・オブ・場合の数」というヤツに手を出した。実はこちらの方が「Focus Gold」よりはるかに難しい問題を並べていると分かって途方に暮れ、行きつ戻りつしながらの呻吟を続けた。
「1からnまでの異なる番号の着いたn個のボールを、区別のつかない3つの箱に入れる(空箱があっても良いものとする)場合、その入れ方は全部で何通りああか」
なんて問いかけられても、私の最初の反応は
「そんなものを数えて何になる?」
だから、あとは推して知るべし、だ。
もっと悪いことに、解答を読んでも、その論理について行けない。つまり、理解できない。
「東京出版といえば、数学の参考書では定評のあるところだ。その出版物の解答がこんなに分かりにくい日本語であっていいのか?」
と出版社を逆恨みしてふてくされるから、学習はなかなか進まない。この分野だけで1ヶ月も費やしただろうか。
普通なら、こけつまろびつしながらでもとりあえず通り過ぎれば、何となく一段高い丘に登ったような気になって全体を見渡す気分に浸るのだが、この分野だけ(ではないことが後の証明されるかも知れないが)は何ともならぬ。とりあえず通り過ぎた「Focus Gold」も「大学への数学 マスター・オブ・場合の数」も、
「復習をしよう」
などと殊勝に思い立って同じ問題にもう一度挑んでも、相変わらず頭を抱え、同じ間違いを犯し、解答を見て
「チンプンカンブン」
とつぶやいているはずの私である。新しいこと、苦手なことを克服する力がかなり衰えた。私の頭脳はすっかり「老人用」になってしまったのだろうか?
これでも昔は
「俺、数学は得意かも知れない」
と思った時期もあったのだから、人間、己の能力を正確に計るのは難事らしい。
にしてもだ。私、あの時、本当に大学に通ったのか? 裏口からじゃあなかったよな、とほっぺをつねってみたくもなる。
まあ、もう一度大学を受験しようなどという大それた意欲を持っているわけではない。頭を抱えて出来の悪さを嘆くのも楽しみの一つと考えればいいと割り切れるのが、ずっと昔に大学を出た(はずの)者の特権ではあるのだが。
いま思えば、こんな世界に耽溺するきっかけを作ったのは読書だった。法学部の出なのにもかかわらず、私は理系の本が好きである。宇宙論、進化論、脳科学、生物学、科学史の本など、ちょいと興味を惹かれれば読み始める。ページをめくると頻繁に数学が登場する。登場されるともうお手上げである。読む前から
「俺に理解できるはずはない」
と逃げの姿勢に入る。数式なんて目にしたくない。というわけで、手にした本は数あれど、半分以上理解できたと思える本は数えるほどしかない。情けない。
だから、
「数学に、せめて逃げだそうと思わない程度の親しみを感じたい」
とは長年の念願であった。
しかし、どうすれば親しめる?
「美人は3日見ると飽きる。〇〇は3日見ると慣れる」
とすれば、慣れるには、いやでも数学に挑む時間を持つしかない。でもなあ、面倒くさいよなあ、この歳でそんなことができうるのか? と1日延ばしにしているうちに四日市の啓樹が高校生になって、学校指定の「Focus Gold 4th Edition 数学Ⅰ+A」で勉強を始めた。
孫が高校生。ボスとしては大人の入り口にまで育ってしまった彼との接点を見いださねばならぬ。共通の話題の土台を持たねばならぬ。
「ふむ、同じ参考書をやれば、啓樹との会話のネタになるやも知れぬ」
と考えて踏み切ったのであった。
「Focus Gold」に費やしたレポート用紙はこれまで279枚。整数論を終えると図形問題に進む。図形問題ではコンパスや定規を使って図を描くのが入り口になるから、最終的には500枚に達するか。
変わった爺の変わった趣味、といいたければご勝手に。
変わった爺であることはとうに承知である。変わった趣味であることも、周りにホンの少し数学のはなしをしてみれば嫌でも気がつかざるを得ない。誰もまともに話に乗っては来ないのだから。
というわけで、これから「Focus Gold」の442ページ、「整数の除法」に挑みかかる私であった。