2021
01.02

タイトルを忘れてしまっていた。

らかす日誌

そこでしもやけである。

えっ、話の切り出し方が突然すぎる? そのような唐突感に襲われた方は昨日の「らかす日誌」をお読みいただきたい。「しもやけ」がちゃんと出てくる。今日は、その「しもやけ話」をさらに深化させようという魂胆である。

我が身のしもやけに気がついたのは3週間ほど前のことだった。
風呂に入り、洗髪するついでに耳の後ろもよく洗ってそのまま手を前に動かす、つまり耳を後ろから前に強くこすると、右耳にかすかな痛みを感じたのが始まりだった。チクリとするので、風呂から出て鏡で見ても何も見えない。手で触っても特別な違和感は感じない。

「どうしたんだろう?」

とは思うが、外見も手触りも特に変化がなければ

「気の迷いか?」

と思うしかない。しかし、翌日の入浴でも同じ痛みを、同じ場所に感じてしまう。しかし、触らねば何の痛みもない。実に不思議な現象が毎日続くのである。

「ひょっとしたら」

と思いついたのは12月23日、床屋の椅子に座っているときだった。

「ねえ、俺の右耳、ひょっとしてしもやけが出来てないか?」

今時しもやけ? 彼女は(私の担当は50を手前にした女性である)は素っ頓狂な声を出しながら私に右耳に顔を寄せいた。

「えーっ、これ、しもやけ? 信じらんない!」

私の右耳がしもやけの症状を示していることが確定した瞬間だった。信じるかどうかは彼女の勝手である。

しもやけ。確かに幼いころ、あのかゆいというか痛いというか、実に不思議な感覚が手足の指の先に赤く膨れた外見とともに宿った記憶がある。あのころ我が家は貧しかった。だから、多分栄養が足りず、全身を巡る血液が不足していたのだろう。
それに、当時の冬は寒かった。隙間風が遠慮なく吹き込む古い家屋で、暖房といえば電気炬燵程度しかない。
加えて、私は小学5年生の終わりから新聞配達をしていた。九州といえども冬場は寒い。わがふるさと大牟田市でも雪を見なかった冬は記憶にない。冬場、朝4時半頃布団を抜け出した私は耳を守る耳当てなど持つはずもなく、薄い毛糸の手袋程度しか寒さから耳を守る武器を持たなかった。
このような劣悪な暮らしをしていればしもやけは冬の訪れとともに、しもやけが友にならざるを得ない。

だが、長じるに及んで、多分体力がついたのだろう。大学を出て仕事を始めるとともに貧しさからも抜け出した。ということは栄養状態も改善されたということである。朝日新聞記者として全国を渡り歩いたが、引っ越し先は機密性の高いアパート、マンションが多く、暖房も石油ストーブからガスストーブ、そしてエアコンと、全館を温める方式に変わった。

しもやけ。だから私は子ども時代を終えた後、毎冬のように訪れていたしもやけという悪友とはすっかり縁が切れていたのである。

そのしもやけが、

「こんにちわ」

の挨拶もなく、再び遊びにやって来た。50年ぶり? 60年ぶり? これは笑うしかない。

右耳にしもやけを見つけたころ、私は両足のつま先に違和感を感じていた。その数日前に足の爪を切っていた私は

「深爪したのだろう」

と判断していた。手の爪に比べると、足の爪は切りにくい。寄る年波で体が硬くなった最近は、姿勢のとりにくさも加わって深爪をすることがままある。深爪だけでなく、爪の左右にわずかな切り残しが生じ、それが爪が伸びるに従って肉を圧迫することもある。これもかなり傷む。

深爪なのか、両端の切り残しなのか。目で見ても深爪とは見えない。爪の両端を手の爪で探っても切り残しは感じられない。ということは……、

「えーっ、足にもしもやけが出来たのかよ!」

しかし、このご時世に、極貧の食うや食わずで寒さに震える暮らしをしているわけでもないのにしもやけとは……。

「血の巡りが悪くなってるんだなあ」

1つは年齢のためだろう。手足の指の先の毛細血管が細くなってしまったか。それとも、血液を全身送り出す心臓の機能が弱ってきたか。
加えて、運動不足がある。何度も書いたが、田舎の暮らしは体に悪い。移動のほとんどは車頼り。両足を前後に動かしてテクテクと歩くなんてことはほとんどない。中でも、高台に移り住んだ3年半前からは、外出は車を使うしかなくなった。あの坂道を徒歩で登るなどということは、何度かチャレンジはしたが極めて拷問に近い。
ふくらはぎは第2の心臓とも言われる。血液循環に重大な役目を持っているらしい。歩かない→ふくらはぎの筋肉が衰える→しもやけ……。
そうそう、しもやけは足の指先だけでなく、左足のかかとにも2箇所もできているのである。とほほ……。

で、治療を始めた。手元にあったオロナインの効能書きを見たら「しもやけ」ともあった。こいつを朝晩、患部に擦り込む。
下半身の筋肉強化にも意を注ぐようになった。夏場から中断していたスクワットを再開した。30回から始めて35回に増やし、いまは40回である。入浴前のスケジュールとした。
TSUTAYAのCD返却に郵便ポストに行かねばならないが、これもよほどのことがない限り、菱郵便局まで歩くことにした。片道15分ほどかかるから1㎞程度か。戻りが上り坂になるので結構きつい。が、これも

「しもやけ、しもやけ、飛んでいけ!」

のためならやむを得ない。
頑張ってはいるのだが、しもやけはいまのところ治ってくれない。

以上が、突然襲ってきたしもやけと果敢に闘う私のレポートである。