2021
03.16

音を求めるオーディオ・リスナーのためのステレオ・プリアンプの製作 製作・調整編 2

音らかす

【電源部の配線】
これでD板も終わりました。本体に組み立てる前に、電源部の配線を済ませてしまいます。C23、C24およびC25の電源フィルタ・コンデンサと、C26、C27のヒータ用フィルタ・コンデンサを本体のC板に取り付けます。このとき、コンデンサのピンが、アース側といえども、絶対にシャシに接触しないように注意して下さい。取り付け穴をはじめから少し大きい目にあけておけば、その心配はありません。信号回路との間にB板が立ててありますので、ハムが漏れて来ることはありませんから、ラグ端子型コンデンサをビス止めするのに都合が良い程度の大きさの穴のつもりで、少々大きい目のほうが、間違いないかもしれません。

ヒータ用の電圧降下のためのホーロー抵抗は、R37の100Ωだけは、ハンダごてですぐ取りはずし出来るように付けておいたほうが良いと思います。トランスによって、あるいはAC電圧によって、ヒータ電圧が変わることがあるからです。6本の真空管がシリーズ点火になっていますので、11.6〜12.6Vの6倍で、69.6〜75.6Vに合わせる必要がありますので、もし間違って出たときに、R37の数値を取り換えることによって、調整出来るからです。

トランスにつながる整流ダイオードDS1Mの4本は組み立て後に取り付けたほうがやり易いと思います。もちろんトランスへ行くアース線は、太いより線を使用し、C25のアースピンから適当な長さのアース線を引き出しておきます。

電源部

【本体の組み立】
これで部品の配線が全部終ったわけです。いよいよ組み立てです。順序としては、A板にプリント配線回路を適当な金具を使って、両チャンネル背中合わせに取りつけます。そして、E板を本体に取りつけます(トランスは重いので後から付けたほうがよいでしょう)。真空管のピンから出ているプレート、カソードおよびグリッドのリード線を、プリント配線のラグ端子とつないで行きます。

これらの配線は、プレートが赤、グリッドが黄、カソードが青といった具合に色分けしておけば、あとで電圧チェックするときに楽く(?)です。

本体の実体図の右側に出ているB電源とヒータ電源用の線を、B板にあけてある穴を通して、電源部のほうへ引張りだして、この工程はオシマイ!

本体組立図

D板も同じ要領で本体に取りつけ、プリント基板につなぎ、入力ピン、出力ピンへ配線を済ませます。入力ピンのアース側は全部独立していますが、出力側は2つをまとめて、基板のアースに落とします。一緒に作った5人のうち1人の方が、このアースをとるのを忘れていて、メインアンプにつなぎ、電源を入れたら、しばらくして、びっくりするような音がスピーカから出て来て大あわて! くれぐれも気をつけましょう。高価なスピーカを飛ばしては、大損害です。

なお、フォノモータおよびトーンアームのアース点をプリアンプに持ってくるためのアースターミナル(第1図参照)が必要ですが、市販パーツ類にはマランツのようにガッシリした小物が、なかなかみつかりません。そこで、本機で採用した比較的手頃で、確実な方法を参考までに紹介しておきます。

まず、30芯ぐらいの太いより線の一端に丸い穴の空いたラグ端子を取り付け、プリント基板の横にもうけてある一点アースポイントに、ナットとワッシャーを使って、電気的にも機械的にも完全に取り付けます。その後、E板にある入力用ターミナル板のとなりに3mm穴をあけて、先程のアースポイントに装置したアース線を通して外に出し、その先端にスペード型ラグ端子を取り付けます。先に述べたプレーヤからのアース線類をつなぐには、3×6mmのボルトナットが適当でしょう。

一番、最後にトランスを取り付け、フィルタ・コンデンサからのアース線をトランスの各ポイントと結びます。ここでは、絶対にシャシにアースを落としてはいけません。これもハムの出る原因となります。ダイオード(DS1M)4本を使って、トランスと回路のB電源およびヒータ電源をつなぎます。ヒューズ、電源スイッチの配線が終われば全部オシマイ! やっと出来上がりました。

アンプが出来上がると、すぐにスピーカから音を出したがるのが人情ですが、これは絶対にいけません。必ず、次に述べる測定を先に行って下さい。

実体配線図

【測定と調整】
出来上ったら、ついうれしくなって、音を出してみたいものです。これは絶対にいけません。人間誰でも身び(い?)きというものがありまして、一旦音を聴いてしまいますと、“アラ”に気がつかず、これは良いとばかり、つい測定が億劫になるものです。そのくせ、しばらく聴いているうちに、“エクボ”にみえた“アバタ”ガ気になりはじめ、そのアンプが嫌いになり、放り出したまま、次のアンプを作るか、買うかするまで「音楽を聴くのをやめてしまう」というのでは、何のために苦労してアンプを作ったのか、わかりません。

まず、電圧のチェックをするのが順序でしょう。一番はじめに、V6の4番ピンとアースの間の電圧を調べます。69〜75Vの間であれば良いのですが、これより高いと、ヒータを焼き切る恐れがあります。また、低すぎますと、球の動作不良が考えられます。この場合は、先に述べたR36の100Ωホーロー抵抗を適当な値のものにとりかえます。もう一度スイッチを入れるときに、テスタを500Vレンジにして、プラス側を一番目のピン、つまり初段のプレートに当てたまま、アンプに灯を入れます。すぐに、メータが300V近くまで上がります。その後、20秒位たったら少しづつ下がってきて、150V位まで落ちて止まります。アンプの測定時、最初のテストが、この通りなったら、その後の場所の電圧チェックの必要がない位です。B+およびヒータ回路は全部合格です。この通りいかなければ、点検し直して下さい。

V3のグリッドが、回路図のように2〜3V(165V−126V=3V)(この計算は、私にわかりません。多分、126Vは162Vの誤植だと思うのですが=大道)カソードに対して、バイアスがかかっていなければなりません。もし、このバイアスがゼロであれば、ひずみの原因になります(0.6V以上あればいいということですので……)。

プレート電圧だけではなく、カソードの電圧も丁寧に調べましょう。V3のカソードは165Vもありますので、注意して計らないと、テスタをこわすことがあります。

電圧チェックが終わったところで、オシロにかけてみました。第15図の上段の波形です。AUXの入力から、MAIN OUTまでの測定で、トーンコントロールはもちろんバイパスしての話です。ボリューム、バランスを全開にして測れば、10Hzでも、もっと真四角な波形になるのですが、実際に聴くときには、両方とも大体中点まで動かしているわけですので、この場合にもその状態でのオシロ写真です。30〜20,000Hzまでが1dB以内におさめてありますので、カタログなどによく出ている周波数特性を±2dBであらわせば、30〜40,000Hzまでがその枠に入ります。

ところが、下の段をみて下さい。トーンコントロールを入れて、出来るだけフラットに近づけたときの写真です。100Hzと1kHzで、出来るだけバイパスしたときの波形に近いところで、ツマミを周波数的中点と思われるところにセットした状態です。10kHzではとんでもない波形になってしまいました。1kHzでも、印刷にどの位あらわれるかわかりませんが、右肩にかなりシャープなピークがみられます。中低域にピークがあり、高域がこんなに落ちてしまいます。といって、高域を持ち上げますと、余計妙なことになります。とにかく、トーンコントロールとは音をひずめ(ま?)させるための回路です。

これはまあ、バイパスするわけですから、こんなひずんだ周波数カーブを測定するのは、時間の無駄だと思いましたので省略してしまいました。

バイパスしたときの波形は、ごらんの通りですが、これをグラフにするために、各周波数で実測したのが第3表です。全部マイナスに出ているのですから、先ほど述べましたように、プラス・マイナスで30〜40,000Hzまで2dB以内です。一般に知られていますように、2dB以内の誤差は、かなり耳の良い人でも、聴きわけることは無理です。

RIAAについては、12月号で述べましたので、この位にして、調整について、少し説明いたしましょう。メインアンプと違って、プリアンプでは調整するところが一つもありませんが、本機では、半固定抵抗が両チャンネルとも5個づつあります。

TUNER、TAPE、AUXの入力レベルを耳で聴きながら、同じような曲を選んで調整します。ファックション・スイッチを切り換えたときに、いちいちボリュームをさわらなければならないのは不愉快です。これらの調整は、測定器をつかうより耳で行ったほうが良いようです。スピーカのくせや、能率までは電気的には計れないからです。

トーンコントロール用のレベルセット(VR5)は、前に述べましたように、耳ではかなり時間がかかります。つまり、中点に一番近いところを探すのが、耳ではたいへんですので、オシロ波形をたよりに、1000Hzでバイパス・スイッチを入れたり、はずしたりしたときに、その波形が同じ位の大きさになるところで、セットします。こうしておけば、バイパススイッチをトーンコントロールに入れたのが、わからない程度にスムーズに切りかわります。

最後がNF量調整用半固定抵抗です。一番楽な方法は両チャンネルとも、このB200Ωの半固定抵抗を、ゼロΩになるところまでまわしきって、レコードをかけます。このとき、ボリュームは半回転、つまり真ん中になるところにセットしておきます。そして、少しづつ両方をまわして行くと、音が大きくなっていきます。大きすぎずちいさすぎずない普段の大きさで、音が出て来るところまで回します。ついでに左右のボリュームをそろえるために、モノーラルのレコードを使って、中央から音が出てくるようにして、セットします。もちろん、バランス用つまみは中点に、つまり中央に合わせておくことは言うまでもありません。これで全行程が終わったわけです。

アース線は太いリード線を仕様