04.22
オーディオリスナーのための高性能プリメインアンプ メインアンプ部製作調整編 2
メインアンプの調整
組立てが終ったところで、いよいよ仕上げの段階に入ります。
調整と言っても、本機は、何度も何度もテストしたり、やり直したりしてありますので調整らしいものは殆んど不用です。
テスターJで、と良く言われますが、全く文字通りで、次に示す調整方法で、結果がその通り出れば、必ず本機の所定の特性は出ますので、測定器なしで作られた方も、わざわざ測定などを依頼される心配は全くありません。誤配線があれば、次に述べるように行きませんので、その通りに行ったら、巻末にある測定結果と同じものが出来上ります。安心して自分の作った音を楽しんで下さい。
まず電源部ですが、部品の不良、誤配線などを確かめるために、電圧を当ります。実体図のフイルタ・コンデンサからプリント基板へ配線するポイントで(回路図の電源部の右の端です)各々アースとの間に25Vプラス、マイナスに出ていれば0.K. 10%程度の誤差は平気です。
今迄に御質問を受けた方々の中にテスタがオンポロで大きく違って出た方が意外に大勢ありました。狂った物差で正確な寸法は計れないものです。中`には鹿児島から二度も長距離電話をかけてこられ、大騒ぎして、後でテスタが狂っていたのがわかって大笑い。いくら弘法筆を選ばずと言っても、オンボロの筆では文字は書けますまい。
基板のテスト及び調整に移るためには、プラス、マイナスそれぞれの電源を入れてやらなければなりませんが、シャーシの中に組み込んでしまうと、狭くてやり難いので、シャーシの電源部のフイルタ・コンデンサから50cmのリード線(ヨリ線)を、プラスが赤、マイナスが青、アースが自、と言う具合にハンダでつないで置いて、乾いたタオルなどの上に、出力の石をまだつながない基板を置いて、基板の出力側にならんでいるターミナルにつなぎます。もちろん片チャンネル毎にテストします。
この時には、スピーカ・ターミナルには負荷抵抗はまだつなぎません。VR1及びVR3はほぼ中点に、VR2を左いっぱいにまわして置くのを忘れないようにして下さい。
前に一度書きましたように、テスタのリード線の端に鰐口を付けたものを用意して、スピーカ・ターミナルにつなぎ、テスタを1~5V、DCレンジにして、いよいよスイッチオンです。
本機には、パワーアンプ用の電源スイッチが、後面パネルに付いていますので、このスイッチを利用すると良いでしょう。テスタの針が大きくふれて、直ぐに0V附近に戻ります。まだアンプに直流帰還がかかっていませんので、完全に0Vにはなりませんが、大体0Vになっていれば、誤配線はありません。もし出なければ、直ぐに電源を切って下さい。そのまま放って置くと、Q4かQ5のどちらかを飛ばしてしまいます。
トラブルの出た方のために、その対策を少々述べて見ます。
まず、Q4とQ5を基板から外し、各々の石のコレクタ、エミッタの穴に1~3kΩの抵抗値のそろった抵抗2個でつなぎます。石の代りをするためです。ハンダづけが出来たらもう一度スイッチを入れます。この時、トラブルの原因が、Q4かQ5にある時以外はスピーカ・ターミナルは0Vになりません。そして、回路編で述べた記事を参考に、 Q4、Q5のベースのところ、つまり、 Q3のコレクタがアースに対して0Vあたりになるようにすれば、自動的にスピーカ・ターミナルが0Vになるはずです。従ってトラブルの原因はQ1、Q2及びQ3の不良、抵抗コードの読み.違い、ハンダづけ不良と言う事になります。
原因がわかれば、Q4、Q5をもとに戻し、再びスイッチを入れると、今度は0Vになっているはずですが、それでもならなければ、Q4、Q5のいずれかが不良か、 R410、R411が駄日、つまり不良ハンダづけです。
(註)Q4、Q5が不良になったのは、Q3までのトラブルのために、 この石が飛んだのだと考えて下さい。
このテストが終るまで絶対に、出力トランジスタはつないではいけません。ペアーの出力の石を駄目にするだけですから。
いよいよ、本来の意味での調整に入ります。
前述のようにパワーの石の各足につないであるリード線、(コレクタを赤、ベースを黄、エミッタを青と言うように色別けして置くと誤配線を防ぎます。誤配線があると石を飛ばす恐れがある事を付加えて置きます)をプリント基板につなぎます。
シャーシから外してのテストですので、このリード線は長い目にして、放熱板と基板とを離して置いた方がテストが楽でしょう。
Q6(2SD188)のコレクタ側を外してテスタのリード線のプラス側をつなぎ、マイナス側をトランジスタQ6のコレクタ(を)つなぎます。+VCCと、トランジスタの間にテスタを入れてコレクタ電流を測るためです。レンジはDC100mAが読みやすいところを選びます。正確に調整するためにはもう一丁テスタがあれば便利です。これはスピーカ・ターミナルが0Vになっている事を確かめるためです。(少くとも250mV DCフルスケールのレンジをお勧めします)(第32図参照)
今度のテストには、スピーカの代りになるダミーロードをつながなければなりませんが、貴方のスピーカの都合で8Ωもで(でも?)16Ωも、どちらでもかまり(い)ません。
初めてアンプを自作される方のために第33図にその結線図を示します。つないだらまずお茶を一杯のんで、スイッチオン。余裕をもって作業を進めるためです。両方のテスタの針が一瞬大きくふれて、両方共0に近くなります。すべて順調。
並通このテストは、テスタの10Vレンジで行うのですが、例によって、アマチュアリズムに徹して、その回路及び材料での最高のものを作り上げるのには、 シビヤー過ぎる事はないと思います。
この時、多分テスタの針は0Vを指してはいないと思います。調整が完了すれば完全に0Vになりますので、次の行程に進んで下さい。
ところでVR3はほぼ中点になっているはずです。これでアンプのトータルゲインは電圧比で25倍、左いっぱいで20倍、右へ全開すれば30倍になりますので、この時に自分の好みに合わせます。ジェネレータとミリバルをお持ちの方は、この時に左右正確に希望するゲインに合わせると良いでしょう。次に述べる調整は、このところを決めてからでないと、後でゲィンを変えると、調整を始めからやり直す事になります。
VR2を右へゆっくりまわして行くと、ある点から急にコレクタ電流が流れ始めます。ダーリントン出力段のバイアスが立上ったわけです。
回路編で述べましたように、A級に少しでも近づけるために100mA流すわけですので、出力の石は、当然アイドリング状態でもかなりあたたまって来ますし、OTLアンプではA級に近づく程、静動作が落ちつくまでに5~10分かかります。従って、100mAを指したところで、すぐに電源を切ってはなりません。そのまま、 2~3分毎にテスタを見ると少しづつ電流値が増えて行くのがわかると思います。その都度VR2で100mAに合わせ直します。
まだスピーカ・ターミナルの電圧値も完全に0Vには落ち着いていないと思いますが、 これもVR1を左右にまれして合わせて置きます。もっとも、10Vレンジに切り換えると、ちゃんと0Vになっていますので、余りクリティカルになる必要はないと言う説もあるかも知れません。そんな方は、VR1の代りに5kΩの固定抵抗に置き換える、と良いと思います。10分位して、もう一度100mAに合わせたところで、VR1を静かにまわしてスピーカ・ターミナルが0Vになるように合わせて、調整は終ります。
VR1はB5kΩの予定でいたのですが、 石のパラツキもあって、B10kΩに変えました。もちろん右へまわせばスピーカ・ターミナルがプラス側へ動きます。左右いっぱいまわしても合わない時は、Q3を取り変えるのが妥当だと思います。この辺が球と違うところで、パラツキは付き物です。アンプメーカーだと、注文するときにバラツキの少いものを選ぶと言う事ですが、その代り1台1台測定しません。アマチュアが一台づつそれぞれ合わせるところに自作アンプの値打があるのだと思います。
この0Vは、R408・R409を変えても動きますが、調整の簡単な方を選びました。両チャンネル、それぞれ調整を終えたら出来上り。実体図を参考にシャーシに組込んで仕上りです。
スピーカ保護用ヒューズは速断性を使った方が安心です。大きさは、家庭で聞くためには8Ωでは1A、16Ωでは0.75Aが適当だと思います。オームの法測、 12R=Wに当てはめると、lA2x 8Ω=8W、0.75A2x16Ω=9Wで、それぞれ私のアンプに使用したヒューズの値です。スピーカを飛すのが心配だと言うノイローゼ気味の方は、25~30%少な目の値のヒューズを使って下さい。
測定結果についての説明が前後しました。実は本機を設計試作中に6度も大幅な回路変更を行いましたが、その都度、諸特性を測定しながら回路定数を決めて行ったわけですので、出来上って、音出しする以前に、改めて測定する必要がなかったわけです。
本項を参考に自作される方々のために、最終的な測定を行った結果を次にまとめて見る事にします。
トランジスタのOTLアンプの場合は特に歪率及び周波数特性など、私共の持っている測定器で測定する場合、その特性については、改めて見直す必要がない程良いものです。特に周数数特性については、わざわざC404(100pF)で、超高域にNFBを掛けて、落し気味にしなければならない程のびているもので、第34図の方形波テストで明らかなようにかなり低域からズーツと上の方まで素直にのびています。
従って、真先に調べたのが、アンプの安定度です。パワーアンプに関する限り、リレースイッチなど使ってありませんが、スイッチオンで、不思議な位、スピーカからは、何も聞えません。
問題は、あらゆる条件で、発振気味にならないか、と言う事です。先に述べました、差動アンプの共通エミッタ抵抗が10kΩ以下の折りには、負荷開放テストで、0。047μFあたりに難点が見られ、アイドリング電流を極端に少くした時に、寄生発振が見られましたが、 この段のコレクタ抵抗(3.3kΩ)を大きくする事により、共通エミッタ抵抗が大きくなりましたので、第35図に見られる通り、負荷開放時でも、10Ω負荷の折でもコンデンサによる発栃テストは全て、スンナリと合格します。
試みに、市販品のアンプを2~3点当って見ましたところ、全部、このテストでは、難点を示しました。やはり、アウトプットトランスを使っていないのと、出カコンデンサのないOCL設計では、全域にわたって、平均したNFBが掛け易いものだと思います。これは何も、ソリッドステートに限らず、管球式OTLアンプでも言える事だと思います。入出力特性はわざわざスペースを削いてまで載せる必要はないと思いますが、VR-3(B10kΩ)を左いっぱいで20倍、中点で25倍、右へまわし切ると30倍とそれぞれ、電圧比でゲインがとれますので、W数に換算したのが第36図です。図の(a)が16Ω用、(b)が8Ωのときである事は言うまでもありません(もちろん、ノンクリップ時での最大出力を基準にしたものです)。600Ω入カシャント時のS/N比は、残念ながら、私の持っているミリパル(トリオVT106及びVT106F)では測定出来ない程小さな値です。もちろん、スピーカからは、ハム・音もヒス音も全然出て来ません。
時々、お便りを頂いて、スピーカから出る、サーノイズについてのお尋ねがありますが、コーン型スコーカーには、独特のサーノイズが出るものもあるようですので、こんな方は、私にお便りを下さる前に、少し上等の出来ればホーン型スコーカーのついたシステムで試してから、お便りを下さい。忙しい時間をさいて、お返事を差上げたらスピーカのせいだったなんて方々にはもうこれからお返事は差上げません。どうもエチケットを心得ない方には困ったものだと、あえて紙面を借りて申し上げたいと思います。
真空管と違ってトランジスタは、何かのミスで飛ばしてしまう事が時々あります。しかも全く瞬間に飛んでしまい、その上、外見には何の変化にも見られません。もちろんトランジスタ・チエッカがあれば、簡単に見わけがつく上に、 hfe等の測定も出来るので、とても便利ですが、普通のテスタでも、ミスにより飛んでしまったかどうか位は見わける事が出来ます。
第37図はその見分け方の原理を示したものです。(a)がNPNの石で、電流の流れ具合だけを考えると、右側に示したように二つのダイオードを並べたものと考える事が出来ます。従ってベースからエミッタヘ、っ(これは不要です)コレクタからエミッタヘはそれぞれ電流を流す事が出来ますが、それぞれその逆方向に流す事は出来ません。つまり抵抗値が無限大になる訳です。だから、ダイォードの良否を見分ける時の要領で、ベースーエミッタ間、コレクターエミッタ間の導通をそれぞれ、順方向、逆方向に、テスタで当れば、そのトランジスタがショートしていたり、断線しているのを見分ける事が出来ます。
図にあるように、PNPの石は、流れの方向が逆になっているだけで、理屈は同じです。但し、テスタのオームレンジは内蔵バッテリーの関係で、プラス、マイナスが逆になっていますので、 リード線は逆に使わなければなりません。
以上でパワーアンプの製作のポイントが、おわかり頂いたと思います。
次号では、本機のメインアンプ部を独立させ、更にグレードアップした、パワーアンプについて述べる予定です。