2021
04.25

オーディオリスナーのための全段直結OCL式 純コンパワーアンプ 1

音らかす

4月号より連載したプリメインアンプのパワー部を独立させ、さらにグレードアツプしたパワ~アンプの製作。JBL 400 Sの回路を参考に、徹底的にひずみを追い出し、アイドリング電流を充分に流して、管球式アンプのウォームトーンとし、市販品中最高級パワーアンプの再生音に挑戦してみた。(測定結果と試聴は次号発表)

数回にわたって連載しましたソリッドステート・プリメインアンプが終ったところで、今回は先にお約束しましたように、同機のメインアンプ部のみ抜き出して、スペースにゆとりのあるシャーシに組み込み、回路定数を一部変更する事によって、出力段のアイドリング電流を更に大きくする事で、音質のグレードアップを計ったパワーアンプの製作について述べる事にします。

人それぞれ好みがあって、本機にもいわゆる普通のパワーアンプとしての使い(方)以外に方(不要)マルチアンプの低音用に4 chのパワーアンプに或いはサブシステム用にと、いろいろな使い方があると思いますが、パワーICを使った簡易型アンプにしても、一万円位の費用がかかる事を思えば、費用の点でも、組み立て易さの点でも、コンパクトな仕上りからも、パワーICによるものと、そんなに変わらなくて、本格的な音質と性能が期待出来る本機は、多少手前味嗜に聞えるかも知れませんが、とにかく魅力あるアンプだと思います。私も、現在、本機を自作のプリアンプ(クリスキット・マークV)につないで、自家用に使用しています。理由は、暑くなって来たのに応じるためですが、後で測定編でも述べますように、石くさい音は全然出て来ませんので、毎日不自由なく聴いております。例によって凝り性の私は何度も何度も、ソリッドステートはもちろん、管球式の内外の一流アンプと比較テストをやって見ました。出来るだけひずみを少なく、しかも回路は出来るだけ簡単に、という設計目標に徹底的にテストを重ねた甲斐があったと思います。とても石のアンプと思えない低音と、非常にクリヤーな中高音に完全に清足しています。おかげで、今年の真夏はそんなに暑い思いをしないで、音楽が楽しめそうです。したがって、4月号に書きました夏向きのアンプにぴったりのものだ、 と私は思っています。

回路について

前回のメインアンプ部と回路構成は全く同じで、違ってぃるところは出力段にかなり大きいアイドリング電流を流すためにドライバー段のエミッタ抵抗を小さくした事だけですが、念のために第1図にその全回路図を示しておきます。

第1図

パワーの石のアイドリングだけを増やしても、ドライバーがB級に近い動作をしていたのでは片手落ちという事になりかねません。

第1表がその使用部品の一覧表です。

第1表

トランスをサンスイRP-25を使ってもっとパワーを上げようか、とも思ったのですが、25Wといえば充分すぎる位の大きさですので、前回通りRP-22にしました。したがつて同じく±25Vの2電源方式に′変わりはありませんが今度は、コレクタ電流を150mAも流しますので、当然の事ながら、コレク夕電圧はごくわずか低くなるわりですが、テスタのボルトレンジの読み取り誤差もある上にトランスの内部抵抗が低いせぃか、ほとんど電圧は変わりませんでした。

回路に関するその他の事柄については本誌7月号を参照していただくとして、早速製作にかかる事にします。

製作に関する注意

今度は、プリメインと違って、パワーアンプだけですので、製作は比べものにならない位簡単です。製作時間も製作費もICパワーアンプと大差ありませんので、それこそ、今までにアンプを作った事のない方にでも、二晩か三晩位で、内外一流パワーアンプに比べて決して聴き劣りのしない本格的ソリッドステート・パワーアンプが出来上ります。宣伝するつもりはありませんが、今までに、私の発表したアンプを作ったり聴いたりされた方には、信じてもらえると思いますので、性能については今ここでとやかく言いませんし、測定も自分で行なわずに、後述のように有料の研究所に依頼して測ってもらう事にしている位です。

自分で測定した場合、どうしてもひいき目に測定器を読みがちなものです。それに、本機には充分自信がありましたので、試みに公認記録をとって見たかったわけです。

シャシは、始め市販品から選ぼうと考えたのですが、オリジナルなものにするために、今回も光栄電機産業に特注して作らせました。自作したいとお考えの方々のために、第2図にその寸法をのせておきます。寸法の割りに贅沢だと思ったのですが、 0.8m/mの鋼板を使用しましたので、ガッチリとしたものが、専門家の手で出来上って来て大いに満足しています。

第2図

色は下部をシルバーグレーのハンマートーン、カバーを黒のちりめん仕上げの焼付け塗装で仕上げましたので、10年位使っても、 ビクともしないと思います。鉄板ですので私共アマチュアの持っているシャシパンチでは穴があく前に、手に豆が出来てしまいますので、シャシ屋さんで機械加工してもらいました。専門家だと、ゲージや治具を使いますので、全く正確に穴があきます。仕上りはメーカー製アンプと同等のものになるのは当然です。シャシカバーの天丼に穴をあけなかったのはトランジスタであるために発熱量も大した事がありませんし、こうしておけば、シャシの中にホコリがたまらなくて良いと思ったからです。これも市販品のシャシを使わなかった理由の一つで、パンチングメタル(Perforated Sheet metal)から作ったものは、 コスト的にはいくらか有利ですが、上のような理由は、オーディォファンの方々には経験ずみの事と思います。

第4図

パワートランジスタの放熱板は、市販品のうちから適当なものを選びましたが、A級に近い程電流を流しますので、放熱効果を完全にするために第3図のような構造で1m/m厚の鋼板で、 シャーシに熱を逃がすように設計しました。おかげで150mAもアイドリング電流を流しているのに、そんなに熱くなりません。これなら室温が40°C近くになっても、全然トラブルは起らないと思います。プリメインの時には、一枚のプリント基板に両チャンネルの部品を全部とりつけたのですが、本機では、スペースに余裕がありますので、左右両チャンネルー枚ずつ分けました。取りつけの関係上、基板はまわりにブランクスペースがありますので、配線を容易にするために、八本のラグ端子はあらかじめドライバーの先で、第4図のように、上に折りまげて置くとハンダづけが楽だと思います。

第3図

部品を基板に取り付けるのに、別に変わった事はありませんので、パターンと部品の配置を第5図に示すだけにとどめますが、例によって、ハンダづけ不良が出ないように、念のために申添えて置きます。試作品でテストして見ましたが、スコーカ、ツイータ、及びウーはから全然ノイズが出て来ませんでした。(アルテックA-7及びJBLランサー101による)(UL規格WAG-22)

第5図

組み立て順序には、それぞれのやり方があって、一概には言えませんが、パヮートランジスタの足とプリント基板をつなぐ線は先にトランジスタの方に、単線とコレクタが赤、ベースが黄エミッタが青と色別けして、ハンダづけして置き、後でその線の先を、基板のそれぞれの穴に入れて、箔の方からハングづけするのが一番やり易いと思います。

パワートランジスタのベースとエミッタの足は、放熱板の裏からそんなつき出していませんので、内径2.3m/mのビニールチュープを使って、 リード線とトランジスタの足のつぎ目に30m/m位に切ってスリーブをかぶせて置きます。リード線をハングづけした後で、リード線の端にさし込み、放熱板の穴のところまですべり込ませるように入れておくと、パワートランジスタの足のところでシヨートするおそれがあります。

マイカフィルムが破れていたりしてパワートランジスタのコレクタが放熱板にショートしていないかをテスタで良く確かめます。私はここで一度失敗して、後でやり直すのに苦労しました。

途中で電流値などをテスタで計る時に、わざわざ外す事もありますので、リード線の端を第6図のようにフックして、ラグ穴に通さないでハングのみで取り付けた方が、仕事がきれいに上ります。

第6図

プリメィンアンプの時には、出力段のコレクタ電流を一般に使われているB級動作を基準とした分量の二、三倍のところにバイアスをセットしたのですが、それでもわずかに100mAでしたので、プリドライバのコレクタ電圧を制御するための、温度補償用ダイオードはプリント基板に取り付けるように設計しました。

オシロスコープを眺めながら、コレクタ電流を少しづつ増やして行くと、30mA位でクロスオーバー(ハツチング)歪は消えてしまいますので、100mA(16Ω負荷時)も流せば充分だと言う考え方もあります。けれど、B級増幅ソリッドステートアンプの問題点は、いろいろの資料であれこれ論議されている事実を見のがすわけにも参りません。どこまでも、音を求めるオーディオリスナーとしては、ここで妥協するのも芸のない話で、あれこれ実験して、それから得られた資料をもとにして、150mAのコレクタ電流を安定させる事に成功しました。永い問、 くり返し行なった実験が実を結んだのだ、と私は思います。

半導体には、温度が上昇すると、抵抗値が減るという性質があり、これは先天的なもので、残念ながらどうする事も出来ません。それをいくらかでも防ごうとしたのが温度補償回路である事は、今更申し上げるまでもありません。温度補償に、サーミスタを使用するには、かなり大がかりな実験設備が必要で、適格な部品を選び出すのは、アマチュアには、労多くして功少し、という事になりかねません。

温度補償の最も手軽な方法に、シリコンダイオードがありますが、温度によってコレクタ電流が増える性質を持っているパワートランジスタから離して、フ°リント基板に取りつけて置いたのでは、あまり効果がありません。

毒をもって毒を制する、という言葉があります。本機ではトランジスタが温度の上昇と共に抵抗値が減る性質を逆に利用して、温度補償を行なったわけです。トランジスタ・マニアルから、2S9C84を選びました。

先月号に述べましたように、トランジスタは二つのダイオードを一緒にしたものだと考えられますが、コレクタ—エミッタ間は、ベースにバイアスを掛けてやらなければ電流は流れませんので、コレクタ端子をチョン切って、ベース—エミッタ間を利用します。第7図がその取り付け方とつなぎ方です。端子を間違えないように、テスタで必ず当ります。ほとんどのテスタは、内蔵電池の関係で、電流が⊖端子から⊕端子に流れるようになっていますのでリード線を逆にテスタに差し込んで当ると勘違いが防げます。極性の解っているダイオードと比べて見るのも、その方法の一つです。

第7図

このように組み立てた3本のシリコントランジスタの両端をプリント基板とリード線を作って、ハンダづけするわけですが、VR-2から、Q3のコレクタに向って電流が流れるようにつなぐのは言うまでもありません。

電源用フィルタ・コンデンサから、基板に印加される電源用フックアップワイヤー(U L1007)は電源部のテストが終って、正常に働いているのを確めた上で配線すると、つけたり外したりの手間が省けます。

シャシの組み立て等に使用する3m/mのボルトナットの締めつけにはロックワツシヤーか、スプリングワッシャーを必ず使います。案外はずれ易いものです。

以上の要点を守っているかぎり、絶対と言って良いほどトラブルは出ませんので、文字通り、誰にでも最高級のトランジスタ・アンプが出来ると思います。

パワートランジスタを放熱板に取り付けるのに、 シリコングリースか、サーマルコンパウンドかが、良く論議されるものですが、サーマルコンパウンドはシリコングリースにいろいろなものを配合してありますので、“キストロール” 800のように、真白い色をしているものです。

業務用の大がかりな装置の場合は止むを得ませんが、たかがステレオアンプのパワーの石位のものだと、シリコングリースでもサーマルコンパウンでも大した差は出ないものです。従って、放熱板にはみ出して白く汚してしまうおそれのあるサーマルコンパウンドはしろうとには使いにくので、シリコングリースをお使いになる事をおすすめします。幸いな事に、シリコンなどの高分子化合物は私の本職ですので、 メーカーに交渉して2グラムのチュープ入りを作らせて、星電パーツ(神戸市生田区三ノ官町3丁目3-19)にお世話しましたので、希望者はお問い合わせ下さい。

シリコングリースだと透明に近いので、放熱板にはみ出しても見ぐるしくなく、仕上りがきれいです。

知り合いの方々のアンプ組立てのお手伝いをした時にアース線(プリント基板の入力側と電源トランスの端子の二点)を忘れている人がありました。実体図を参照して下さい。

実体図