2021
04.27

オーディオリスナーのための全段直結OCL式 純コンパワーアンプ 測定・ヒアリングテスト

音らかす

いつも書いていますように、オーディオアンプから出て来る音と、そのアンプの電気的特性との間には、理論的なつながりがつけにくいものです。けれどあくまで交流理論にもとづいて設計され、製作されたものであるかぎり、電気的測定は無視するわけにはまいりません。普段は自分で測定するのですが、前月号に書きましたように、自分で測定するより、研究所に依頼した方が公共性があるし、自分で測定するときに起りがちな、 ヒイキ目がなくなると思いましたので、井草音響研究所にお願いしてデータを出してもらいましたので、スペースを借りて発表します。

二通りのデータを取ってあります。一つは、Q3の補正コンデンサーに100pFを、 もう一つは30pFを入れたときの分です。結果は理屈通り、30pFの方が周波数特性も、歪率も良くなっています。

けれども、オーディオリスナーのためのアンプですのであくまでヒアリングテストによった設計として、私は100p Fの方をとりました。これは勿論、自家用のスピーカーシステムと、ランサー101及び、LE―8Tによるもので、他のスピーカを使い、もっと良く設計されたリスニングルームでは、また違った意見になるかも知れません。

第1図

どうも私は耳があまり良くないと見えて、オーディオジェネレーターを使ってテストして見ても、16,000 Hzは全然聴きとれません。むしろ、歪とかクロストーク、或いは発振とかの方が、音楽を聴いていて耳ざわりだと思います。

したがって、とかく、トラブルの出がちな音域特性を上の方までのぼすよりは、100pFを使って可聴周波数より上を切ってしまった方が良いと考えたわけです。このアンプが石くさい音が全然感じられないのも、このあたりに負うところが多かったのだと思います

歪率では、低域が良すぎるので、かえって高域で歪が増えているのが目立ちました。それでも0.5%きぃう値は市販の高級品に比べて決してヒケはとっていないところから見て、直結差動、純コンの良さが解ります。現在NECの技術課と話し合い中で、Q4~とQ7をもっと新しいものにとり換えると高域特性が低域なみに少なくなるかも知れません。

ダンピングファクターが、非常にまっすぐで、しかも25といぅのは、全くねらい通りでした。市販品は最低45というのが、ソリッドステートの常識になっています。最近になって、低帰還、無帰還という言葉に出合います。NFBとぃう技術はまことに重宝なもので、S/Nを良く、歪を減らし、周波数特性をのばすという、ハィファイにとってはまことに便利なものですが、深すぎると音がカタクなり、あまりとぎすまされて、つめたい感じになりがちです。

ソリッドステートァンプは全般にNFBが深すぎる、というより、深くかけないと、歪がとりにくいという欠点が、石ギライを作る原因になっているようです。        ・

したがって私は設計に先だって、このNFBを出来るだけ浅く、という事に一番重点をおきました。石で、これだけNFBを少なくしても尚、これだけの低歪にする事が出来たのは、我ながら、大成功だったようです。

例によって、何かお解りにならない点がございましたら、遠慮なく御質問下さい。

ヒアリングについては手前ミソな事を書くより、電波技術ライターの、古江賢二氏におねがいしました。

測定データの考察   井草篤正

桝谷氏のアンプは今まで何10回も測定をしました。こう書くと読者の方も驚ろかれることでしょうが全く嘘でもありません。つまり、クリスキットのプリ、パワーアンプを沢山測定しているから、つまるところ桝谷氏のアンプを測定しているわけです。

使用機器

そしてその性能も恐らく桝谷氏以上に(オーバーですかな?)知っているつもりであるし、殆んどの方が桝谷氏の発表されたデータ以上に良い特性が得られていることも知っています(計測した方はもっと良く知っているのだ)。これは桝谷氏がデータを正確に、かえって控え目に発表している証拠といえるでしょう。

さて、前置きが長くなりそうなのでこの辺で本題へgo!。データは図示の通りです。歪率特性の10kHzが一寸気になりますが、位相補正の問題ではないし、前段の石そのものに原因がありそうです。それにしても特に悪いというデータでもないですし、音の方で満足ならば大して気にする必要はないでしよう。しかし、今後の課題として検討する余地はあると思います。

入力電圧対出力電力特性

各出力における周波数特性

出力電力対高調波歪率特性

周波数対ダンピングファクタ特性

データ以外のチェックポイントを述べましょう。まず、位相補正を 30pFにしても、全部取り去っても発振の心配は全くありません。リアクタンス負荷にも強いことを示してくれます。リサ~ジュ波形では補正なしが一番きれいな歪の形態を示しました。

左右chの出力偏差は0.2dBで文句なしです。両ch同時出力の最大出力は20w×2で、その時のVccは21.5Vとなりました。パワートランスのレギュレーションの問題です。片ch最大出力ではVccが22.7Vに低下します。

SW投入時の中点電位のフラツキは0.2Vでまずまずでしょう。残留雑音はLch=0.35mV、 Rch=0.24mVですが、 これはこのアンプの最低と最大の範囲を示す値と思われます。

DFは中域で25ですが高域における低下は位相補正(この場合100pF)による出カインピーダンスの高化が考えられます。トラアンプで25という値は低い方です。しかし、この値が音質を左右するかどうかは凝間の点があります。低域においてはDFの差が音質に出るのはDF≒3以下です。

データはヒイキ目なしの公正なもので、却ってカラク測定したつもりです。尚、セットに関しては位相補正(1〜2文字、消失)取り替え以外、全くノータッチで、測定を致しました。

 

〔訂正〕 9月号60ページ純コンパワーアンプの製作記事中あやまりがありました。お詑びして訂正いたします。

◉61ページ全回路中「F1Ax2」を「2 SC984x3」に訂正

◉64ページ中段上から2行日「ショートする恐れがある」を「ショートする恐れがありません」に訂正

◉67ページ中段1行日「ブリッジ型ダイオードのフィルタ」を「リッジ型ダイオードか、フィルタ」に訂正

◉67ページ第7図VR2とQ3コレクタがあべこべになっています

◉68ページ中段5行日「1%5kΩ」は「1~5kΩ」に訂正。

井草音響研究所について

本誌でお馴染みの井草篤正氏が主宰する「アマチュアの自作アンプを測定」している所です。国産最高級の全自動歪率計を駆使してその性能を確認してくれます。本誌ライターの方々を始め、多くのマニアの人達が利用し、安心して良い音を楽しんでいます。詳細は電話をしてみると良いでしょう。

TELは0423-23-5859です。

アンプ・リスニング・レポート

トラらしからぬ低音‐
   魅惑的な美しい中音域

「ソリッド・ステート・トアンプは石臭くジャリッと感じ、分離性、ダイナミックレンジが劣るうえ音に全く温みがない…云々」。これが管球アンプ党の石に対する酷評であるが、最近のメーカー製一流製品は優れたパワーTRの採用や回路設計により高忠実度再生の優劣にこのような往年の批評はナンセンスであろう。
本機ソリッドステートアンプの場合、全段直結OCL―ピュァコン回路として、申し分なく構成させたマニア好みのカスタム・メイド・アンプである。「トラの音!」「石臭い!」を全く解消した球のごとき音が大きな特長である。
設計者の桝谷氏は、管球式の内外一流アンプを十分に耳にし、これと比較試聴して完成させたそうであるが、なるほどと思わせる球の雰囲気をもつ石のアンプである。
プリアンプに、トリオHi―ATC KA-6004を流用して各社カートリッジ、各社スピーカと切換試聴を行なったが、入力の余裕度、十分なパワー、力強い低音、クリアーな中・高音域と、まずは回路理論通りの性能発揮である。
クラシック・シンフォニーの分解能の素晴しさや、豊かな表現力も申し分なく、敢えてスピーカ・システムにコーラルのBETA-10(バックロ~デッド・ホーンBox入り)を接続したが、その鮮明にして豊麗な再生音は、まさに石のアンプから完全に脱皮している感覚である。(古江賢二)