05.13
桝谷英哉のよもやま講座 マルチスピーカーの考え方のⅢ その3
基板とコントロールとの結線
オーティオ回路と可変パーツとをつなぐ部分はすべて回路インピーダンスの低いところなので、沢山の配線が交錯しているのを糸で結えてしまっても信号が隣の線に移る必要はない。
出鱈日配線といって、長いのや短い線をこちゃごちゃに張りまわした自作アンプを見る事がある。クリスキットには非常にしっかりした線を使ってあるので無造作に配線してゆくと束にしてあった時の巻きぐせをつけたままになるので見苦しいものだ。線がゆがんでいたからといって、音がゆがむものではないが、長く愛用するものだから丁寧に作りたい。
後日手を加えたりトラブルが出た時の点検の折にこれ等の線の束(Har‐ness)には色別けを良く考ぇておいた方が良い。アースには白を使い、Vccのラインには赤を使えばのこり7色を後日の改造点検の事と考えて選ぶ。
出来ればハンカチの古いものなどで線を良くしごいて真直にしてから配するくらいの愛情を持って組み立てればトラブルは出ないものだ。
マルチアンプは高級機なのだ。出鱈目に作るぐらいならはなから手を出さない方が良い。広告面などでお知らせしたように、全国で60名位の方々が、クリスキットの組み立てを手伝ってあげようといっていただいているのだから、その人達に組み立てを依頼するのも一つの方法だと思う。
抵抗体のカラーコード
何時の時代からか、電子部品にカラーコードが使われるようになった。特に抵抗体は世界中100%カラーコード化されている。
第22図がその一覧表で、カラーバンドの4番目はクリスキットでは全部精密級(±2%)のものを使ってあるのですべて赤。のこり3本を左から、緑(5)青(6)赤(00)で5,600Ωつまり5.6k Ωといった具合に読んで行く。そして、一本一本テスターのオームレンジを使って、それぞれの数値をチェックしていく。回路の理解を早め、テスターの使い方に馴れる。一石二鳥だ。
なお抵抗体の内部に湿気が入ると、電流を流した折にノイズが出る。そのために、本機に使ったリケノーム1/2G(2%級)は内部が仕上がって、外側にエポキシで封入する前に、乾燥のために電気炉の中で数時間焼いてある。リード線がピカッと光っていないで灰色になっているのはそのせいである。
このまま配線すると、ハンダ付け部分に接触不良を起こす事がある。たとえその時はうまくついていても、後日、錆が出て片方音が出なくなったりするものだ。
古いナイフまたは、小形のマイナスドライパーなどで擦ると、ピカッと光るのでハンダ付けが完全になる。
自作して見てトラブルにぶつかるのはほとんど100%この配線作業に原因するもものだ。
点検
どんな工場でも何かを作る工程で、必ず点検をするものである。
カラーテレビを例にとって見よう。もし、作業工程中に点検する設備がなかったとする。完全に組み上がって出荷寸前に検査をして、もし一台でも映らないのが出て来たら大変な騒ぎになる。もう一度キャビネットを開けてまるで修理サービスマンが壊れたテレビを修理するような作業が要求される事になる。
だから、テレビの流れ作業では工程毎に点検台があって、途中検査をしながら組み立てて行くようになっている。こうしておけば、万一部品の基板への接触不良があっても、その時点で発見出来る。
ついでに述べておくが、この中間テストに限らず、 トラブルが出るのはハンダづけ不良のためであって、部品が新しいうちから壊れている事はまずないものだ。
しからばどうやって中間テスト(点検)をやるか、という質問があるかも知れぬ。
もう一度前月号、前々月号を読んでいただこう。トランジスターのエミッターフォロアーでは、ベース(B)の電圧がその右のVcc、つまリコレクター(C)の電圧のほぼ半分。そして、エミッター(E)はBより約0.6V低く(不要)ければ、その右は正常に働いていると述べた。(例C=30V、B=15V、E=15−0.6=14.4V)ここで、なる程とうなずけたら、その人はものを考えるクセがつきはじめたと思って差支えない。
球なら解るが、石の方はどうもなんてツジツマの合わないいいわけをしなくてもすむ。もしこんな考えを持って居られる方があれば、「無線と実験』58年9月号117頁をお読みになると良い。
このようにして、トランジスターのテスターによる点検するのには、そんなに高級な測定器は無用の長物。まして、 トラボルと呼ばれる電圧計など全く意味がない。それではどんなテスターが良いか、という電話が入る。これを予防するために次の2機種をあげておく。両機種共、そんなに高価なものでもないし、電気カミソリ、アイロンなどが毀れた折などにテスターがあれば、自分で直せる故障なのか、トラブルが内部に発生しているのでメーカーのサービスステーションに持ち込まなければならないのかの判断が出来る。
また、時計などの電池の消耗度も測る事が出来るので、家庭の常備品の一つにされる事をお勧めする。
SANWA F‐80 TR‐D Analog
SANWA MD‐150C Digital
上記2機種が最良というわけではない。F-80の方は筆者がもうかれこれ20年ばかり使っているし、最近入手したMDも、ちょっとした測定にわざわざ測定台のところまで行かずに、机の抽出しから出して使うのにとても便利だ。しかも、どちらも¥10,000以下で、取リ扱いが簡単である。
もう一度ことわっておくが、三和の人々は筆者がこの記事を書いている事すら気がついてはいまい。だから評論記事のつもリはないし、二個とも自分の銭(かね)で自分が使うために買ったものである。トラボルなんて全く無用の長物。筆者のも、滅多に使わないせいか、大きく狂ってしまって使いものにならなくなった。
このように途中点検をしながら作業を進めて行くのだが、周波数の切り換え用のボリュームと、プリント基板をつなぐところでひと工夫。
ハンダメッキより線の先端を2 mmばかり皮を剥いて、基板の穴に入れて、裏でハンダ付けする。最もオーソドックスなやり方である。ところがこの方法だと後日トラブルが出た折などに、基板の取外しが厄介だという考え方もある。どちらの方法を取っても音質には全く無関係なので、作る人の自由である。
後者は、パーツセットに入っているフィルムコンデン十一の足を切り取ったのを捨てないで、それを利用してフックを作り、第23図のようにあらかじめプリント基板にフックを作っておいて、それにリード線をひっかけてハンタづけする方法だ。洋裁に使う真鋳製の虫ピンがしっかりしていて、事務用のように鉄を使ってないので、錆びる事がないので、この方法に良い材料だ。頭を使う事。
いずれの方法でも、リード線を先に基板の方にハング付けしておいて、一本一本ハンカチなどでしごいて真っ直ぐにしてから、それぞれの位置で折り曲げ、全部を紐でしばって束にする。電線の長さはシャーシーのフロントパネルに取りつけるコントロール類につなぐので、それぞれ、ほぼ5cmずつ長目に切り落しておく。
いうまでもないが、コントロールの各ピンの内、基板に最も近い方からハンダづけして行くと、仕事がやり易いと思う。老婆心。
試聴
オーディオショップなどで解ったような顔をして、切換えスイッチをポンポン切り換えながら、多少顔をしかめて、マニアぶつている人を見かける。先輩としてコンポーネントの品物選びに友人について来ているのであろう。
音に関してはマカシトキ、というわけであろう。
オーディオの音なんてものはこんな事ぐらいで判るものではない。自分の家でじっくり聴いて一つ一つ気になる欠点をとって行く。
まず、前記の要領でちょうど良い大きさの音量にして、高低共1,000Hzにセットする。この状態で少なくとも一週間はじっくりと聴き込む。重ねて述べるが、この間中、絶対に周波数つまみは触ってはいけない。神経が散ってしまって、悪いくせがつき、何時まで経っても適格な音にまとめる事が出来ないからである。勿論、高音用のレベルコントロールは少しずつ上げたり下げたりする。曲によっては高音を少し引っ込めなければならないのもあるし、高音に少々張りを持たせた方が良い場合もある。
プログラムソースは、このテスト期間中はなるべく日頃から自分で良い音だと思っているレコードなリテープのみを鳴らすと、音のパランスが取りやすい。
ある程度落ちついたところで、ホルストの惑星のうち天王星・魔術師、ストラビンスキーの春の祭典、モーツアルトのフルートとハープのための協奏曲、ベートーベンの第9交響曲の第4楽章など、管絃がフォルテで入り混じった曲または、大合唱などを鳴らして見る。今までのネットワークとアッテネーターの頃に比べて楽音が楽器毎に非常に明瞭に分離するのが判る。音の分解能が良くなったからだ。
次に考えられるのは、高低両ユニットの下限、上限の音のにごりを見つける事である。高音ユニットによっては2,000Hzより低い音を出すとにごりを伴うものもあるし、低音用スピーカーから出る8ooHzより高い音が何となくウジウジという雑音を含んでいるのもある。周波数切り換えつまみは、この点を補正するためにある。
また、部屋によっては、1,000Hzあたりに残響音のビークがある場合もある。こんな場合には、高音を1,200Hz、低音を800Hzで切る。電気的にいえば、1,000Hzあたりに−4dBぐらいのデイップを作るのである。洋間でライブ気味な部屋の場合これで落着く事がある。
要は自分の好みに音作りをする事である。
中には野次馬のオーディオ仲間がいて、あれこれ嘴をつっ込んで来て、相手を欲求不満にさせて自己満足をしている可愛想なマニアも世の中には随分いるものだ。
君子危うきに近寄らずと知るべきだ。
私が気に入ってるのだから良いじゃないか、貴方は貴方で自分の気に入った音づくりをなさったら、 これで良い。